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遠い地の友 ーいつの日かまたきっと③ー

今回は、遠い地の友ーいつの日かまたきっとー3回目です。
①と②を読んでいない方、是非お時間のある時に読んでいただきたいです。

大学2年を休学して行ったインド。
本当に色んなことがあったけど、最終的には行って良かったと思ってる。
過ごした10カ月のことを思い出して書いたものがあったから、それを何回かに分けてnoteにも...。

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彼女の特技

こんな事もあった。
ある時彼女は編み物が得意だということが分かった。「フウナ見て」と、携帯電話の小さな画面に映る自分の作った作品を見せてくれた。子どもの着るセーターや靴下、帽子など小さくてかわいいものばかりだった。
ある日、彼女はスタッフAさんの部屋へ呼ばれた。彼女が部屋へ帰ってきたとき、手には毛糸と編み棒があった。Aさんから渡されたようだ。そして彼女はその日から、勉強…というよりは、編み物をずっとするようになった。「Aさんに何か作って!と渡されたからマフラーを作ってあげるの!」と嬉しそうに話してくれた。しかし、後でAさんと話してみると、Aさんは彼女に、「自分で使うものを作りな♪」と渡したようだった。彼女は勘違いをしているようだったので、私は彼女にその様に伝えた。だけど、「Aさんにあげるの!」と、私の話には耳も貸さず、せっせと毎日手を動かしていた。ゆっくりだからとても時間がかかる。だけど、彼女のペースで毎日毎日コツコツ続けていた。何週間かたって、もう試験期間になろうとしていた。彼女のマフラーもそれなりに長くなってきていた。
そんなある夜、彼女は編み物道具を袋に入れて、棚の中にしまった。
「また今度、続きは冬休みにやることにした!」と言って。そして、試験の勉強も少しずつ始めた。安心した。あんなに毎日勉強する彼女だったのに、編み物を始めてからというもの、ほとんど勉強することが無くなり少し心配していたところだった。

しかし、そんな安心もつかの間、しまってから数日たったある日、私は部屋に帰って目を疑った。なんと彼女、また編み物をしていた。これは驚いた。もう、棚から出してしまったようだ。どうやら1度始めたらやり切るタイプらしい!!(笑)きっとこの数日、終わらせたくてうずうずしていたに違いない。私は笑いながらそれを見ていた。
それからまた数日たって、ついにそのマフラーは完成した。結局冬休みの前に完成してしまった。そしてある晩、完成したマフラーを持って彼女はAさんの部屋に出かけて行った。私はどうなることかと思って部屋で待っていた。しばらくしてガチャッと扉が開いた。見ると彼女はマフラーを手に持って帰ってきた。彼女は笑いながら、「あれは私にくれていたんだって!」と言った。「私、そう言ったじゃん~!!」と言って二人でお腹を抱えて笑ったのを覚えている。彼女はそれから、ずっとそれを首に巻いて暖かそうにしていた。
その頃、もうマキノも寒くなり始めていた。

実は、Aさんの部屋から帰ってきたとき、彼女はもう一つ手に持って来たものがあった。それは“稲作についての本”だった。私たちは稲作の授業もテストを控えていたので彼女はその本をみせて「これ渡されたよ~勉強しないと」と笑っていた。それから彼女はよくその本を開きながら勉強していた。編み物も終わっていたので、これで何も気にすることなく勉強に集中出来そうだった。


祈り

それから、彼女の祈る姿は今でも忘れられない。
彼女はクリスチャンだった。毎日祈りを欠かさない、とても熱心なクリスチャンだった。毎朝起きてから、ご飯を食べる前、夜寝る前にお祈りをしていた。ご飯は3回食べたから最低でも1日5回は絶対お祈りしていた。たまに昼間でもお祈りすることがあった。部屋に帰ってみると、誰かと話していると思いきやお祈りしていたということも何度かあった。また、彼女のお祈りは想像以上にナガイ。長い時には「1時間」なんてこともよくあった。何か悲しいことや、苦しいこと、辛いことがあったときにも神様に語り掛ける姿を幾度となくみた。「どんな時も、どんなことがあっても、神様は側にいてくれる。誰もいなくても、神様だけは側にいてくれる」と、彼女の口から何度も聞いた。辛いことがあると、「私の側には誰もいない!神様だけだよ…」と泣きながら私に言ってくることもあった。そんな時私は、「私は側にいないの!?」と、本気で怒って言ってしまうこともあったなと、今思い出している(笑)。

