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彼に貸したお金が「高い勉強代」になるまでの話④「彼の借金と音信不通」

リスケを重ね、初めて会った日の最後は食事代、タクシー代まで彼が出してくれた。

私は、タクシー代をもらう事を、一度断ったが、彼はいいよと言う。ありきたりなやりとりをした後、そのまま受け取ることにした。

一人暮らしの家までは、彼からもらったタクシー代よりも安い料金で着くことができた。おつりを後日渡すと彼に伝えるが、それもいらないと言う。

きっと、お礼を伝え、そのままいただくことが、男性の立て方の1つなのかもしれないが、私も頑なだった。お金に困っている両親のもと育った背景から、お金のことはきっちりしなければならないという考えを持っている。

次会うときに必ず渡そうと、封筒におつりの2,000円を入れ、取っておいていた。

その後も何度かLINEのメッセージのやりとりをし、正式に付き合うことになった。

彼は、「彼女ができたなんて実感湧かない…でも、みこちゃんは俺より甘えん坊っぽいから、みこちゃんが甘えられるような男になるね。」と言った。こんな小恥ずかしい言葉を、私もよく覚えていたなと、この文を書いていて思う。

当時の私はこの言葉を受けて、内心、相当舞い上がっていたのではなかろうか。

そして、再び会う約束をすることになったのだが、平日の夜、お店で一緒にご飯を食べようという私の提案に、彼は「いいけど、俺は夜食べないよ。食べるところ見てるね。」とヘンテコとも思える返しをしてきた。

それでは楽しくないのではないかと思い、私から、じゃあやめようと伝えた。

これまでも、今も、恋人ができたからといって毎日くっついていたい、会いたいといったような感情は薄い。相手も私も双方に仕事などの事情があるのだと割り切っていたからだ。

しかし、彼は、それでも会いたい気持ちを伝えてきた。

どうすればいいのだと少し悩んでいたら、仕事の都合で、私の家の方向に行くため、帰りに家に寄りたいと話してきた。

私は、もうお付き合いをしているし、別に問題ないかと思い、了承した。まったくガードが緩い女である。

彼からのメッセージの内容には前回までにも少し触れてきたが、私からしてみると正直、品性がないと感じてしまう内容も含まれていた。いわゆる性に関する話だ。

お互い大人であり、SEXもコミュニケーションのひとつであるという認識は、今でこそ持てたものの、経験の浅い私からすると、苦手な話題だった。同性とそういった話をするのとは異なる感覚で、自意識過剰だが、自分がそのような対象として見られることに嫌悪感に近いものを常に抱いてしまっていたからだ。

メッセージ上で彼から性体験に関する話題を振らると、交わすことができるが、直接会ってしまうとそうはいかない。恋人関係だから構わないのかもしれないが、雰囲気に流されてしまう事が多い。

彼は週2回ほど数時間、彼の車で私の家に来るようになった。

お泊り会や今度買い物に行こうなど、明るい話ばかりだった。その中で、私は、刺青隠しのアームウォーマーをつけている姿にときめくという話をした。特殊な好みかもしれないが、任侠映画や裏社会をテーマにした漫画などを好んで読んでいた中で、危ない存在やキャラクターを美化してしまっていた。

だが、彼は「そんな漫画みたいに綺麗なものじゃないよ」と言った。頭ではわかっていたつもりだったが、彼が言うと重みを感じる。その通りなのかもしれない。私は悪いことをした気持ちになり、それからは裏社会に関する話題には一切彼にはしなかった。

会う回数を重ねるうちに、私の中では、これは言わないでおこう、この話はどうかなど、彼が好きな事、楽しめる会話を意識するようになっていった。自分主体ではなく、彼が主体となる思考の始まりだった。

彼が話すことに、ただ頷く。仕事の現状や本家の父親とのお金の問題で気になることがあって質問をしたこともあったが、曖昧な反応で返される。彼からの話題は段々と金銭問題の話が多くなっていた。それに対し、彼の表情や、少しでも居心地よく過ごせるようにと精神的な面で支えなくてはと思い始めていた。

物質面での援助は全く考えていなかった。結婚を意識した関係ではあるが、決まっているわけではない。恋人関係である内にお金の貸し借りなど、もってのほかと考えていた。

初めて会った日から1か月ほど経った頃、メッセージ上で彼から告げられた言葉に衝撃を受ける。

「過去、地元の後輩へお金を貸してしまった。」

これが、彼自身が既に借金している身であるのにも関わらず、貸してしまったというのだ。

実の父親からの借りたお金とはいえ、あまりにも軽率な判断ではないかと、彼を疑った。
しかし、後輩へお金を貸した経緯を聞くことにした。

「後輩は家庭を持っていて金銭的に困窮していた。俺が貸せば救えるかなと思って。」
「だけど、連絡がつかなくなってしまった。」
「地元の人間だから、追おうと思えば追えるけど、時間がないから追わない。」

「人にお金を貸す=あげたと思え」よく聞く言葉だ。

しかし、彼の場合は違うと思った。彼自身も、借金をしている身だ。借りる側の気持ちも、貸す側もどうしてほしいのかを理解できているはずだと思い込んでいた。男のプライドというものもあるのかもしれないが、追わない選択に賛成はできなかった。

