一色 恭平

酸味少なめのインスタントコーヒーが好き。 漫画、アニメも好きだけど、最近離れ気味。 メ…

一色 恭平

酸味少なめのインスタントコーヒーが好き。 漫画、アニメも好きだけど、最近離れ気味。 メモしてある文章をこっちに記録しておこうと思います。 詩、短編、短歌を載せていきます。 名前は偽名メーカーいじくりまわしました。

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  • こんな夢を見た。

    夏目漱石の作品『夢十夜』の一行目。 これを借りて書いたもの。

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夏の童心

 まどろみの中、生暖かい風が私に触れた。瞼を開けて、視界に広がる景色をみて、これが夢であることを悟った。  こんな夢を見た。  森の入口に佇む少女を、私は遠くから眺めていた。  私の年齢はその少女と同じくらいであったろうか、二十ばかり若返った自分が、森に続く畔道の真ん中に立っていた。  夕暮れのひぐらしはけたたましく鳴き、瑠璃色の境界が幾分山の向こうに差しかかっている。  暗くなる前に帰らなくては。そう思うが、自分と同年代のその少女を残して帰るのは気が引けた。 「日が沈

    • 【詩】また会う日まで

      君にとっては 突然のことだろう さよならを言わずに 僕はここを発つ いつもと同じ笑顔で いつもと同じ声音で いつもと同じやりとりで いつもと変わらぬ一日のまま 僕は君の前から姿を消す 今日君へ送る「またね」は、 明日や明後日会うつもりで告げるものではない。 僕はしばらくの間、 君の前から姿を消す。 その"しばらく"が、 どれくらいの期間なのかは僕も知らないけど、 それでもいつかまた会えることを信じている。 また会う日まで元気でね そういうつもりの「またね」である。

      • 【詩】約束は果たせずに

        星屑を集めたら 君に届けに行こうと思う 星のない夜空を見上げて 僕はただただ立ちすくむ いつのまにか 遠くまで来たらしかった 空っぽの瓶には 虚しさだけが詰まっていた 星空を、また見に行こうねと、少女は言った。 無邪気な声音は残響となり、 僕だけがまだ、少年のままだった。 理想を追いかけたかった。 ブレない芯などなかったのに。 小さな世界を飛び出したかった。 大切なものは、変わらないのに。 この気持ちが少年のままだから、 今でも君との約束を果たしたかった。 丘

        • 【詩】秋風の夢

          秋風の夢 すすきの穂が揺れる 鈴虫の歌 木の葉が踊る 過ぎゆく風の流れの中に 揺蕩う何かを感じていた 昼間の退屈が嘘のような 放課後の焦燥 辺りが暗くなる その前に 君の後ろ姿に声をかけよう 短くなった夕暮れだから 君と一緒にいたい 切ない風にさらわれる前に クレーターまでくっきり見える 月が向こうに見えてきた 大きく紅い満月に 怪しい夕暮れ 心細さの中に 怪奇な期待が芽生えていた 夜が来る その前に あの子の背に 声をかける 空き地に群生した すすきの穂

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        夏の童心

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        • こんな夢を見た。
          3本

        記事

          【詩】夏よさよなら

          9月も10日を過ぎて 晩夏のひぐらしの鳴き声が一つ、 大通りで自転車を漕ぐ僕の耳に届いた 僕はパチンコ屋に自転車を止め 駐車場の向こうの緑地に足を運ぶ ひぐらしの、 もう一鳴きを聞くために 今年の夏の、 夕暮れの風情の聞き納めに 入道雲と呼ぶには背の低い 中途半端な雲の峰に 夏と呼ぶにはやや薄い 薄紅が映える頃 駐車場の隅で 夏とのお別れ 木々の間から 秋の気配を運ぶ風 日は傾いて 雲の峰は早々に その白さを取り戻しつつある いずれ濃紺に滲み 夜風に平らになるの

          【詩】夏よさよなら

          【詩】遺影の貴方

          遺影に写るその人を思う 僕の記憶にない頃から 僕を愛し 僕を慈しみ 僕の幸福を願っていたその人 遺影に写るその笑顔を思う 黒い着物のその人は その時のためにこの写真を用意していた その人は去り、この遺影を残した 柔らかく、優しい、大好きな笑顔 きっと見ていたのはカメラのレンズではない 自分が去ったその後に 自分を悼む血族に お前たちなら大丈夫と伝えるため お前たちを見守っていると伝えるため 我々の記憶にない頃から 我々を愛し 我々を慈しみ 我々の幸福を願っていた祖母

          【詩】遺影の貴方

          【詩】メモリー

          ふいに込み上げてくるような 意図的に引き出せないような 宝箱には何を入れていたっけ 誰がネジを巻いたのだろう オルゴールが回りだす ドラゴンと子豚と旅人の行進 月の夜に光るキノコ 夢の中にいるような 時を巻き戻したような あの気持ちはどこにしまったっけ 誰が僕に語るのだろう 絵本の扉が開かれる 魔女のキャンディと老木の微笑み 回るメリーゴーランド 飛び出すピエロ 浮かぶ島々 オバケの装い 繰り返すメロディ 宝物を一つあげる その気持ちを忘れないで 誰がネジを巻

          【詩】メモリー

          【詩】眠れない夜というのは

          歳が今より半分も若かったころ 夜中に女の子にメールを送った 今のように既読のつかなかったころ メールを見てくれたかどうかもわからなかった 幼い決意を込めたメールは 確認されたのか それとも既に夢へと旅立ったのか 眠れない夜というのは 僕にとってそういうものだった 夜がやけに長かった あの子はまだ起きているのか 起きているとして メールは確認してもらえたのか 確認したとして 今は返信を考えているのか 考えているとして その内容はどんなものなのか 新着メー

