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『シン・ウルトラマン』を、ジェンダー、ユーモア、セクシー、黒船で語ってみました。


映画『シン・ウルトラマン』を封切りそうそう観てきました。
【以下、ネタバレ含んでいます】

オンタイム体験のジャミラ恐怖

さて、ワタクシにとって原本の『ウルトラマン』は小学校低学年時、『ウルトラQ』の流れからまさにオンタイムで観ていた重要番組。オタクのみなさんと同様、完全に「イメージの神格化」が行われている作品なのです。放映翌日月曜日の教室は、語り部が乱立する興奮状態(当時、飲み屋でもないのによくあれだけ盛り上がったもんですよ)。

水のない惑星に不時着して、適応のため怪獣化し、地球に恨み節にて舞い戻ってきたジャミラ、心臓がバネ型なので息切れしないレッドキング(必読書『ウルトラ怪獣図鑑』より)など、今でもすらすらスペックが出てくる不思議。そういえば、手を前にぶらぶらさせてぴょんぴょん飛ぶ「ガラモン歩き」が流行って、それで下校してましたからさww。

スビルパーグの『ウエスト・サイド・ストーリー』と同様、クリエイティヴ的にはハードルが超高い「名作リメイク」を、企画・脚本、庵野秀明、演出、樋口真嗣のタッグは、現代社会の風潮やセンスを正確に掴んだ上で、原作のDNAを蘇らせることに成功しています。いやー、これご存知の通り、オタク度満載の原作なので、いくらでもディテールに突っ込んでまとめていくことは可能だし、それを待つ特定ファンも多いのですが、庵野×樋口コンビはあえてそのオタクスピリット値を超えて、第一級のエンタメを目指す気概は充分です。

アンチ男ロマンな禍特対男女混成チーム

さて、現代社会との切り結びですが、まずは、前作『シン・ゴジラ』では顕著だった、ホモソーシャル集団ならではの男ロマンが、今回は面白い形で払拭されている。前線で対処する科特隊ならぬ禍特対は、「大丈夫か? キミたち」といったような男女混合のなんだかユルーイ集団。一方『シン・ゴジラ』では、そこのところはもうもう、24時間戦えますか! の精鋭ホモソーシャルメンバーだったのとは真逆。

当然のことながら、登場するは、小池百合子を髣髴とさせるハードコアな防衛大臣と、不思議チャンの紅一点メンバーという、お約束なキャラでした。しかし、今回は管理職を除けば、男女同数かつ全員が省庁からの出向組。女性たちは持っている能力は高いけれど、女子トーク満載でいたって普通なのです。現代においてはパートナーでも国でも「一致団結して(愛する者を)守る」ことけが、暴力と集団の肯定ですが、そうではなく、禍特対メンバーのモチベーションは、「個人の義憤」なのです。

オタクの自虐ユーモアのクールなセンス

ロマンや熱血に「膝カックン」の冷水を浴びせるのが、ユーモアとお笑いですが、本作全体にそれらが散りばめられていて、これはまごうことなき、大オタクの大人である庵野秀明の自虐ユーモアの発露とワタクシは見ましたね。るのも特徴です。『フレンチ・ディスパッチ』のウェス・アンダーソン監督的、といいますか、いわゆる脱力的なお笑いセンス。

ウルトラマンパロディーは、有名なところで、泉昌之の『ウルトラマンの日』(出動がないウルトラマンが四畳半で寝っ転がったり、ギターを弾いてだらだらするww)がありますが、「ウルトラマンの存在って、リアルに考えて、唐突だろう」という当然の観客のツッコミと、そもそも、いい歳をして大人がまだ熱中しているオタクの恥ずかしさの双方という、隠されたお笑いの時限爆弾を周到に使っています。

ウルトラマンとメフィラスの、どう考えても地球の存亡をかける重要会議の様子は、会社の愚痴を居酒屋で発散する中間管理職同士にしか見えないし、政府のみなさんたちの思考停止のうろたえと、ボケっぷりは『シン・ゴジラ』でもお笑いポイントでしたが、それがより加速していて、もはや東京03のサラリーマンコントのごとくでした。

