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【短編B完結①】エンドロール

【企画】誰でもない誰かの話

#羊毛と緑さん  の続編の続編


第一話「のってきてもこなくても」 38ねこ猫

第二話「ひとコマに命を吹き込む」羊毛と緑さん


第三話「エンドロール」

「聞きました?」
朝からうるさい。

「何?」
私よりもいつも先に出社しているコイツ。
子犬みたいに寄ってくる。
「あ、これあげます。」
「なんで、朝からコーラ渡してくんだよ」
「俺、お茶飲みたかったのに
隣押しちゃって。で、
うわ、いらねー。
あ、野崎さんにあげたら良くね?って思って」
「一回死ねよ」
コーラのラベルには
”今日も♡happy♡”
頭の中で、綾瀬はるかの声が再生された。
「お前、ふざけてんのか?」
「朝から怒ると1日長いですよ。」
「お前がやってんだろ」
すっかり冬だ。
いくらコーラが好きでも朝からは飲めない。

「で?」
「え?」
「え?じゃねーだろ」
「ああー、…え?」 
「張っ倒すぞ!」
「ははは。」
「笑ってんなって」
「…何すか?」
コイツのペースに私は乱される。
自分から話振っといて言わないつもりか。
「聞いたって、何が?」
「社長賞だったらしいです」
え?
「番宣の評判爆上がりで、
視聴率20超えたって話です。
さっき、そこで局長が取締役に呼ばれて
うわうわうわって、なってました。」
「何が?」
「あーあ、あんな苦労して作ったのに
何がってあります?」
まさか。
パソコンを開いて社内メールを確認する。
添付されたPDFファイルを開く。


KTV開局20周年記念ドラマ
水の記憶〜安積疏水の軌跡〜
原作:泉兼也 脚本:五十嵐潤 演出:堤幸紀
祝23.5%!!


「安藤、これ…。」
「誰作ったんでしたっけね。」
初めは、企画を馬鹿にされた。
低視聴率独走の金の無い廃れた地方局で、
2時間ドラマなんか作れるかって。
映画ほどじゃないけど、
それなりに予算がかかった。
これで大コケしたらやめるつもりだった。
キャストにも拘って一流の俳優を入れた。
「講談師、効いてましたね。」
演出の堤と、脚本の五十嵐を説得して
ナレーションは、
今一番売れてる講談師を起用した。
原作の色をそのまま見せたかったから。
「お前が連れてきた、劇団の子も良かったよ」
「あざーす。」

だけど、一番良かったのは

「俺、今日の取材、地味なんですよ」
「今日なんだっけ。」
「災害支援協定締結式です。」

コイツが才能で切り抜いたひとコマ。

「地味。お前1人でいいな。」
「俺たちの普段って地味ですよねー。」
ENGカメラに
メディアとバッテリーをセットするコイツは
なんだかんだ楽しそうだ。

「まあ、これの積み重ねだな」
「つーか、何で俺ばっかり
カメラも編集も1人なんですか」
「新人だからだよ、文句言うな。」

撮影の技術もどんどん上がっている。

「お前、なんになりたいんだっけ。」
「ディレクターですけど。」
「なんの?」
「深夜のバラエティー。」
「なんで?」
「アイドルと結婚したくて」
「死ねよ。
つーか、ここにいたら
一生、バラエティなんかできないからな。」
「えー。」 
「ワンチャンあると思ってんの?」
「思ってます。あー、NiziUに会いたい」
「頭やばいな。」

だからコイツは、
ディレクターよりも向いてるものがある。

「あーでも、野崎さんといると…」
私といると…?
「カメラも悪くないって思います。」
レンズにエアーをかけて、
丁寧に仕事の準備をする。
そういうとこが嫌いじゃない。
「まだまだだろ、何もかも」
「どうします?俺ハリウッド行っちゃったら」
「行かねないよ、お前は。
そんな度胸ないだろ。」
「うーん。…ないかも」
あるって言って欲しかった。

私の夢は、
コイツの片腕に預けても良いとさえ思う。
「それよりお前ディレクター志望だったら
編集もっと勉強しろよな。
いっつもアタシが直し入れんのもね、どうよ?」
「はーい、わっかりまーしたー。」
コイツのアホみたいな口調にも慣れてきた。
イライラしなくなってきた。
「そうやって、ふざけて…」
「ははは。」
「何笑ってんだ、まったく。」
資料もマイクも、送受信器も、
予備のバッテリーも
全部まとめてバッグに入れた。
忘れ物はなさそう。
「あ、そういや、野崎さんの優しさ
受けとりました。」
「え?」
嬉しそうな顔で下から見上げてきた。
「アシスタント安藤裕樹って、
エドロールに書いてあってブチ上がり」
「うるせー死ね。」
確かに書いた。
書かずにはいられなかった。
コイツがいなきゃ、
コイツの大胆な行動がなければ
私の仕事は完成されなかった。
「あざっす!ディレクター野崎美穂パイセン」
「なめてんのか。」
ずーっとニコニコ笑ってる。
「また、やりたいなー。ああいうの。」
「ご褒美みたいなもんだから
まあ、普段から頑張れ」
「はーい。」
ちゃんと話聞いてんのかよ。
バッグを背負ってカメラを肩にかける。
「あー、重い。あー、しんどー。
あー、地味。」
「うるせーな。早くいけよ。」
「行ってきまーす。」
取材車とカメラ倉庫の鍵を手に取る。
「安藤、運転気をつけろよ。」
「はーい」
事務所のドアを開いて出て行く。
なんか、ため息が出る。
私も仕事しよう。
アイツに追いつかれてたまるか。

アイツがさっきくれたコーラが目に入った。

呆れてイライラもしない。

それどころか、笑っちゃう。

”今日も♡happy♡”


#羊毛と緑さん #ひとコマに命を吹き込む
#広がれ世界
#誰でもない誰かの話
#みんなで作ろう
#オリジナル小説 #短編 #創作  #仕事

羊毛と緑さんの作品は、
スタジオが見えました。
とにかく仕事のスケールが大きい。
世界広がってました。すごい。
最初、トレーラーが
イベントのトラックなのかと思って
ググったんです。
機材全部忘れたらことがことだっ!
って思いまして。
調べたら、予告編のことで。
なるほど勉強になりました。
”作品”がどんなものか想像しました。

制作の楽しさを共有できた気分です。
ありがとうございました。

羊毛と緑さんの作品は、
優しい世界がひろがってますね。
ご参加ありがとうございます!

ちなみに、
#へいたさん  の記事がきっかけだそうです。
ありがとうございます。

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