見出し画像

夜泣きの夜は。【詩的掌編小説】

僕は怖かった。
眠ると真っ暗な世界に
ぽつんと一人、僕だけになっていた。
お父さんもお母さんも居なかった。

大きな戸愚呂を巻いた何が
ゆっくりと僕を飲み込むように近づいてくる。

僕はそれが怖かった。

眠っているといつも襲ってくるそれは
まるで黒い大きな怪物で
僕はすごく怖くて一人泣いた。
周りに誰も居なくて大声で泣いた。

誰かに助けて欲しくて
涙がボロボロ止まらなくて
怖くて怖くてヒクヒク泣いた。

また襲われる気がして
怖くて不安で眠れなかった。
どうしたらいいのか分からなくて
どうすることもできなくてただ泣いた。

お母さんが電気を付けて
僕を抱きしめ背中をさすったり
ゆっくりと軽くとんとんしてくれた。

「どうしたの?何か怖い夢でも見たの?」

お母さんにそう聞かれたけど
僕はこの怖い正体を説明できなかった。

怖いという言葉も知らなくて
とにかく恐怖や嫌だという感情のままに泣いた。
助けてほしくて縋るように泣いた。

お母さんは小さな銀色の粒を手に取り
僕にいくつか飲ませてくれた。

僕の気持ちは少しずつスーッと落ち着いた。
安心と心地良さに包まれたまま眠くなった。

僕はお父さんの布団にもぐった。
お父さんは大きな体で優しく
僕をすっぽりとおおってくれた。

お父さんの足の間に僕の足を挟む。
すると、何かに守られているようで
その時だけは、あの怪物は襲ってこなかった。

僕はあの頃、泣く理由を上手く説明できなかった。
お父さんもお母さんも僕が突然泣きだすから
原因が分からなくて困っただろうけど
それでも暖かく抱きしめさえしてくれれば
僕はそれだけでよかった。

でもきっと泣きやめたのは銀の粒のおかげ。
だけどそれは僕だけのナイショの話。




✄-------------------‐✄

メインの詩的小説は堪能されましたか。

この後にデザートでもいかがですか。

ということで、私がこれを書くに至った経緯や意図、その時の思いや感情などを知りたいと思った方はぜひ以下リンク先の『夜泣きな私。【デザート】』を読んでみてください。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?