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この一歩を証明したくて

東京なのに磯の匂いがした。空飛ぶモノレールは宙を切って、労働の光を切り裂いてゆく。空から見下ろすイルミネーションはあまりにもちっぽけで安っぽくて泣きたくなった。ずっと私たちが必死に守っていた煌めきもあんなもんだったんだろうね。WHO IS BABY、今ランダム再生で流れているこの曲を聴くたびに、きっと私はこの夜のことを思い出すんだと思う。開演10分前に発券したチケットを握りしめて冬の空気を切り裂いてゆく。地に足をつけた私はさっきまであんなにちっぽけに見えていた光の粒にいとも簡単に呑み込まれてしまう。それでも見逃したくなくて、全部この手で掴みたいから私は歩く。東京を歩く。神田を歩く。浜松町を歩く。羽田を歩く。一歩一歩、この足で、地につけて、踏みしめて。知らない街の匂いとその時ランダム再生で流れていた曲のメロディーが噛み合う“あの瞬間”。あ、この音ってこの景色のことだったんだ、あ、この歌詞ってこの感情のことだったんだ。ああこの歌、やっぱり私のこと歌ってるんだって予感が確信に変わったその瞬間、涙が溢れて視界が歪んだ。あーきもちい!
私が一日一日踏みしめている、この一歩が光だって、この一粒が光だって、そう思えなくてもさ、それが光なんだって証明してくれる歌に、出逢えたらいいね、そんな言葉を、紡げたらいいね。その弾かれたあなたの声は、この街の光に呑まれることなく真っ直ぐ私を射し抜いた。鮮烈な朱だった。
あの切符は、私を光の中へと連れて行ってくれた、私のこの一歩が光だと証明してくれる歌を教えてくれた。切って、ひらいて、この足で、この一歩で。私は私の一歩を証明できる言葉を探して今日もこうして東京の街を歩いているんだって、そう気付かせてくれたのは紛れもなくあなたの歌だった。

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