そももそ、何で巨大不明生物が「禍威獣」かというと、これ、政府側のネーミング。小池百合子都知事もお得意ですが、権力側って最近、やたらと名付けたがるでしょ? クールビズ(古いか)とかさ。そういう所も笑いのツボ。「どうして、ヤツらは日本だけにやってくるんだ?」というセリフも秀逸。 
 
これら、アンチ男ロマンとお笑いの要素は、その世界に真面目に耽溺したかったオタクの方々には抵抗があるでしょうね。しかし、そういったクールな距離の取り方が、原作『ウルトラマン』からのDNAの継承たる、人間と地球愛を際立たせたともいえるのです。

最終兵器が常に空に「在る」日常風景

ともあれ、私が一番印象に残ったのが、最終兵器、ゼットンの「置き方」です。幼少期、オンタイムで見たときも腰を抜かすほど怖かった、最終兵器怪獣ゼットン。「ゼットン……ゼットン」と意味もなくつぶやき続けるサウンドエフェクトが、湯山個人史上、リゲティの『シャイニング』に匹敵する恐怖サウンドなのですが、本作ではソレが聞こえたのはたった二言。そのかわりにゼットン、メフィラスの最終兵器として、まるで昼間の月のごとく空に留め置かれるのです。

人間とメフィラスの交渉が決裂すれば、そのゼットンが一発で地球を破壊してしまうのですが、いつしかそれが風景のようになっている、という図。人々はそんなとんでもない驚異の下で、いつしかそれに慣れて日常生活を普通におくっているのです。まさしく、これ、原発の危険性や核の脅威の元で生きている現代の私たちの姿なんですよ。その表徴としての昼間の月、ゼットンのシーンは、格別に印象深かった。

『シン・ゴジラ』と同様、本作は日本論でもあります。禍威獣はすなわち黒船。見たこともない超兵器をバッグに、不平等条約を押しつけようとする外星人に、場当たり的な対応しかできない政治家たちの姿は、まんま、幕末の徳川幕府にオーバーラップ。そして、ゼットンの驚異については、政治家たちはそれを国民に伝えません。その心は「どうせ、死ぬならば、何も知らない方がいい」。良くも悪くも、どうせ……、という諦観は日本人の心証に深く根付いています。

細マッチョな肢体と巨大浅見弘子のセクシー

そして、特筆すべきは、ウルトラマンのセクシーですね。手足が長くて、細マッチョで、もの凄くスタイルが良い。初出時に禍特対メンバーから「そもそも、裸体なのか服を着ているのかわからない」と言われたボディは新車のボディーのようにつややかでスムース。ウルトラマンのデザイナー、成田亨がその原型をつくるときに、スタイルの良い若者をビックアップして創り上げたという話ですが、そこに更に磨きがかった美形ぶりをカメラは、嘗めるように撮っていきます。

敵対する星人の策略にて巨大化した、禍特対メンバー浅見弘子は、かなりハイスペックなセクシーアイテム。男性の性的妄想のひとつに、「一寸法師」というのが昔からありまして、要するに男性が小型化して、女性を愛するというシチュエーション。巨大な女性というモチーフは、内田春菊の『南くんの恋人』というラブコメや、現代美術家の会田誠の作品『巨大フジ隊員vsキングギドラ』などが在りますが、そんなシーンが入ることで、エロティシズムは重層化していきます。

ちょうど昨日、タクシーに乗ったら、その運転手さんがおしゃべり好きで、『シン・ウルトラマン』を観に行った、と言っていました。年齢を聞くと、『ウルトラマンタロウ』がオンタイムの世代で、久々の映画館詣で、中学生の息子も興奮していたそう。リメイク流行は、元ネタをYouTubeでチェックできるという楽しみ方もありますよね。次はこのコンビ、何を手がけるのでしょうか。

湯山玲子YouTubeチャンネル「湯山玲子のカルチャー幕の内弁当」でも、『シン・ウルトラマン』について語りました。
是非、併せてご視聴ください!

前編:『シン・ウルトラマン』オタクの自虐お笑いセンス、異様なセクシーさにノックアウト!!
https://youtu.be/w9wIRY3psg4

後編:『シン・ウルトラマン』黒船恐怖、非マッチョ、最終兵器と日常の同居
https://youtu.be/nxieC_dE7QU

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