ただ、直接会っても、メッセージ上でも彼のペース、彼主体の思考に既になっていたため、強く意見を述べることはできなかった。この時点で、私は自分を律することができていない。

そして、それとなく、私に金銭的な援助を求めているのでは、と感じ始めていた。

いくら苦しい状況に立たされているとはいえ、彼にお金を貸すつもりはなかった。これは彼が解決しなくてはならない問題だ。この線引きがあった。

この考えが、正しいかは今でもわからない。
他の人だったら、どうしただろうか。

見切りをつける人もいるだろう。
あるいは、好きな相手が困っているならと、ポンと大金を出してしまう人もいるかもしれない。
感情的になったとしても、対話で向き合う人もいるだろう。

私は、どれにも該当せず、ただ傾聴するだけだった。心がざわつき、かける言葉もなくなっていた。

そして、彼からのメッセージも「うん」「ううん」「疲れた」といった淡白な内容に変わっていった。

終いには「あと〇〇円あればいけるんだけどね。。」と言うようになった。

私は彼は私からの援助に期待しているのだと確信していた。

内面的なサポートをすることによって苦境を脱してほしいと考える私と、物質的なサポートで苦境を脱したいと考える彼との、価値観・考え方の違いが既に起きている。ほぼ頭ではその違いを理解しているのにも関わらず、私の心は認めようとしていなかった。

彼は私からお金を借りるような人間ではないと、私も彼に理想を押し付けていたのだ。

そして、彼から唐突に別れを告げられる。

「本家の父親との条件が守れない。みんな(後輩たち)の人生背負っているから、必死にやってきたけど、無理だ。だから、本家に行く道を選択する。みこちゃんとはもう会えないから、良い人を見つけてね。」

彼の言っている話がどこまで信憑性があるものなのか、今でこそ、冷静な目で判断ができるようになったが、この時の私はとにかく信じ込みすぎていた。彼の状態に感情移入をしてしまい、情緒も危うく、涙がとまらなかった。

プチパニック状態だった。別れたくない思いも伝えていた。

未練がましい一面もあったのかと、自分への嫌悪感も抱いた。

別れを告げられたのは朝方で、日中は連絡はなかった。

私はその日、彼の事を考えると同時に、生前の兄の姿がずっと浮かんでいた。よかれと思ってやったことが周囲に理解されず、苦しみ、感情的になって、周囲を敵とみなす。亡くなる前の1年間は、かなり落ち着いていた。もう社会人として働いてもいるし、心配ないだろうと周囲も安心した頃に、突然自殺したのだ。

借金をしている身で、人にお金を貸すことはまともではないはずだ。

ただ、そこに、そうするしかないと、彼の中でよかれと思った行動だったとしたら?

まともでなかったとしても、認めてあげなければ、兄のように突然いなくなってしまうかもしれない。

そんな不安感を抱えながらも、私は別れを受け入れることにした。

深夜、彼に別れを受け入れることをメッセージ上で伝えたと同時に、「いのちを大事にね」と言葉を添えた。

「なんでわかったの?」

と、返事がきた。ゾッとしたのもつかの間、立て続けに彼からメッセージが届く。

「もう生きていたくないの」
「本家を継ぐくらいだったらいなくなったほうがマシだ」

私はそれでも、彼の心と向き合うためにメッセージを送り続けた。私も冷静ではなかった。

そして連絡が途絶える。

兄の姿が重なる。

兄は亡くなる前に、当時の彼女に告げていたそうだ。彼女はまだ10代だった。まだこどもである彼女は、とても混乱したであろう。私と同じ心境になったのではないか。

その彼女が取った行動は、警察への連絡だった。だが、時すでに遅かった。

父親は、家族に連絡をくれていたら、こうはならなかった。悔しさ、無念な思いから出た言葉だったかもしれないが、その選択をしていたら、兄は生きていたという可能性もある。

私も第三者に連絡を、と思ったが、居住地は知っていたが、彼の住所を知らない。
アプリで知り合い、たった3か月程度の関係で、共通の友人がいるわけでもない。

彼が言っていることが、どうせ嘘だろうと放っておくこともできただろうが、私の経験から、嘘だとしても、やるしかないという思いで、彼の居住地の警察署の生活安全課に電話をした。

電話をかけたのが深夜1時頃だったかと思う。タイミングが悪く、担当者が不在。

朝方の4時に折り返すと言われた。

3時間この不安との戦いだった。いまだ未読の彼に、誤った選択をしないよう、メッセージを送り続けていた。

そして、3時半頃に既読がついた。

生きていてよかったという安心感でいっぱいになり、力が抜けたのを今でも覚えている。急に眠気が襲ってきたが、警察の方からの折り返しの電話にも、謝罪をして、対応を終えた。

そして後日、彼からもまた、お金の話をされることになる。

大げさな表現になるが、天から地へはまさにこのことだと思った。

⑤に続きます。

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[あとがき]

ずんと重い話になってしまっていますが、
mikoは今、自分を取り戻しているので元気です!

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ほっこり気分になっていってくださいね☀️

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