彼女は日曜日、教会に行く。小さい頃からお父さんが厳しく、毎週教会に行っていたと教えてくれた。残念ながら、ここマキノでは毎週教会に行けるわけではない。スタッフのAさんや、Bさんが行くときに一緒についていくという感じだ。車で行くから、Aさんたちが行かないときには、生徒もいけない。
教会に行く日曜日、彼女はとても嬉しそうだった。朝早くちゃんと起きて、身支度をして、おしゃれして教会に出かけていく。だから事前に知らされることなく、普段着を着て何も準備していなかった時に「今日は教会行くよ」と突然言われたときには頑なに「今日は行かない」ということもあった(笑)。教会に行くときおしゃれをして行くのは、アルビナだけではなく、他の3人も同じだった。私以外の4人は全員クリスチャンだったので、彼らにとって教会に行くことは、すごく特別な事のようだった。

彼女の祈りで思い出深いエピソードがある。
コースのプログラムで、ムンバイに研修へ行った。その時、私と彼女は同じ部屋だった。1日目の朝、2人とも早く支度が終わったので、集合時間までまだ少し時間に余裕があった。私は、彼女が今日の朝、いつものようにお祈りしていないことに気が付いた。もしかしたら同室だったから気を使ってくれたのかもしれない。(だけど、考えてみたら、毎日マキノでも同室だ(笑))
そこで、私は「お祈りしようよ!」と言ってみた。すると彼女は嬉しそうに「お祈りするね」と言って祈り始めた。ガロの言葉でいつものように、力強くお祈りしてくれた。きっと、旅の安全をお祈りしてくれたんだと思っている。
だけど、想像以上に長かった。
彼女のお祈りが長いことはもちろん知っていたけど、その日は一段と長かった。あまりの長さに私は途中で1度、目を開けて時間をちらっと確認してしまった。彼女にとっては初めての旅行ということもあり、色々心配事があったのだと思う。彼女は時間なんかまったく気にすることなく祈ってくれた。危うく時間に間に合わないところだったけど、お陰で素敵な一日になった。
既にふれているようにマキノの生活では、私以外の学生はクリスチャンであったため、彼らにとって祈りは当たり前だった。彼らは食事の前にそれぞれお祈りをしていた。そんなある日、私が、食事をする前にお祈りしないのをみて、「楓菜はいつ祈るんだ?お祈りしないのか?」と聞かれたことがあった。宗教について、みんなで話し合ったこともあった。その話があったのは最初の頃だったので、お互いあまり理解できない言葉での会話だったけど、「フウナも祈るべきだ」と言われたことだけは分かった。


彼女のことで、ある一つの大きな出来事があった。
ある日彼女は突然泣きはじめ、ご飯も数日間食べなくなった。彼女は泣き続け、祈り続けた。どうして彼女が泣いているのか、最初私には理解ができなかった。だから彼女に、どうしたのか何度か聞いたが返事はなかった。彼女はとにかく泣き続け、祈り続けた。同室で理由もわからず泣かれていては、あまり良い気分ではなかった。私が何かしたのかもしれないとも考えた。理由が分からず数日が過ぎた。その間彼女は、今まで一度も休むことなかった授業も休んだ。何も食べず、こんな状況が数日続くとこっちも心配になるので、ある朝ご飯を持って行った。そして、持ってきたからとりあえず食べてと言ってみた。少しして、彼女は起き上がり、少しだけ口に運んだ。
私は、ほっと安心した。

それから、彼女は泣きながら少しずつ彼女の言葉で話し始めた。大きな涙と一緒に、ぽつりぽつりと彼女の口から言葉が出てきた。私はこれまでの人生で、あんなに大粒の涙を見たことがなかった。彼女のハンカチも、枕のカバーもしぼれるくらい涙でぐっしょり濡れていた。過去に辛いことがあり、ふとしたきっかけでそれが思い出された。話した後に「絶対誰にも話さないで、絶対に」と、彼女は何度も言ってきた。彼女が泣いていた理由は、それだけ彼女にとってとても大きな出来事で、ずっとそのことが心の中に仕舞われていた様だった。そして、その記憶によって、彼女は泣き続けていた。彼女にとってはすごく、すごく悲しく、そして辛いことだった。これまで、絶対に話そうとしてくれなかったことを一生懸命話してくれて、私に伝えようとしてくれて、とっても嬉しかった。私は最後にそっと、ぎゅっと彼女を抱きしめた。
話し手くれてありがとうと伝えた。

