続・セミの抜け殻。
ずっとその気配すらないのに、毎年７月の末からセミが鳴き始めると、庭のあちこちにセミの抜け殻が目立ち始める。それは、８月の末くらいまで続く。
土の下にずっと幼虫として生きていて、そして、夏になったと思われるある時に、急に地面に出てきて、それから、草花や家の壁や柱、思った以上にいろいろな場所に、気がついたら抜け殻だけが残されている。
羽化の時間
それほど広くない庭で、場所も限られていて、高枝切りバサミなどが置いてあり、ゴチャゴチャしているのに、そして、最近は特に家にいる時間も長く、ポストに郵便物が来ているかどうかを、比較的マメに見に行くので、庭に出る機会も多いのに、セミの羽化を見ることはほとんどない。
一度だけ、夜中の１２時頃に、洗濯機を置いてあるそばの、家の木材の壁かどこかに、セミの抜け殻があると思った。それは、よく見るとサナギ状態になっていて、つまりはこれから羽化する時だった。
こんなタイミングに立ち会えたのは初めてだった。
妻も呼んで、それを見ていた。ものすごくゆっくりと背中の部分が裂けて、中から出てきたのは、ほぼ透明の生き物だった。そこから、さらにもっと時間をかけて、少し緑色になって、半分くらいは体がサナギから出たところで、すでに２時間くらいは経っていたので、その時間の流れのゆっくりさと、夜中であることで、何か耐えきれない気持ちになり、そこで見るのをやめてしまった。
翌日、その場所に、セミの抜け殻として、そこにあったから、おそらくは途中で外敵に襲われたりすることもなく、無事にセミとして飛び立っていったと思った。
昼間になると、夜中に見た、あの静かな時間から羽化したとは思えないほど、すごく大きい声で、セミが鳴いて、鳴き続けている。
幼虫
それに、土から出てきて、羽化する場所を探して、動いている幼虫も見る機会がとても少ない。それは昼ではなく、おそらくは警戒をして夜に行動し、しかも人間がウロウロするような場所に、うっかりと現れるわけもないからだと思う。
それが、発泡スチロールで羽化したセミの抜け殻を発見し、それは地上１５センチくらいの高さだったから、こんなに低い場所でも羽化できるんだと思って、その箱を動かしていたら、土とコンクリートの間くらいの地面に茶色の物体が見えた。
ここにもセミの抜け殻があると思ったら、動いた。
セミの幼虫で、これからサナギ化して、羽化する、ということだと思うのだけど、こんな人目につく場所で、この動きの遅さだと、いろいろな外敵もいるだろうから、生きていけるのだろうか。
勝手なものだけど、そんなことを思い、そして、その幼虫の動いている先は、家のぬれ縁があるくらいだし、幼虫から見たら距離がありそうだから、どこかに登って、羽化できないのではないか。などと思い、発泡スチロールの箱で羽化したセミもいるから、幼虫の動く先の１０センチくらいに、その箱を置いた。
すごく余計なお世話だし、この行為が、実は幼虫の命を奪うかもしれないと思いながら、あまりにも無防備な状況だったので、その箱で、少し目隠しもしたつもりだった。
いろいろな意味で浅はかかもしれないが、あとは幼虫が何とかするのだろう、と思った。
翌日くらいに、濡れ縁の踏み台になっているところで、セミの抜け殻があった。地上５センチくらいの高さしかないから、今年で最低の高さの羽化かもしれないけれど、あの幼虫かどうかは分からなかった。
セミの抜け殻
家の塀の前にはプランターなどの植物が置いてあって、私にとっては、妻に聞かないと、その種類も、花の名前も分からないのだけど、何度も聞いて、少し覚えたような気もしている。
そのプランターの間に、ここ最近は、短く切られた草花の枝がいくつも置かれていて、それは、セミの抜け殻が残っているものばかりで、妻が並べてくれていた。
気がついたら、８匹ほどの抜け殻があったのだけど、どうやら日々増えている。
これだけのセミの幼虫が庭の土の下にいるのだけど、夏以外は、その気配もないし、セミは土の中に何年もいると言われているから、この夏の間も、この土の下には、何十匹もセミが生きて、暮らしているはずだ。どちらかといえば狭い庭だから、全く見えない世界だけど、思ったよりも、ぎっしりといるのかもしれない。
それに、この土の下にいるのは、セミだけではないから、勝手に静かな印象だけど、実はいろいろな生き物がたくさん生きていて、ちょっとした街のようになっているようなイメージにもなる。
そして、そういえば、毎年同じようなことを、夏になるたびに考えていることを、思い出す。
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