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#創作大賞2023

透かして見つけた19つ目の星

透かして見つけた19つ目の星

忘れたくない夜の数がぼくにとっての光で星で、それらを繋げる指先の透明な動きは紛れもなく祈りそのものだった。空書きをしてきみに伝える内緒のダブルミーニング。流星みたいに指を滑らせかけた呪い。この呪いの読み方を知っているのはこの世界にぼくときみだけ。深夜2時にふたりでなぞったあの歌詞がその夜の深さを本当にする。そのせいできっとぼくはこれからもあの夜のことを忘れられない。きみはこれもただのこじつけだって

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ナルシス

ナルシス

あのねの先が号令に遮られる。ごめん、何言おうとしたか忘れちゃった。雑音に紛れて聞き取れなかったきみの声。ううん、なんでもない。大したことじゃないから。そういう拾えなかった言葉の空白ばかりを憶えている。だからぼくの頭の中には余白が多い。いつか答え合わせをしよう、きみの声でぼくの空欄を埋めてほしい。あのねの先の、喉につかえたその言葉の形が見たい。なんでもないを捲った先の透明に触れたい。全部エゴでごめん

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掬われない金魚

掬われない金魚

息継ぎの仕方を知らない子どもが順番に溺れてゆく夢を見た。なんで誰も教えてあげなかったんだろう、なんで誰も教えてくれなかったんだろう。息ができなくてくるしいのにその視界に飛び込んでくる光をぼうっと眺めては妙に感動してしまう。見晴らしの良い地獄って此処だったのかな。空気の中で溺れることってあるんだね、私たちはずっと地上を泳いでいたんだっけ、どうだったんだっけ。もう何も憶えていない。私たちはそんなこと憶

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もう忘れてしまった一等星のこと

もう忘れてしまった一等星のこと

きみと一緒に見た夜景が今まででいちばん綺麗だった。きみが遠くの星を見つめながら話してくれた未来の話はその日の夜空にそっくりで、散りばめられた無数の希望と可能性、そんな光が射したきみの瞳孔は一等星。きみが指を差した星に私はいない。それでも私はその指先に恋してた。希望に反射して煌めくきみの瞳孔に恋してた。そんなことを思い出す。だけどレンズを通して見るその光はただそこに散らばる色でしかなくて、その煌めく

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