彼女も新しい場所でずっと頑張ってきた。自分なりに努力してきた。だけど、ふと疲れてしまうこともある。私もあった。話ができないと、気持ちを伝えるのはとても難しい。電話の向こう側にしか分かりあえる人がいない。
言葉によって分かり合える人がいないということがどんなに大変で辛いことなのか、自分とも重ね合わせながらすごく考えさせられた。それと同時に、同じ空間にいて言葉以外で分かり合えることももちろんあるけれど、それを言葉にしないと分かり合えないこともあるのだと、言葉の持つ力も感じさせられた。
彼女にもっと寄り添おうと、強く思った瞬間でもあった。

彼女の毎日の祈る姿を通して、神様の存在を教えてもらった。それは、私にとってはとても大きなことだった。彼女の祈る姿は、本当に素敵だった。私はたまたま、保育園の頃から高校を卒業するまで“祈る時間”があったけど、これまで神様という存在を感じて、向き合って“祈る”ことは出来ていなかったと思う。それに、彼女みたいに身近な存在として捉えることはなかった。私にとっては、どこか遠い存在だった。だけど、彼女の祈ることによって救われていく姿を見て、すぐ側にいるかのように話しかけている彼女をみていて、神様というのがどんな姿であったとしてもその存在をすごく考えさせられた。
また、彼女は祈るとき何か必死に訴えているのか、いつもの口調とは全然違う口調で言葉を発している。自分の中にある悩みや思いを神様に必死に語り掛けている。私はそんな彼女の姿を見ながら、ある時ふと考えた。彼女は神様に語り掛けているようだけど、それはまるで彼女自身に語り掛け自分自身と対話しているかのようだと。心の中にある言葉が次から次へと声となり出てきていた。“自分と向き合う”私にはずっと出来ていなかったことだった。日常的にそんな時間を持ち、向き合う彼女の姿はとても美しかった。
どんなにつらいことがあっても、強くいられるのはこれが理由なのかもしれないと思った。

神様の存在は、彼女からだけではなく、インドにいる間に強く感じたことの1つでもある。人々が日常的に神と関わる姿をたくさん見た。たまたま私がいた年は、ヒンドゥー教のお祭り「クンブメラ」が開催される年で、ちょうど私の滞在していたアラハバードが開催地となっていた。クンブメラは、3年ごとに4つの聖地で場所を変えて開催される。私のいたアラハバードもその聖地の1つに含まれていた。だから、私のいた場所には12年に1度回ってくるということだ。その年にいれたとはなんとも幸運なことだった。開催期間の約2カ月間、1億人をも超えるヒンドゥー教の巡礼者がアラハバードに集まったと言われている。お陰でその期間中はものすごい人で、週末には外にも出歩けないほどだった。神を信じ「川で沐浴をし、罪を流す」この行為をするために、インド全土から人々が集まってくる姿にひどく感動した。その川を目指して電車で遠くから来たり、遠い場所からずっと長い距離を自らの力で歩いてきたりする人々の、何かを求めている「その姿」に、これまで感じたことのない大きな力を感じた。いったいどうして人々はここまでしてこの川に集まるのか、いったいどんな力がこれだけの人々を動かしているのか、不思議でたまらなかった。そして、その光景を見ながら、あまりの人の多さに、昔、“人々が集まるところに神がいる”と言われたことを思い出していた。


ガロ語

彼女の口調がいつもと違う時は、お祈りの他にもう1つある。
もう既に書いているけれど、それは電話をするときだ。彼女は毎日、ガロの友人や恋人と電話をする。彼女は、彼女の言葉「ガロ語」を話すとき、いつもより元気があって何より楽しそうだ。同じ部屋で毎日電話するから私は毎日聞いていた。正確には、聞いていたというよりは、勝手に耳に入ってきてしまった。最初の頃は気になることもあったけど、だんだんどうでも良くなった。彼女の友人の名前は何人か覚えたし、私が彼女の電話相手と話すこともあった。毎日同じ時間に掛かってくる電話がこないと、「あれ?今日はどうしたの?」と、私から聞くこともあった。それは、彼氏からの電話なんだけど、大体そういう時は喧嘩した時だった(笑)。それから、毎日毎日ガロ語を聞くものだから、最後の頃には何を話しているのか少し分かるようになっていた。
「今~のこと話しているでしょ!」と聞いて、「あれ、分かった???」と、よく笑っていたのを思い出す。


