りりあ

食べる、書く、聴く、が好きな企画広報ぽんこつOL。 ビールの売り子をしていたほどの野球…

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食べる、書く、聴く、が好きな企画広報ぽんこつOL。 ビールの売り子をしていたほどの野球好き。 noteコンテスト▷審査員特別賞、入賞、企業賞etc...

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  • 「幕開け」(まとめ)

    短編小説「幕開け」のまとめです。

記事一覧

「note創作大賞」上から見るか、下から見るか、終電から見るか。

金曜日、23時35分。 やばい、今日もこんな時間になってしまった。 印刷した校正用紙も企画書も、しっかり分けてファイリングしないといけないのに、もう間に合わない。全…

りりあ
3日前
18

幕開け[第5話]

〈第1話〜4話〉 ・・・ 「東京の今日の最高気温は三十四度です」  今朝のニュースを、ふと思い出す。まだ七月に入ったばかりなのに、夏を絵に描いたような快晴だ。久し…

りりあ
1か月前
7

幕開け[第4話]

〈第1話〜3話〉 ・・・ 「やっぱりすごいと思うよ、駿介は」 「……こんな話してるのに、か?」 「うん。だって、普通はそんな辛いとき、ぐうたら過ごす人がほとんどだよ…

りりあ
1か月前
6

【物語のあるスイーツ】~春夏秋冬のおやつレシピ&エッセイ~

 みずみずしい苺がぷつりと乗ったショートケーキ。サクサク食感がたまらないクッキー。どこか懐かしいプリンア・ラ・モード。週末に作り置きしたパウンドケーキ。  あま…

りりあ
2か月前
68

幕開け[第3話]

〈第1話・2話〉 ・・・  チリン、チリン。  夏でもないのに、なんでいつもこのお店には風鈴があるんだろう、と高三の私が呟くと、駿介は迷わず、風鈴は癒しの音だから…

りりあ
1年前
36

あの時言えなかったありがとうを、「ハッピーターン」に。

「ありがとう」という言葉は、簡単そうで意外と難しい、と大人になった今でも思う。 難しいという表現が正しいかはわからないけれど、伝えすぎると胡散臭く聞こえるし、言…

りりあ
1年前
273

幕開け[第2話]

・・・ 「ところで、今日はなんで参加したの? 暇だから、だけじゃないでしょ。あんたの性格からすると」 「うわー、そんなことまでわかんのか。さすがだね、キャリアウ…

りりあ
1年前
38

私の「美しい鰭」を探す旅

久しぶりに、人前で泣いた。 ぎゅっと閉めていた感情の蛇口を捻られたみたいだった。 最近、とても忙しい毎日を過ごしている。 有り難いことでもあるけれど、有り難くな…

りりあ
1年前
64

素人「クッキー缶」大奮闘記 〜ドキュメンタリー編〜

ずっと憧れていた手作りクッキー缶の蓋をカチッと閉じた瞬間、頭にふと浮かんだ。 クッキー缶=ローマであるかはさて置き。 これを完成させるまで、半年以上かかった。何…

りりあ
1年前
123

「浅草ルンタッタ」を、最前列で読む。

生きていると、時々、自分の力だけではどうにもならないことにぶち当たる。 その度に、悔しくなったり、寂しくなったり、不安になったり。 時には人知れず涙を流す日だっ…

りりあ
1年前
73

香港の地下通路から、宇宙へ

あの日は、冷たい雨が降っていた。 薄暗い地下通路。 湿った壁にもたれて座る、一人の女性。 丁寧に束ねた白髪とは対照的に、ブラウスは所々破れている。 籠には、小さな…

りりあ
2年前
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北条政子への一歩

「りりってさ、勉強がこんなに得意なのに、どうして歴史が苦手なの?」  高校二年の時、友人のサラから言われた一言。  青春真っ最中、花様年華。初めてのことばかり…

りりあ
2年前
100

「交換ノート」を続けるということ【#もの書き100問100答】

noteを始めてから約2年が過ぎようとしています。 ここには、ブログや掲示板、日記、SNSとも違う、なんとも不思議な空気が流れています。 この感覚って何かに似てるな、な…

りりあ
2年前
91

学年1位の女の子が「勉強なんてやめてしまえ!」と言われて

気づいたら、30歳になっていた。 子どもの頃想像していた「30歳」はもっとはるかに大人で、しっかりしていて、強いイメージだったけれど、今も私はあの頃と同じように日々…

りりあ
2年前
1,253

あの家族の名前を、私は知らない。

「やばいっ、地震だ! 外に出て! 早く!」 3月11日。 決して忘れることができない、あの日。 ドカンッ 自宅でテレビを観ながらぐうたらしていた私は、下から突き上げ…

りりあ
2年前
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幕開け[第1話]

「おつかれさまです。鍵、お願いしまーす」  時計の針が、八時をさしている。今どき珍しい手巻き式の腕時計は、祖父から受け継いだ大事な形見だ。レトロなデザインで気に…

りりあ
2年前
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「note創作大賞」上から見るか、下から見るか、終電から見るか。

