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ヒッチハイク、サレタガワ

 「この前海老名サービスエリアで休憩してたらギター持った男の子に、一緒に乗せてもらえませんか?ってヒッチハイクされちゃっただよー」と、ビールを飲んで饒舌になった父が静岡弁で話してくれた。
 「東京でライブをやったみたいだけど、帰りの夜行バスに乗り遅れちゃって、東京駅から海老名までもヒッチハイクしてきたみたいだよ」と、興奮冷めやらぬ様子で寿司とビールが進む父。
 「岡山で林業をやってる子みたいでね、前は無銭旅行もしたことあるって言ってたっけ」18で静岡を出た私は父が話す静岡弁の語尾が気になって仕方ないが、その話の詳細をもっと聞きたく私もとても興奮したのであった。


#3行日記

ビールが進む、あさりの酒蒸し



 息子たちを連れて、久々に実家に帰った。背が伸びた孫たちに父は驚いていたが、とても喜んでいた。
 写真の中で笑う母にも久し振りに会った。黒枠の中で笑う母は一人だが、本当の写真は隣に私が写っている。一緒に札幌旅行に行った時に撮った写真だ。今でもその光景を覚えている。
 母は、モデルとか女優になれたんじゃないかというくらい美人でちょっと自慢だった。私はびっくりするくらい父親似で、久々に父に会ってやっぱり似ていると思ってびっくりした。だって、年老いた父に似てると思うくらいですもの…。


サレヒッチ(ヒッチハイク、サレタガワ)について

 父は、私の弟が住む千葉県に、生まれた孫と御対面するために車で訪れていた。(孫5人全員男となった )ドライブ好きな父は、日本中どこへでも車で出掛けている。そろそろ県内限定の運転でお願いしたいと思っていた矢先、サレヒッチの話を聞いた。
 それを聞いた時、これが複数だったらやばかったんじゃないか、よく信用できたね、何で父を選んだのだろ、と気になる事を父に問うた。

1.まず一人であることを確認したと
2.ギターを持っていたから嘘じゃないと思ったと


 この2点が決め手だったとか。
 父は人を見る目があるし、賢い人だ。この2点でそれは伝わらないと思うが、ヒッチハイカーの青年も無銭旅行をした事があるくらいだから、人を見る目があったのだと思う。それに、青年の行動力と言うか、コミュ力と言うか、世渡り上手と言うか、もっと適切な言葉があるのだろうが、色々と感心した。

 そしてなぜ父が選ばれたのか…。


 青年の今までのヒッチハイクの経験から、一人の人に声をかけるのだそう。
 二人の人だと意見が分かれて交渉が大変のよう。まぁそれはそうだよな。



 自宅に戻るために運転手を狙う、スルガワの青年。
 何も知らずにトイレ休憩をして、車に戻るサレタガワ父。


 見ず知らずの二人が、車内という狭い空間の中で同じ時間を過ごすことが成立するまでの事を考えると少し怖い。でも、車内で話は途切れる事なく続いたようで、色々話してくれた。話し終えた父が最後に、「貴重な体験をしたなぁ」と凄く楽しそうに言った。私には、「まだまだ人生捨てたもんじゃないな」と聞こえた。


 確か父は75歳の時、「あと10年は生きるつもりでいる」と言っていた。
 今回の出来事を聞いて、父は人生を噛み締めるような一期一会を体験したんだと感じた。
 出会いって、本当に不思議だ。偶然なのか、必然なのか。でも私は「そういうふうにできている」って思う事が好き。



 青年は無事に岡山に着いただろうか。どうか青年にも、一期一会という言葉と出来事を、人生と共に噛み締めていって欲しいと願う。





noteでの出会いに感謝します
                 ☺︎マティ☺︎

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