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衝動買い見聞録〜神タイトルを探せ〜

23歳前後の女には、そこそこの割合で高校前後に『林遣都ゾッコン期』がある。
「そこそこ」「前後」というふわっとした表現でおわかりであろう。

当社比です。

出会いはたしか『バッテリー』だったはずで、結局一番気に入ったのは『荒川アンダーザブリッジ』だった。小栗旬と山田孝之の顔を緑と黄色で塗りたくる制作陣の根性がいい。どう考えても顔面の無駄遣いだ。
中でも、林遣都演じる市ノ宮行が小栗旬演じるカッパの村長と初めて出会ったあたりの掛け合いが印象に残っている。名前の話だ。桐谷美玲演じるニノの名前の由来を尋ねたら、彼女が着ているジャージの胸に「2-3」と書いてあった。ニノサン。彼は言う。
「田舎の道ぐらいまっすぐな名前ですね」
そしてふと視線を向けた先では、シャツに「最後」と大きくプリントした髷の男が剣道の素振りをしていた。
行「じゃああの人は、『ラスト・サムライ』?」
村長「お前頭いいなぁ」
行「常識があるだけです」

なお、行は「理屈」と「リクルート」をかけてリクという名前を授かった。

名前を付けるのは難しい。普通なら『田舎の道ぐらいまっすぐな名前』になるものなのだ。だから本に小洒落たタイトルを付ける作家はほんとにすげぇよなと感心してしまう。タイトルに惹かれて買ってしまった本も1冊や2冊ではない。
だからタイトル書いした本を紹介しようと思うんだけど、どんな内容なのかタイトルでは予想もつかない、もしくは完全にミスリードされるのが衝動買いの醍醐味ではないか。なのでなるべくネタバレなしでめっちゃ適当に神タイトルを載せていきます。
まぁ、適当じゃない説明文なんてものを書いた記憶はないのだが。

①早口では言えないで賞


渡辺一夫『寛容は自らを守るために不寛容に対して不寛容になるべきか』(三田産業)

随筆らしいです。エッセイじゃなく、随筆。春はあけぼの。
わざわざお堅い言い回しをしてるだけあって、140文字ぐらいあれば語り切れそうな結論をつらつら難しい言葉を使って書き連ねてたので、誰か意訳をTwitterにアップしてください。
テーゼと結論以外の部分が長すぎて目眩を起こしたので内容がそれほど記憶にありません。人文系が好きな人はどうぞ。確かフランス系統だったと記憶してる。

②これ最近流行ってんの?賞

吉田修一『太陽は動かない』(幻冬舎)

ジェリーフィッシュは凍らない、ブギーポップは笑わない、それでもボクはやってない、僕は勉強ができない、エトセトラエトセトラ。
なに。〇〇は××ないの方程式、流行ってんの?最近もNHKでドラマがあった気がする。岸辺露伴は動かない。脚本は確か靖子にゃんだった。
どうしようもなく暇な人はこの『〇〇は××ない』の起源を辿って始まりの作品を見つけて欲しいんですけど、まぁ吉田修一のことですし、方程式に嵌めにいったというよりも付けたタイトルが方程式に一致しただけのような気がする。続編『森は知っている』『ウォーターゲーム』と、連続性の欠片も無いし。
ただこれ、内容はめちゃめちゃ面白いので買って後悔はしないと思う。どうしても不安なら映画見てから検討して。

③直木賞

森絵都『風に舞い上がるビニールシート』(文藝春秋)

3つ目から『〇〇賞』の付け方雑かよ。あぁ確かに直木賞受賞作だよ。
どういう意味だろうって思いますよね。わたしも思いました。こういう意味です。タイトルの意味を知って「1本取られた」ってなるものではなかったけど、内容を正しく叙述するタイトルではあった。
そして、森絵都といえば児童書ってイメージだけどこれは確実に大人向けの本です。「こんなに綺麗に日本語って使えるものなんだ」と感動しました。

④翻訳者がすごいで賞

シェイクスピア『恋の骨折り損』(白水社 他)

英題は『Love's Labour's Lost』なんですよ。それを翻訳して『恋の骨折り損』。Labour's Lostが骨折り損だから直訳っちゃあ直訳なんだけど、日本語になおした時の語呂の良さと響の美しさがすごいよね。やっぱり最初に和訳したのは坪内逍遥なのか。
坪内逍遥といえば、マクベスの5幕にある大演説の翻訳の話も外せない。Out, out, brief candle! を、消えろ、消えろ、束の間の燈し火!って訳したやつ。
光文社古典新訳文庫以外は、漢字こそ違えど同じ訳にしてるからぜひ読み比べてみて欲しい。最初の訳が神すぎて誰もが踏襲するしかなくなってる稀有な例。