金曜日、23時35分。 やばい、今日もこんな時間になってしまった。 印刷した校正用紙も企画書も、しっかり分けてファイリングしないといけないのに、もう間に合わない。全部まとめて同じファイルにバサバサと突っ込む。明日整理しよう。と思ってこの半年ほど整理できた試しがない。 画面上に開きっぱなしのWordやExcelをとりあえず全部上書き保存して、急いでシャットダウンする。 気づいたらフロアには誰もいなかった。 見回りにきた警備員さんに「今日も最後?」と聞かれ、そうみたいです、と

幕開け[第5話]

〈第1話〜4話〉 ・・・ 「東京の今日の最高気温は三十四度です」  今朝のニュースを、ふと思い出す。まだ七月に入ったばかりなのに、夏を絵に描いたような快晴だ。久しぶりの現場で、私は全身から汗が噴き出るほど慌ただしく走り回っていた。 「こちら高橋です。深山さん、取れますか?」  いつも冷静な高橋主任の声が、今日はどことなく高揚している。外れかけたイヤモニを、 慌ててセットし直した。 「深山です。どうぞ」 「昨日の会議で出た特攻の火薬について、担当者に最終確認できそう?」

幕開け[第4話]

〈第1話〜3話〉 ・・・ 「やっぱりすごいと思うよ、駿介は」 「……こんな話してるのに、か?」 「うん。だって、普通はそんな辛いとき、ぐうたら過ごす人がほとんどだよ」 「ははっ。なんだよ、それ。そんなこと、ないだろ」  心底わからないという表情のまま、駿介は首をかしげていた。 「ううん、そういうものだよ、普通はね。でも、駿介は違う。自分を見つめ直すために、きっと色々したんでしょう。いつもは出ない同窓会に参加してみたりさ。……きっと今はもう、心は決まってるんじゃない?」  

【物語のあるスイーツ】~春夏秋冬のおやつレシピ&エッセイ~

 みずみずしい苺がぷつりと乗ったショートケーキ。サクサク食感がたまらないクッキー。どこか懐かしいプリンア・ラ・モード。週末に作り置きしたパウンドケーキ。  あまーいスイーツが食べたくなるのは、どんな時ですか?  私が一番甘いものを欲するのは、身体や心がクタクタに疲れている時、かもしれません。糖分を補給したいというのもあるけれど、スイーツは、ただそこにあるだけで人を幸せにする力があると思っています。見た目が華やかで、キラキラしていて、繊細で、宝物みたいなもの。最近は手軽に買え

幕開け[第3話]

〈第1話・2話〉 ・・・  チリン、チリン。  夏でもないのに、なんでいつもこのお店には風鈴があるんだろう、と高三の私が呟くと、駿介は迷わず、風鈴は癒しの音だからだろ、と答えた。  あの時と同じ音が鳴ったことに、少し驚いた。 「いらっしゃいま……」  花柄エプロンの店主が、奥からひょっこり顔を出した。目をまん丸に広げたまま、口元をマスクの上から抑えている。 「お久しぶりです、みつこおばちゃん」 「わあ! びーっくり! どうしましょ」 「ごめんね、驚かせて」 「嬉しいわあ。

あの時言えなかったありがとうを、「ハッピーターン」に。

「ありがとう」という言葉は、簡単そうで意外と難しい、と大人になった今でも思う。 難しいという表現が正しいかはわからないけれど、伝えすぎると胡散臭く聞こえるし、言葉にしなければ全く伝わらない。 不思議なことに、仕事でお世話になった人や街で親切にしてくれた人など、一定の距離がある相手には素直に伝えられるのに、いつも一緒にいる家族や当たり前に側にいてくれる人には、心の中で一方的に伝えておしまい、にしてしまうことも多い。天邪鬼な言葉だなと思う。 けれど、最近思うのだ。 そういう相

幕開け[第2話]

・・・ 「ところで、今日はなんで参加したの? 暇だから、だけじゃないでしょ。あんたの性格からすると」 「うわー、そんなことまでわかんのか。さすがだね、キャリアウーマンさん」 「もう。そんなこと言うなら、この先ずーっとスーパースター様って呼ぶからね?」 「お願いだから、それだけはやめてくれ」  くだらない話を続けていたら、いつの間にか緊張はほぐれていた。それと同時に、どんなに頑張っても駿介に敵わないという事実を思い出してしまった。私の高校時代の成績は、 万年学年二位。勉強時間

私の「美しい鰭」を探す旅

久しぶりに、人前で泣いた。 ぎゅっと閉めていた感情の蛇口を捻られたみたいだった。 最近、とても忙しい毎日を過ごしている。 有り難いことでもあるけれど、有り難くないことでもある。 めざましの音で目覚めてから夜の作業中に寝落ちるまで、ほんの一瞬。 そしてまた、目は覚めて朝が始まる。 たった24時間でも、いろいろなことが起こる。 定期券を家に忘れたり。 満員電車でぶつかってしまったリュックを睨みつけられたり。 友人から結婚の知らせが届いたり。 何十枚も書いた企画書が通らなか

