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「タルト」は、「一六タルト」だけだと思っていた。

 タルト、といえば、一般的には、フルーツが載っているケーキだと思うけれど、私にとって、小さい頃は「一六タルト」だった。あんこをカステラで巻いたお菓子だった。

タルト

 それは、愛媛県松山市出身の身内がいて、デパートなどの物産展があったりすると、必ず、故郷の銘菓として買ってきて、食べていたからだと思う。

 近所に洋菓子屋やケーキ屋がなかったし、今よりも、スイーツ(というよりはデザートと言われていた)が豊富ではない昭和の時代だから、「一六タルト」で、十分以上に美味しく感じていた。

 それは、地域限定の食べ物であり、少し考えたら、洋菓子か和菓子か分からない食べ物でもあったのだけど、小さい頃に食べていると、理屈では、ケーキのタルトの方がメジャーだし、一般的なのだけど、今でも「タルト」と聞くと、反射的には、松山の「タルト」が頭に浮かぶ。

 小さい時に、一度、刷り込まれるように覚えたことは、ずっと残る。
 それも、身内のふるさと自慢と同時に覚えさせられた食べ物の記憶は、特に強く残り続けるようだ。

一六

 そして、身内が買ってきてくれる「タルト」は、必ず「一六タルト」だった。

 大人になると、どうやら、愛媛県にしかないようなローカルな菓子であるのは、当然だけど、分かってきた。他では見ないし、「タルト」というのが、一般的にはフルーツを乗せたケーキだと分かると、より、松山の「タルト」のローカルさを強く感じるようになった。

 ずっと食べてきたのは、「一六タルト」だったから、ごく自然に松山の「タルト」のイメージは、「一六タルト」で、それ以外にないと、ずっと思っていたし、それについては、何の疑問も持っていなかった。

ハタダ

 つい最近、お土産をいただいた。
 ご夫婦で、いつも気にかけてくれる方々なのだけど、四国へ旅行したあとだった。

 そこには、タルト、という文字。
 記憶の中にある「一六」の黄色いパッケージとは違っていて、知らないうちにデザインを変更したと思ったら、そこには「ハタダ」という名前があった。

 最初は、新しいメーカーかと思った。もしくは、松山ではなく、違う場所で「タルト」を作っているのかと思った。

 食べると、懐かしい味に加えて、栗が入っていて、おいしかった。
 初めて食べる味だった。

人気メーカー6社 

 少し検索するだけで、すぐにこの記事↑が出てきた。

「一六」や、「ハタダ」だけでなく、この愛媛県のブロガーの方によると、少なくとも6社は人気メーカーがあるようで、とてもローカルなお菓子に、これだけの需要があることに改めて、少し驚くのと同時に、タルトを製造しているかもしれない会社が、200社あるらしいことも、初めて知った。

 そして、この「タルト」の歴史が、江戸時代に始まることや、「一六」は老舗だけど、「ハタダ」もかなりの歴史があること。さらには、「タルト」にも、様々な種類があることも、やはり初めて知った。

違う時間

 もし、お土産にいただくことがなかったら、もしかしたら、これからずっと「松山銘菓のタルトは、一六タルトだけ」と思い続け、そのことに疑問を持たないまま、生きていったかもしれない、と思うと、すでに、これまでの自分とは「違う時間」を生きていることになる。

 その表現は大げさだけど、どれだけ知らないことが多いのか。そして、これだけすぐに調べられる時代になっても、そのきっかけがなければ、知らないままであることに、ちょっと不思議な気持ちになり、何かを知ることも運次第だったり、巡り合わせだと思うと、「とても大事なことを知らないままの時間」を、今も自覚がないまま過ごしている可能性も高い。

 ちょっと怖いけど、でも、それが自分の限界なのだろうと、脱力したような思いにもなる。

 これも、大げさだけど、そんなことを、「ハタダ栗タルト」で、教えられたのかもしれない。




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