⑤就活生にはおすすめしないで賞

三浦しをん『格闘する者に〇』(新潮社)

就活生の話だって聞いてたから、何者みたいに切実なやつなのかと思ってたら違う意味でやばいやつだった。就活戦線異常なし。大アリじゃぼけ。
人物があちこちぶっ飛んでるので、共感して読みたい人には向かなそうだけど面白いです。就活前に読んだら気は楽になるのかもしれないけど、就活中に読んだわたしは真っ二つに引きちぎりたくなった。読むタイミングは選べ。

⑥みんな知ってるで賞

朝井リョウ『桐島、部活やめるってよ』(集英社)

これのネタバレを避けることに意味があるのかよくわからんがまぁ一応避けておこう。これの女子生徒版みたいな感じで『少女は卒業しない』(集英社)があるんだけどそっちも面白いよ。
この2作の売れ行きを隔てた壁は映像化の有無とタイトルなのは間違いないと思うので、魅力的なタイトルってやっぱり大事だよねと痛感しました。
朝井リョウの日常に潜む違和感を言語化してしまう技術はいつもすごいと思うけど、読むと本当に自己肯定感が下がる。

⑦ダークヒーローで賞

伊坂幸太郎『陽気なギャングが地球を回す』(祥伝社)

読み終わってもどう地球を回したのかよくわかんなかったけど、伊坂幸太郎、割と知的なタイトルをつけがちな割にこの本ではふざけたんだなと思いました。知的方面を攻めると、『オーデュボンの祈り』(新潮社)とか、『マリアビートル』(KADOKAWA)とかもタイトルの意味がわかると感動するから好き。
特殊能力を持たせると、その能力が伏線に使えるからすごい便利なんだけど、それを絵に描いたような作品でとても面白いです。3冊出てるし新装版になってるから良かったら読んでね。

⑧喫茶店のサンドイッチ賞

サリンジャー『このサンドイッチ、マヨネーズ忘れてる/ハプワース16、1924年』(新潮社)

喫茶店のサンドイッチって、なんであんなに美味しいんだろうね。ドトールのミラノサンドとエクセルシオールのサンドイッチが好きです。系列店か。
さて、読んでみてもどのサンドイッチなのか、忘れたのは本当にマヨネーズなのか、そもそもサンドイッチなんてものは存在したのかもよく分からない本となっております。ライ麦畑のホールデン少年とグラース家の、サリンジャー二大巨頭が1冊に顔を合わせた、ハンバーグカレーとかトルコライス的な小説。
新潮社さんではライ麦畑を出版してないからこれがなかなか文庫化されないのではと勝手な邪推をしておる。多分そんなことはない。

⑨アガサ・クリスティっぽいで賞


浅倉秋成『教室が、ひとりになるまで』(KADOKAWA)

ついこないだ文庫化した。アガサ・クリスティ感があるタイトルだよね。そして誰もいなくなった。内容にアガサ・クリスティ感はないし、出てくる引用もルソーとソシュール、あとプラトンです。
うっすらラノベ感ある表紙にわたしはよく騙されますが、こちらもそのくちでした。ラノベ感とアガサ・クリスティ感にやられました。
でも内容は普通にミステリやってくれたので文句はないし面白かったです。どっちかというと犯人側の気持ちの方がきちんと理解出来てしまったのでそれがなかなかきつかった。

⑩タイトル買い大賞

重松清『ニワトリは一度だけ飛べる』(朝日新聞出版)

どう?読んでみたくならない?
わたしはなった。書店の平積みで見かけてからずっとときめいてた。
まずは本当に飛べるのか。そして何の話なのか。脈絡のないタイトルの方が案外興味をそそるものなのである。
ニワトリが飛べると言われても、実はめっちゃ泳げると言われても、そもそも鳥が飛べるのではなく人間が地に沈んでるのだと言われてもそれほど興味はないのだが、本来飛べないものが飛べると言われたなら「え、まじで?」と言いたくなるものであり、そこに『一度だけ』という限定表現が入るのも強い。その一度が発揮されるのはいつなのかという疑問も加わる。
内容はこの際一切言及しないことにして、ことタイトルに関してはハチャメチャに秀逸だと思う。買ったの1年前だから未だにどこの書店でも売ってるのかと言われればI don't knowだが、まぁAmazon探せば買えるっしょ。

ご清聴ありがとうございました。
この通りタイトルにコロッと騙されるヒトなので、他にも神タイトルがあったらオススメお待ちしております。

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