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【詩】夏よさよなら


9月も10日を過ぎて
晩夏のひぐらしの鳴き声が一つ、
大通りで自転車を漕ぐ僕の耳に届いた


僕はパチンコ屋に自転車を止め
駐車場の向こうの緑地に足を運ぶ


ひぐらしの、
もう一鳴きを聞くために


今年の夏の、
夕暮れの風情の聞き納めに


入道雲と呼ぶには背の低い
中途半端な雲の峰に
夏と呼ぶにはやや薄い
薄紅が映える頃


駐車場の隅で
夏とのお別れ


木々の間から
秋の気配を運ぶ風


日は傾いて
雲の峰は早々に
その白さを取り戻しつつある
いずれ濃紺に滲み
夜風に平らになるのだろう


駐車場に届く鳴き声も
次第に遠ざかっていく


風だけが涼やかに
木々の間から吹いてくる


残暑はまだ続くのだろう
しかし、夏とはお別れ
精一杯の夏だった
でも、


鈴虫の鳴く中で
ひぐらしの残響が止まない


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