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私の「美しい鰭」を探す旅

久しぶりに、人前で泣いた。

流れるまんま 流されたら  抗おうか 美しい鰭で
壊れる夜もあったけれど 自分でいられるように

ぎゅっと閉めていた感情の蛇口を捻られたみたいだった。

最近、とても忙しい毎日を過ごしている。
有り難いことでもあるけれど、有り難くないことでもある。
めざましの音で目覚めてから夜の作業中に寝落ちるまで、ほんの一瞬。
そしてまた、目は覚めて朝が始まる。

たった24時間でも、いろいろなことが起こる。

定期券を家に忘れたり。
満員電車でぶつかってしまったリュックを睨みつけられたり。
友人から結婚の知らせが届いたり。
何十枚も書いた企画書が通らなかったり。
推しのラジオを聴きながら社食でランチをしていたらBluetoothが繋がっていなかったり。
残業時間について理不尽に怒られたり。
念願のライブ抽選に全落ちして落ち込んだり。
楽しみにしていたセミナーの内容がつまらなかったり。
SNSで知った悲しいニュースが脳裏から離れなかったり。
数年前から治らない胃腸の不調が少し悪化したり。
ジンくんに続いてホビが入隊してしまったり。
仕事を急いで切り上げて向かった予定がドタキャンされてしまったり。

16年ぶりの同窓会の知らせが届いたグループLINEを開いてみたら、100人以上いるメンバーの中でわかるのはたった数人だけ。
ああ、こうやって歳をとっていくのかと、なぜか悟りをひらいてみたり。

それでも、私は何食わぬ顔で、時にはちょっとクールに、1日を過ごす。
きっと「このひとの人生イージーモードなんだろうな」と思われそうな雰囲気を纏って。


自分にとって悲しい大きな出来事が起きたときは、しっかり涙を流せる。
例えば、知人から癌なんだと打ち明けられたとき。
家族が亡くなったとき。
泣かないと、身体や心がもたないからなのかもしれないけれど。
泣いて解決することがひとつもなくても、それでもやっぱり、少し落ち着く。

こんなに大きな悲しみに比べたら、毎日起こる出来事に対する感情のゆらぎなんて本当にちっぽけなもので、簡単にやり過ごせる。
1つ1つ、理解して。反省するところは反省しながら、自分にどうにかできる問題とどうにもできない問題は、しっかり分けて考えて。
と、思っていた。

でも、数日前に帰りの電車の中でふいにこぼれた涙は、きっと毎日の小さな出来事への感情のゆらぎ、なんだろうと思う。
さっき羅列したみたいな、ほんの些細なこと。
悲しい、寂しい、切ない、の積み重ねのようなもの。
誰にも悟られたくない、いや、自分でもできれば見て見ぬふりをしたかった、心の奥底にあるダークでグレーな気持ち。
そんな、触ると壊れてしまいそうな、やわらかくて曖昧な感情さえ引き出してしまうのが、スピッツの音楽だ。

中学生の時に初めて聴いたときから、そうだった。わかっている。わかっていたけれど、それでもこんな風に気づかされたことに、また驚く。

びっくらこいた展開に よろめく足を踏ん張って
冷たい水を一口
心配性の限界は 超えてるけれどこうやって
コツをつかんで生きて来た

まだコツはつかめないけれど、と思いながら、またここで涙がほろっと落ちる。

そうだよな。
心を込めて時間をかけてずっと関わってきたプロジェクトが、突如終わりを迎えた。ちっぽけな私には反論すらできなかった。
数年かけてつくっている企画はまだまだ通りそうにないし。
最近の睡眠時間は3、4時間のことも多い。
頼りにしていた同僚が、別の部署に異動してしまった。
結婚して出産して人生を前に進めている友人たちに比べて、自分はまだそのステージに行けていない。

その度に、自分の気持ちを受け止めたり振り返ることもせず、ただ進んできた。
何食わぬ顔で過ごしてきたことを暴かれたような、不思議な気持ちになる。
流れた涙はほんの数粒だったけれど、驚くほど息が吸いやすくなった。 

ふう。

すると、不思議なことに、しあわせが、楽しみなことが、ひとつふたつと増えてゆく。

今日は少しあたたかい。大好きな夏が近づいてきた。
化粧ノリが、いつもよりちょっと良い。
電車で席を譲ったら、ありがとうと感謝された。
可愛いカフェを見つけた。
仕事で行けないと思っていたラジオのイベント、スケジュールが空いたから行けそうだ。
久しぶりにお気に入りのお店でバインミーを買った。
同期に会えた。
「ハイキュー!!」は何度読んでも胸が熱くなる。今度noteに書こう。
取引先がおいしいお菓子をくれた。
パーソナルトレーニング後の筋肉痛が心地いい。

人生を変えるような大きな喜びや幸せではないかもしれない。
けれど、こうやって小さなしあわせや小さなかなしみが積み重なってこその人生なのだと、私は思う。時に突然やってくる悔しさや苦しみも、全部まるごと抱きしめて、それ以上に楽しんで生きてやる。
 
そうだった。思い出した。
幸せは、途切れながらも続くのだ、と。


翌日、夜8時55分。
仕事を切り上げ、小走りで向かった閉店間際のCDショップ。
いつぶりだろう。
…あった。最後の1枚。


音楽もサブスクで手軽に聴けるようになった。
そんな便利な時代に、疲れていても、数駅隣のお店まで行っても、どうしても手に入れたい音楽がある。

スピッツ「美しい鰭」 

私のおまもりが、もう1つ増えた夜。

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