iso_yui

安部公房や角田光代さんが好きです。アマチュアで、小説を書いています。

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マガジン

  • 快適なおうち (小説120枚)

    あらすじ◆「快適なおうちを保ち続けたいの」。消極的なリカコは、結婚二年目の主婦。誰にも邪魔をされない世界で一番快適な場所―おうち―を作り上げ、夫・ユウトの帰りを待ちわびている。しかしユウトはリカコに冷たく、アダルトビデオに出ていたという噂がある、会社の女子社員に興味を抱いておりー。孤独を深めるリカコと、ユウトのねじれていく関係。女子社員との密会から帰宅したユウトが見た、リカコの姿とは。 #小説 #夫婦

最近の記事

イオン長吉店(旧ダイエー) 閉店セールに行く

こんにちは。 子どもの頃はよく行ったけど、最近は行っていない懐かしいお店ってありますか? 私の地元にあるイオン長吉店が、2023年8月31日で閉店するとのことなので、昨日行って参りました。 大阪メトロ谷町線出戸駅のそばにイオン長吉店はあります。駅と地下通路で連結しているので、電車からだと地上へ出ずに店内へ入ることもできます。 イオン長吉店はもともと、ダイエー長吉店でした。開店は1987年3月らしく、わたしとほぼ同年。子どもの頃は、親や友達とよくここを訪れて、買い物をした

    • らっ子

      ◇「肥溜めは、あの世とつながってるから、落ちたら、一回死んだゆうことになんねん、せやから、生まれ変わるために、名前を変えなあかんのや」  戦後の大阪。しきたりに従って、改名した母のそばで、老いた犬のように生きていた9才の娘は、自分も生まれ変わりたい、と、ひとり田んぼへ向かう。三日月を背に、底の見えない肥溜めを覗き込む娘は、はたして生まれ変われるのか。名前とは何か、生とは何かを、孤独な娘の時間を通して考える。◇小説 らっ子(原稿用紙27枚) イラスト こじか手工業     ら

      • 快適なおうち 最終回 (ユウト帰宅)

        最終回<ユウト帰宅>  電車を降りるとすでに薄暗くなっていた。ユウトが歩く振動にあわせて、右手に提げたコンビニの袋がかさかさと鳴る。一軒家の前をとおると、魚を煮ているような醤油の甘い匂い。ユウトはめずらしく、今日の夕飯は何なのだろうと思う。今頃、リカコも準備をしているはずた。 すれ違った野良猫がミャアと鳴く。ユウトは思わず袋を持ち上げて、隠すようにした。後ろから、再び、ミャアミャアと鳴き声が追いかけてくる。ユウトは振り向くと「お前にはやらないよ」と言ってやった。だって

        • 快適なおうち 7 (マナベミユ)

          第7回<マナベミユ> これで大丈夫。  マナベミユは、カツラギユウトにメッセージを送信したあと、ふう、と大きくため息をついた。スマホを鞄に戻し、暗い玄関で、しばらく床に座って目を閉じていると、メッセージの着信を知らせるバイブの鈍い音が響いた。急いでスマホを取り出したが、届いていたのは、「満足度90%!」と銘打たれた基礎化粧品の広告で、マナベミユは舌打ちをしながらその画面を閉じ、自分がカツラギユウトに送ったメッセージの画面を開いた。 《さっきは取り乱してごめんなさい

        イオン長吉店(旧ダイエー) 閉店セールに行く

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        • 快適なおうち (小説120枚)
          8本

        記事

          快適なおうち 6 (リカコ スーパーヘ)

          第6回<リカコ> 植物園を出ると、公園にいた人々は嘘のようにほとんどいなくなっていた。きっと皆家に帰ったのだろう。リカコは駅に向かって歩いていく。私も帰らないといけない。帰るべき家がある。行きしなにとおり過ぎたベンチにはもう誰も座っていなかった。  地下鉄に乗り、自宅の最寄駅で降りると近所のスーパーに立ち寄った。トマトや胡瓜が安いので手に取ってカートの籠に入れる。これでサラダを作って、あとは何にしようか。リカコはカートを押しながら、生鮮コーナーをぶらりと一周する。肉か魚