          【詩】眠れない夜というのは

          【詩】形のないもの

          山道を歩いていると この山のどこかに、 自分の探している物があるような気がしてくる 細い山道をひた歩く 陽だまりの中に見つかるような 風のいく先にあるような それはきっと、 必要としていない人も多いのだろうけど、 自分にとってはかけがえのないもの おそらく、私がここにいる理由 鳥の鳴き声が木立に響く 川のせせらぎが耳に優しい 細い山道をひた歩く 大木の洞に見つかるような 朽ちた祠で待つような それはきっと形を持たず、 私の弱さを受け入れて、 不安や懸念を遠ざけるもの

          【詩】形のないもの

          【詩】分岐点

          真っ直ぐ行って右折する 真っ直ぐ行って右折する それでも僕は歩いている 突き当たりを右に 突き当たりを右に それでも僕は歩いている これまでもこれからもそんな感じ 思考のそういう傾向 進んでぶつかって二者択一 これまでもこれからもそんな感じ 思考のそういう傾向 進んでぶつかって取捨選択 真っ直ぐ行って右折する 真っ直ぐ行って右折する たまには左折を選んでみよう 突き当たりを右に 突き当たりを右に 次の壁では左に曲がろう その「たまに」は「いつも」と同じ 「いつも」

          【詩】分岐点

          【詩】Piano Man

          きっとその夢は叶わない 大きな大きな夢だから そんな夢があるのなら こんなところに居てはいけない 誰も彼もがここに集まり 楽しそうに夢を話す そして歌うんだ きっと最期はあっけなくても 夢なんて叶わなくても ここにいる幸せには敵わない 「なあ、俺はこんなところで終わるのかな」 心細さに苛まれる時もある 「その夢を叶えるためにここにいるんだろ」 友人が励まし、そうして今日をやり過ごすんだ 誰も彼もがここに集まり 思い思いの夢を話す そして歌うんだ 顔見知りが増えた酒場

          【詩】Piano Man

          【詩】サービスエリア

          雨降る夜のサービスエリアで 君とホットコーヒーを飲みたい ヘッドライトの乱反射に目を細めて 過剰に熱いコーヒーを啜って 雨音と水蒸気にけむる景色を君と楽しみたい きっと心は寄り添って 布越しの体温がどんな時より愛おしい 言葉少なにコーヒーを啜る パーキング横の遊歩道 少し歩くのもいいじゃないか 茂みの闇のあたたかさ 差し込む光が闇を強める 葉から溢れる雫の音に 深く呼吸する 傘はささずに車に戻る 照明灯に照らされて 霧雨がベールのように 僕ら二人を包み込む なぜだか

          【詩】サービスエリア

          【詩】夕陽と星空と僕

          乾いた空気に乱れた呼吸 空が次第に赤くなる 整備された公園の 脇の茂みの暗がりに 夕暮れの近さに心が翳る 整備された公園の 夜の姿を思い描いた 電灯に煌々と照らされた誰もいない公園で 何かが始まりそうな予感を覚えた 乾いた書籍と緩やかな時間 西陽が室内を赤く染める 埃っぽい図書室で 読書の時間にあの子が読んだ 図書カードに名前を連ねる カップリング曲の方が好きで 助手席に座って何度も繰り返した こんな寂しい歌の どこがいいんだと母が言う 赤く燃えた空が冷えて 星が出てき

          【詩】夕陽と星空と僕

          【詩】かけことば(再掲)

          以前投稿した詩に、知り合いがイラストを描いてくれました!(ヘッダーのやつ) なんかイラストがあるとまた別の感じがしてきます。ありがとうございます!! つらつら綴る 慎ましく 気持ちを包む 拙く伝う とろとろ蕩けて滔々と あなたと永遠に居続けたい ゆらゆら揺らめき揺蕩いながら あなたの憂いを癒しましょう さらさら誘う笹の音と あなたへ囁く風になろう するするすり抜け涼風に あなたが好きだと打ち明けた しとしと滴りしとど想う あなたに嫉妬してほしい くるくる巡る久遠

          【詩】かけことば(再掲)

          【詩】僕は僕のままだって

          当時の僕は 将来の自分を立派に思い描いたわけだけど そんな自分にはなれないよ。 今の僕は、当時の僕の連続だって知っているから 今もあの時と同じ自分だって 今の僕は知っているから 当時の僕は きっとなんでも成功している将来を 思い描いたわけだけど そんな人にはなれないよ。 今の僕は、当時の僕の連続だって知っているから 今も当時の僕のままだって、 今の僕は知っているから ちょっと考えればわかることだって 今の僕は言うけれど そんなの当時の僕にはわからないわけで きっ

          【詩】僕は僕のままだって

          【短編】魔の祭日(3000字程度)

           月の見えない重苦しく心地よい闇の下、庭先のカボチャの火が足元を照らす。  彼の命がゆらゆらと庭を見つめている。口は歪んだ笑みを表し、目は恍惚とした虚ろである。このカボチャとなった者の生前に、私は想いを馳せた。  きっとカボチャのようにからっぽで、なんにでも興味を示す、危機感の一切がくり抜かれたおつむをしていたことだろう。そんな生物はどこを探しても人間以外に他はないのかもしれない。あるいは飼い慣らされた愚かな犬が稀に当てはまるか。  まったく、犬を好く人間というものが理解で

          【短編】魔の祭日(3000字程度)