日本のコンテンツ産業の未来は明るいのか?
こんにちは。うつ病エンジニアの三十郎です。
「クール・ジャパン」、「日本の○○が海外で大ヒット」など、この分野においては、自画自賛の風潮が強いイメージを持たれている方も多いでしょう。しかし、「自画自賛」ほど危険な発想はありません。本当にそうなのか、検証してゆきたいと思います。
日本由来のコンテンツの売り上げシェア(2016年)
少し古いデータですが、経済産業省発表のものです。
金額でわずか4.4%、これが世界の現実です。「アニメの存在感は、世界を圧倒しているではないか?」と疑問に持つ方も多いでしょうが、確かに数は多いですが、世界の相場観を分からずに安売りしすぎているのです。海外へ行ったことのある人は、日本のアニメが放送されていることを多く目撃していると思います。しかし、ビジネスセンスがないと儲からないのです。これは、実にもったいない事例です。
世界の感性からずれている?
私が学生の頃、日本に来ていた海外留学生が驚いていました。「何故、日本では、黒澤明監督の評価がこれほど低いんだ?」。世界の名だたる映画監督が師と仰ぐ黒澤明。その評価は先進国のみならず途上国でも非常に高いものでした。それなのに日本の学生は、その弟子とも言えるスピルバーグ監督やルーカス監督の映画の話ばかりしている。「彼は世界の宝だ!」と半分怒っていました。
逆に宮崎駿監督の評価は海外でも高いと思っている日本人は多いでしょう。実際に海外映画祭で数々のノミネート作品を生み出しました。確かに海外にも熱狂的なジブリファンが多いですが、未だにアニメーション作品への偏見が残っているため、子供向け映画扱いです。ディズニーのアニメーション映画を見ると良く分かりますが、万人向けと言うよりは、子供向けに作られています。ジブリ作品は分かる人にしか分からないのです。
音楽の方も見てゆきましょう。ビルボードランキングで1位を獲得した坂本九の「上を向いて歩こう(スキヤキ)」が、未だに日本の曲と言えば...が現実です。日本で圧倒的人気を博したピンクレディーや松田聖子もアメリカ進出を目指しましたが、見事、返り討ちです。でも健闘しているミュージシャンもいます。BABYMETALは、アメリカで最も売れた日本人アーティストとして坂本九を追い抜きました。彼女たちの日本での評価は、「オタク向けのヘビメタバンド」であり、同様に海外展開を試みたPerfumeよりも低いです。しかし、アメリカでは逆の評価になっています。アイドルがヘビメタのギャップの方が受けているのです。
マンガの力を見せつけろ!
私も日本のマンガ作品は大好きです。中年親父ですが未だに毎週買っています。しかし世界では、マンガは子供向けの娯楽との偏見が根強いのです。なので海外の大人は、なかなか振り向いてくれません。何故なのか?
答えは簡単。マンガは文字縦書きであり、右開きに読み進めます。一方、ほとんどの海外の文字は横書きであり、左開きに読み進めます。その結果、いくらセリフを横文字に直しても、コマの読み進め方が分からないのです。日本のマンガの面白さに気がついた人は、読み方をマスターし熱心なファンになります。東南アジアなどに行くと、昨週のジャンプが現地語で発売されていたりしています。(多分、集英社の許諾は取っていない)
日本のアニメーションが受けるのは、映画と同じような感覚で頭に入ってくるからです。しかし、小さな子供でも分かるストーリーのアニメーションとの制約ができています。ドラえもんやドラゴンボールが海外で大ヒットしていますが、宇宙戦艦ヤマトやガンダムはマニア向けにしかヒットしませんでした。所詮、子供が楽しむものとの先入観が未だ抜け切れていないのでしょう。
しかし、面白いもので、海外からの留学生(大学生)は、○○レンジャーや仮面ライダー○○の大ファンになります。これも理由は簡単。未だ日本語を聞き取ることができなくても、小さな子供でも分かる構成になっているので、「こいつが正義で、あっちが悪者だ」とストーリーを何となく分かってしまうからです。ここに文化の壁を乗り越える、何らかのヒントがあるかも知れません。
ここまでマンガ文化の発達した国は、世界中探しても日本しかありません。改めて、手塚治虫先生が残された功績は偉大だったのだと感じます。全ての源流がここにあります。子供向けから大人向けまで(成人向けもありますが)、実にバラエティーに富んだ世界がハリウッド映画の如く残されています。クリエイター(マンガ作家)達も尽きること無く輩出されています。日本に、こんな勢いのある産業が他に残っているでしょうか?
そして、そこを起点に多くのアニメーション作品を生んでいるのです。それらが海外で評価され、強力なバリューを生んでいるのです。海外ではミッキーマウスよりもドラえもんの方を知っている子供の数が圧倒的に多いでしょう。ディズニーは高額なライセンス料を求めるのに対し、日本のアニメが安いからです。皮肉な結果です。
更に、この業界は、やりがい搾取の低賃金労働で、多くのアニメーター達の犠牲の上に成り立っています。そして、そこに目を付けた中国企業が、高報酬を条件に日本の優秀なアニメーターを引き抜き始めています。これは業界内における金の分配構造の問題で、ここを正さないと日本のアニメ産業までもが中国に横取りされかねません。喫緊の問題です。
クリエイター達に正当な報酬を
今の日本は、「安い日本」として世界に知られています。しかし、世界的に良質な作品に対しては、世界的に正当な報酬が支払われるべきです。それじゃないとクリエイター達も力尽きる恐れがあります。マンガやアニメーションが特に顕著ですが、一部の人にお金が集まる生態系では長続きしなくなります。若い人を育てるための投資が不可欠です。手遅れになる前に、そのような生態系作りが必要です。
出版社やアニメーション制作会社の経営も苦しいのは知っています。しかし、21世紀のデジタル社会にはデジタル社会に合った生態系を構築する方が合理的です。出版の形態も電子化すれば、他言語への翻訳、コマの読みやすさの問題も解決できるかも知れません。効果音も別のレーヤーに書き込めば、他言語への差し替えも容易です。日本は、人口減少社会へと突入しました。国内市場向けに絞れば、パイは小さくなる一方です。ますます安くなるしか無くなります。これからは海外市場展開を前提で作品を提供する必要があります。
これは何もマンガやアニメーションに限った話ではありません。他のコンテンツ産業も海外展開を前提として作品を制作してゆく時期に変わったのだと認識すべきです。日本のコンテンツ産業の光は、日本の外にあるのです。
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