素人「クッキー缶」大奮闘記 〜ドキュメンタリー編〜

ずっと憧れていた手作りクッキー缶の蓋をカチッと閉じた瞬間、頭にふと浮かんだ。 クッキー缶=ローマであるかはさて置き。 これを完成させるまで、半年以上かかった。何気なく「作ろうかな〜」と思い始めた時から考えると、丸1年。 プロでもないド素人が趣味で作るお菓子だろうと笑われるかもしれないが、私にとっては一大事だ。 ついに、クッキー缶が完成した! 大きな失敗もなく! 途中で諦めることもなく! 11種類ものクッキーを! 焼いて! 焼いて!! 焼きまくって!!! 冷まして、詰めた

「浅草ルンタッタ」を、最前列で読む。

生きていると、時々、自分の力だけではどうにもならないことにぶち当たる。 その度に、悔しくなったり、寂しくなったり、不安になったり。 時には人知れず涙を流す日だってある。 「ああ、今回ばかりはもうダメだ。もう頑張れない……」 そう思っていたはずなのに、思い返せば、その度にどうにかこうにか立ち上がってきた。 頑張れないときこそ、楽しかった、幸せだった、そんな"記憶"が蘇る。 負の感情をふわっと包み込んでくれる、思い出やリズムがある。 大好きなアーティストの公演で聴いた、あの

香港の地下通路から、宇宙へ

あの日は、冷たい雨が降っていた。 薄暗い地下通路。 湿った壁にもたれて座る、一人の女性。 丁寧に束ねた白髪とは対照的に、ブラウスは所々破れている。 籠には、小さな硬貨が疎らに入っていた。 じっと見つめると、彼女は申し訳なさそうに微笑み、やがて下を向いた。 3歳の頃だ。 父の故郷・香港で家族と夕飯を食べ、ホテルまでの帰り道。 なぜ彼女が一人でここにいるのか、なぜ寂しそうに笑うのか。私は理解できないまま、ただその濡れた瞳だけが心に深く、深く焼きついた。 「香港人と日本人の

北条政子への一歩

「りりってさ、勉強がこんなに得意なのに、どうして歴史が苦手なの?」  高校二年の時、友人のサラから言われた一言。  青春真っ最中、花様年華。初めてのことばかり、毎日がドキドキで埋め尽くされていた、あの頃。  一生忘れられないと思ったファーストキスの感触さえ忘れてしまったというのに、 三十になった今でも何故かこの言葉の響きは頭にこびりついて離れない。自分の中で、じくじくと広がる罪悪感のような、言い訳できない後ろめたさがあるからなのか。しかしそれは 一体、何に対する後ろめた

「交換ノート」を続けるということ【#もの書き100問100答】

noteを始めてから約2年が過ぎようとしています。 ここには、ブログや掲示板、日記、SNSとも違う、なんとも不思議な空気が流れています。 この感覚って何かに似てるな、なんだろう……とずっと思っていたのですが、もしかすると「交換ノート」かもしれない。と、先日ふと思いました。 中学生の頃、まだスマホ、いや携帯すら持っていなかったあの時代。友人とのやりとりは手紙や交換ノートが主流でした。 初恋の人に初めて手紙を渡した時のあのドキドキ感、今でも思い出します。便箋を選んで、ペンを選

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学年1位の女の子が「勉強なんてやめてしまえ!」と言われて

気づいたら、30歳になっていた。 子どもの頃想像していた「30歳」はもっとはるかに大人で、しっかりしていて、強いイメージだったけれど、今も私はあの頃と同じように日々悩み、もがき、時に悲しみ、笑いながら生きている。 この年齢になると、結婚・出産をする友人が増える。 FacebookやInatagramの幸せな「ご報告」は、私がまさに想像していた大人の姿の1つで、自分の人生を次のステージに進めていることが、純粋にかっこいいと思う。子育てに奮闘する彼女らと話をすると、仕事に明け

あの家族の名前を、私は知らない。

「やばいっ、地震だ! 外に出て! 早く!」 3月11日。 決して忘れることができない、あの日。 ドカンッ 自宅でテレビを観ながらぐうたらしていた私は、下から突き上げるような大きな揺れに驚いて飛び起きた。 微睡みながら寝ていた猫は、毛を逆立てたまま一目散に外へ飛び出していく。 母は血相を変え、急いで窓や扉を開けにいく。 大きな食器棚が、ゆらゆらと揺れている。 何が何だかわからないまま、スニーカーを引っかけて外へ出る。近くの駐車場まで走る。 ぐわんぐわん、と視界が揺れた

幕開け[第1話]

「おつかれさまです。鍵、お願いしまーす」  時計の針が、八時をさしている。今どき珍しい手巻き式の腕時計は、祖父から受け継いだ大事な形見だ。レトロなデザインで気に入っているけれど、ずぼらな性格の私は一昨日から一度も巻いておらず、当然ぴくりとも動いていない。それなのに、低いガラス戸をカラカラと開けながら、今日は絶対に最後じゃないぞ、と思った。 「はい、Bの三番、受け取りました。深山ちゃん、今日も最後だよ。最近残業多いねえ」 「えーっ、今日は少し早いと思ったのになあ」  根拠のな