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二宮洋二郎
2020年8月30日 21:00
小麦色に灼けた肌がグラウンドを駆け回っている。ハーフパンツからすらっと伸びた脚は、同性のわたしでも見惚れるくらい綺麗だ。 わたしの隣にも見物客がいた。見物客、という言い方は悪意があったかもしれない。陸上部の幽霊顧問として有名な片桐先生はベンチに腰かけてぼんやりグラウンドを眺めているだけで、声をかけることも何か記録をとることもない。 でもそれはわたしにとっては好都合で、陸上部にとっての部外者が
2020年8月13日 21:00
3つの条件がそろった。 けれどわたしは一人でバスに乗り、天海君が隣にいない窓際の座席で、信号待ちで止まるたびにお尻から突き上げてくるようなエンジンのうなりを感じながら、じんわりと外気の熱を伝えてくるぬるい窓ガラスに頭をつけて、見るとはなしに雨の景色を見ている。いくら条件がそろっても、天海君が休んでしまっているのだから、一緒に帰れるはずはない。 思い出されるのは、先週のこと。 どうしてあんな
2020年8月2日 21:00
4「自分で蒔いた種は、咲かすも枯らすも自由だが、責任を持って面倒を見ないといけない」 なにそれ、ニーチェ? と櫻井美姫が言う。「おれ」 教室の床に寝そべった歌川萌音を一瞥して、天海陸はため息をついた。数分前の自分に、首を絞められているかのようだ。「美姫、先に帰ってていいよ。あとはおれがなんとかする」「そんなに、コイツとふたりきりになりたいの」「そんなことは言ってない」「別にいい