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きみ、謳えよ

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きみ、謳えよ

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耽溺

唇から身体全体に、熱が水紋のように拡がっていく。その時感じた温度と感触は、正しく僕の脳味噌に記憶された。 恥じらいと危うさで、僕たちは容易く酔えてしまう。 不思議だ。 叩かれたわけでもないのに、頬がこんなふうに熱を持つなんて。 自分のものでは無い誰かの呼吸が、心音が、命そのものが直ぐ傍にある。それを一度でも意識してしまえば、忽ち五感は敏感になった。そうして、そうする必要はないのに、何故かその時僕はいつも息を止めてしまうのだった。 幾らでも乱暴に振り回すことができてしまうのだ

      • 魚群

        最近ここの更新頻度が低いのは、単純明快な事由。以前ほど言葉を思う儘に綴れなくなったせいだ。 以前は、感情に言葉を着せることがもっと楽にできた。 「人間は、自分の知っている言葉の中でしか思考できないからね。」という言い分が一理あるとすれば、僕の感情に適した言葉は、僕の脳味噌の中に常に存在していたことになるし、そこそこの頻度で言葉をインターネットの海に放流していた当時は、今ほど優柔不断でもなければ、矛盾を孕んだ文章に対する恐怖もいくらか小さかったので、こんなにも言葉選びという想

        • 自分の愛するものたちから抽出した感性だぞ信用しないでどうする

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          モウイヤデス。今日はそういう恐竜になります。

          モウイヤデス。今日はそういう恐竜になります。

          答辞

          ────── どうすれば死ねるだろう。 どうすれば終わらせられるだろう。 とばかり考えていた頃もあったと言えるくらい、 どうすれば生きていけるだろう。 どうすれば歩きつづけることができるだろう。 とばかり考えている毎日です。 ぜんぶを曖昧にしていたかった。 だって、傷を傷と認識しただけ、 そこには痛みが生まれてしまったから。 鈍感になればいいんだ。そしたら なんにも痛くならないや、って。 それが当時の最適解です。 仕方がない、と目を逸らして、 誰のせいにもしなかったのは

          前日談

          この紫陽花は少し前、散髪帰りに寄った骨董品店で見惚れた子。 その日はそこで買い物をするつもりは特になかった。 ただこの御店の店主が、時々気紛れに外国から古びた雑貨を輸入する事があったので、少し来ていない間に、品物の景色も変わっているのではないかと気になって、少々立て付けの悪い硝子戸を引いてみただけだったのだけれど、御店の奥に佇む、硝子の小瓶や西洋の陶磁器が等間隔で整列している木棚の上にある、錻の馬穴に、この紫陽花が最初か最後かの一輪だけ残っているのが目に止まって、軽い催眠で

          flower

          昔の写真をもう一度編集してsnsに投稿し直すと、撮影当時の何倍ものいいねがつくことがよくある。もちろんそれは、単に昔と比べてフォロワーさんが増えたから、そして運がよかったからという理由でもあるのだろうけど。 その度にあの頃の、自分の写真は見映えするものではないなという、悩みという程の悩みでもないけれど、喉の奥につっかえた魚の骨みたいな、やや主張の激しいちいさな痛みが、すぅと何処かへ落ちついていくのが分かる。 自分の撮る写真はあの頃からさほど変わっていない。技術だってきっとそ

          心がちぎれた。縫い付けるのも大変なので、いっぱいはちぎらないでほしい世の中

          心がちぎれた。縫い付けるのも大変なので、いっぱいはちぎらないでほしい世の中

          言葉も本も音楽も、別に抱きとめてくれる訳でも、飛び込ませてくれる訳でもないから、冷たいなとは思うけどそれでも、あってよかったとはいつも思う。 冬は人肌が恋しくなるというのが、人間の本能であるだけまだよかった。決して(恐らく)少なくはない割合で、他人も自分と同じような状況におかれていると分かれば、この寒さの中に取り残されている人々のことを、労りたい、やさしくしたいというきもちも不思議と湧いてくる。(傍観) 分厚い毛布でも、無印のふかふかのパジャマでも、柚子の香りがするお風呂でも

          草稿

          「父さんの帰りが遅い日でも、こうして明かりを落として本を読んだり、映画を観たり、窓を開けて月を眺めていたりしていれば、時間は流れていくし、段々と気持ちも落ち着いてくるんだ。こんなふうに、ひとりきりの夜に取り残される事なんてなかった。月明かりや本、野良猫の鳴き声、ココアの甘い香り、僕を慰めてくれる存在は、ここにいくらでもあったからね。」

          孤独と孤独が隣合って座った所で、孤独でなくなるわけではないという事はもう分かっているのだけど、声に諦観の色が濃く滲んでいる人と言葉を交わすのは、やっぱり少しだけ安心する。思考の温度感が近いというだけで、ずっと素直な言葉を口にできるような気がするから。 光には届かなくていい。 助けられたかった頃は過ぎた。 生憎、ご存命だし、 今では「死にたかった頃」とも言える。 それでも、 火傷を負った事を懐かしく思える程、僕は楽観的には生きていけそうにない。この爛れは、勲章でも個性でも何で

          全てが変わって欲しく無かった。 「頬を撫でる手の温度も、空気中に含まれている二酸化炭素濃度も、貴方も、僕も。何も変わらなくて良いのに。 、御願いだから手を離さないで。変わってしまうのなら、其の前に僕を殺して、埋葬して、どうか僕は知らないままで、」

          安心材料

          今此の瞬間が永遠に続けばいいのに、 此の夜が二人だけのものだったらいいのに、 なんて我儘は言わないから、 どうか、彼と僕の間にある余白を全部、 切り取って、標本にして、 僕だけに渡して下さい、 ・

          安心材料

          熱病

          狂い鳴く程の耽溺を憶えた身体は、僅かな火照りに冒される訳も無く、体内で膨らむ空虚を満たす術は、最果てにすらないのだ。 退屈を飼い肥らせただけの日々よりも、君が居ない夏の方が余っ程生を感じられた。 心臓に押し付けられた焼印の様な偏愛が、未だに膿んでいる事を、今日も君の所為にする。「言い掛かりだ」と文句を言いに来てくれる君じゃ無い事くらい、解っているのに。