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「かなちゅう」が身に染みていることに気がついた。……ローカルブランドの強さについて。

 毎週見ているテレビ番組が「激レアさんを連れてきた。」なのだけど、その週は、路線バスでデートをしているカップル、というテーマで、そのバスが走っている映像が映った。


「あ、かなちゅうだ」
 そんなに集中して見ている訳でもなかったのに、そんな言葉を発していた。
 そして、同時に、その映像を見ている人間ならば、誰でもそう思うはずだ、と信じている自分がいた。

 だけど、それは、一緒に見ていた妻には、全くピンと来ていないようだった。
 少し冷静になって気がついたのは、これが「かなちゅう」と、すぐにわかるのは、おそらく、神奈川県に住んだことがある人間だけ、ということだった。

神奈川中央交通

 日本最大のバス事業者で、バス専業の事業者としても日本一の規模であり、日本のバス業界のリーダー的存在とされている

 今回、検索して、「日本最大」ということは初めて知ったが、神奈川県出身の私にとっては、何しろバスといえば、神奈川中央交通……略称「かなちゅう」だった。

 地元の駅前に並んでいたのは、横浜市営バスと、神奈川中央交通だったのだけど、主観的な印象でいえば、ほぼ「かなちゅう」のバスで占められていた。

 バスの全体がクリーム色で、ラインが赤と、だいだい色で車体を横切っている。だから、バスターミナル全体が、なんとなく、黄色っぽく感じていた。

「かなちゅう」のバスについては、いろいろな記憶がある。

 中学の時には、部活の帰りには、特に冬は国道の歩道を歩くと、走ってくるクルマで起こる風も冷たくて、歩くのが辛いのだけど、その時に、肉まんを食べるか、バスに乗るかを迷っていた。

 必ず渋滞する場所があって、だから、時間を計算しづらかった。運転手のサービスは、とてもいい、とは思えなかったけれど、それは、その時代では、似たようなものだったのかもしれない。

 電車でも家まで帰ってこれたけれど、横浜駅からバスに乗って、1時間くらいかけて、途中で眠って、家のそばのバス停まで戻ってきたこともあった。あの時のバスに乗っている時間は、ものすごく長く感じた。

 高校の時には、毎日、「かなちゅう」のバスに乗って通学していた。行きも帰りもバスだった。

 生まれてから、20代後半まで、ほぼ神奈川県に住んでいたから、地元だけでなくて、神奈川県内の移動では、乗らないとしても、「かなちゅう」のバスの姿は、見ていたはずだ。

バスは「かなちゅう」

 だから、バスといえば「かなちゅう」という感覚になっていたのだけど、そのことについては、あまりにも自然になりすぎていて、自分で気がついていなかった。

 今は、東京都内に暮らすようになって、30年近く経っているのだから、「かなちゅう」を見る機会は激減していたはずなのに、「激レアさん」で、路線バスをデートに使っている人、として紹介された時、ロゴなども変えられていたのに、その車体の色を見て、すぐに「かなちゅうだ」と言っていた。

 妻が、ピンとこなかったのは、東京生まれの東京育ちで、当然だったのだけど、そのことには反射的には、納得がいかず、どうして分からないのだろうと思っていた。

ローカルブランドの強さについて

 地元にあって、特に子供の頃に毎日のように馴染んでいたものを、これだけ、ずっと強く覚えているのは、自分のことだけど、改めて少し驚くようなことだった。しかも、「かなちゅう」という響きに対して、無意識にうちに、少し力を入れて発音していた。

 ローカルブランドは、とても根強い。

 特に、「かなちゅう」のバスのデザインは、小さい変更はあるかもしれないけれど、基本的なカラーは、50年以上、変わっていないはずだ。それを見て、かっこいい、などと思った記憶もないのに、とにかく、小さい頃から数多く見ていることで、理屈抜きに身に染みていることを、思い知らされた気がする。

 神奈川県出身者にとっての「かなちゅう」のような存在は、おそらく、どの地域にも存在しているはずで、ある地域だけにある乗り物や、外食チェーンや、食べ物、飲み物など、ローカルブランドは、やっぱり強いのではないだろうか。


 それは、物心ついてから毎日のように目にしていたり、接していたり、触れていたり、乗り降りしていたものは、自然と愛着が湧いてしまっていて、大げさにいえば、身に染みてしまっているから、それから、長い時間が経っても、きっかけさえあれば、いつでも、その自然な愛着が湧き出てしまうのかもしれない。

 ただ、その力を効果的に出させるためには、何年経っても、デザインを変えない、ということも条件の一つで、変わらなければ、変わらないほど、そのローカルブランドの力は発揮しやすいと思う。

「かなちゅう」を、そんなに好きな訳でもないはずなのに、あまり見なくなってから、かなりの年月が経つのに、それでも、妙に熱を込めて、「これ、かなちゅうじゃん」と、少し声も大きくなっていたのが、その証明のような気がする。


 そうであれば、今の子供たちにとってのローカルブランドは、何になるのだろうか。

 とても雑な推測だけど、日本全国に、これだけたくさんのコンビニが営業しているのは史上初めてかもしれないから、例えば、セブンイレブンの店舗のデザインや、ロゴの形が、今後も、あまり変えないとすれば、大人になってからも身に染みてしまっているから、気がついたら、セブンイレブンで買い物を自然にしている、ということになるかもしれない。



(おそらくは、そうした意味合いも含めて、マクドナルドのマークを作品化したアーティストもいる)。





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