          快適なおうち 6 (リカコ スーパーヘ)

          快適なおうち 5(ユウト 密会の果て)

          第5回<ユウト>  ユウトは誰もいない公園のベンチにマナベミユと座り、マナベミユの生い立ちについて聞いていた。出身地のこと、両親が離婚して父親に引き取られたこと、その父親の転勤のせいでたびたび転校することになり苦労したこと、必死に勉強してなんとか大学受験に合格し、家を出てこの街で暮らし始めたこと、そして今の会社に入社したこと……。ユウトは常に彼女の話の聞き手となり、「そうなんだ」とか、「それは大変だったね」と相槌を打った。大学時代の話に及んだときに、ビデオの話が出るのではな

          快適なおうち 5(ユウト 密会の果て)

          快適なおうち 4 (リカコの妄想)

          第4回<リカコ>  バラ園には、予想どおり、赤、黄、ピンク、オレンジなど様々なバラが咲き乱れていた。  色だけでなくかたちもそれぞれ違った。毛糸玉のように薄い花びらをぴっちりと巻きつけたものもあれば、華やかに花弁を広げて存在感を示しているものもある。  花壇の間を、先ほどの婦人たちがゆっくりと歩いている。バラ園の隅にキャンバスを立て、絵筆を握る老人もいた。バラ園では、園の外よりも、とてもゆっくりと時間が流れているようだった。リカコはバラ園の端にあるベンチに腰掛けていた。のど

          快適なおうち 4 (リカコの妄想)

          快適なおうち 3 (ユウト 密会)

          第3回<ユウト>  ユウトが電話を掛けたとき、マナベミユは昼寝をしていたらしかった。いつもとは違う、気怠い甘えた声だった。 「寝てたの?」 「え、あ、はい、ちょっとだけ……」  マナベミユは照れた声で答えた。ユウトはリカコ以外の女と何気ない電話をしているということに少し昂揚していた。結婚してから、こうして女性と電話をすることは一切なかったので、どこか新鮮な気持ちだった。 「休み中に突然ごめんね。金曜日のさ、A商事からの発注対応大丈夫だったかな、と思って。オレ、外出中で見れな

          快適なおうち 3 (ユウト 密会)

          快適なおうち 2 (リカコ 森のなかへ)

          <リカコ> リカコは森の中を進んでいたが、脛のあたりが痒くなり、立ち止まって見ると蚊に二、三箇所刺されたあとがあった。やっぱり虫除けもせずに来たのは無謀だった。脛に手を伸ばしたそのとき、鳴り響いていたモーター音が止んだ。瞬時にあたりは静寂に包まれ、鳥のさえずりだけがリカコの耳に響いてくる。リカコは半分屈んだ姿勢のまま、唐突に、今自分は森の中でひとりきりであることを自覚した。もしも今、誰かに襲われたらどうなるのだろう。リカコは脛をゆっくり掻きながら考える。大きな餌を持った

          快適なおうち 2 (リカコ 森のなかへ)

          快適なおうち 1

           カツッ、カツッと硬いものが夜気を吸い込んだコンクリートを容赦なく打ちつける。  その音は敵意に満ちていて、もしそれがパンプスのヒールではなく鋭いアイスピックで、コンクリートが氷塊であったなら、瞬く間に砕け散っていたに違いない。  マナベミユは自室があるマンションに辿りつく。オートロックのはずなのに、なぜかいつも鍵の掛かっていないガラスの玄関扉を思い切り手前に引っ張って中に入る。マンションの玄関に設置されたゴミ箱には、住民のポストに投函され捨てられたリサイクルショップのチラシ

          快適なおうち 1