夢の話

彼女の面白い一面を話す。
彼女はよく夢を見て、今日は〇〇が出てきたよとか、何をしたとかその夢の内容を話してくれた。
彼女は、「早くガロに帰りたい」と頻繁に口にしていた時期があった。そんなある日、朝目を覚ますと「今日は、生徒みんなでガロに行ったよ♪」と嬉しそうに話してくれたことがあった。あまりにも帰りたすぎて、夢の中で帰ってしまったそうだ。この話を聞いて、彼女本当に今すぐにでも帰りたいんだな~と思っていたけど、それでも、一人で帰るのではなくてみんなも出てきたということが嬉しかった。
また別の朝、彼女が目を覚ました。だけど、その時彼女は言った。
「Oh.. I am very tired」と。見ると本当にすごく疲れているようだった。それからすぐ彼女はまた眠ってしまった。私は、具合が悪いんじゃないかと思ってすごく心配した。それからしばらくして、また彼女は目を覚ました。
「大丈夫?」と聞くと、彼女は夢の話を始めた。
「あ~今日は一杯働いた!!!夢の中でたくさん仕事したよ~!!すっごく疲れた」って。私は本当にびっくりしたけど、大笑いしてしまった。寝ても疲れるって相当一生懸命働いたんだなって。彼女も一緒に大笑いした。お腹が痛くなるほど2人でしばらく笑い続けた。


Gとの戦い

もう一つ面白いエピソードがある。
あの時は確か⒓月だった。その時期の朝晩は冷え込んだ。私は毎日熱々のシャワーを浴びて身体を温め、本当に体が冷え切った時は、洗濯用のバケットにお湯をためて小さくなってしばらく身体を温めていた。その日は確か休日で、することもないから夕方にシャワーを浴びに行ったんだった。かなり熱いお湯が出るから水も少し出しながら調節しないと火傷しそうになる。だけどその日は一段と寒かったからかなり熱いお湯を出していた。
しばらくして私は何かに見られている気がした。視線の先を注意深く見てみると、そこには「ゴキブリ」がいた。最初の頃はびっくりすることもあったけど、この頃はもう慣れていた。何に慣れたかというと、桶をひっくり返して捕まえることにだ。シャワーを浴びている間はその中にいてもらう。その日もいつものように「ちょっとごめんよ」と手早く桶をひっくり返した。そしてまたお湯を出してシャワーを浴びた。だけどまた、あれと思って床を見ると、何とまたまたこんにちは。今日は2匹もいるなんてと思いながらもう1匹を桶の中に入れた。
だけど少したって鳥肌が立ってしまった。排水溝から、次から次へとゴキブリたちが走って出てきた。あんまりにもお湯が熱いものだからゴキブリたちも慌てて出てきたようだった。さすがに私も安心してシャワーなんか浴びていられない。急いで部屋に戻って彼女の助けを求めに行った。彼女は、どうしたどうしたと、ニヤニヤしながら部屋から出てきた。そして、私のあまりの慌てぶりに大笑いしながらも、シャワー室を見て「ヒャー」と声を上げていた。彼女にとっても驚きの光景のようだった。だけど、その後は棒を持ってきてヒョイヒョイっと次から次へと退治していった。慣れた手つきだった。私も一緒になって棒でバンバン叩いた。二人で可笑しくってケラケラと始終笑っていたことを覚えている。ゴキブリ退治が終わって、またシャワーを浴びたけどその日は何だか落ち着いて浴びれなかった。


自分に大切な事があっても

彼女の優しい一面を思い出した。
ある日曜日、私は具合が悪かった。その日は教会に行くと聞いていた。だけど、私は具合が悪いから今日は行けないと言った。その日も、いつものようにおしゃれをして、行く準備は出来ているようだった。いつも彼女は準備が整っているときには必ず教会に行く。だけどその日は違った。
「楓菜具合悪いなら、部屋1人になっちゃうから私も行かないとい」と、そう言ってくれた。素直にすごくうれしかった。
自分にとってどんなに大切なことがあっても、側に困っている人がいたらその側に寄り添いたい。私も彼女にやさしくしようと思った。


クリスマス休み

12月の試験を終えたら、1カ月ほどクリスマス休みがある。毎年家に帰る人もいるし、どこかに出かける人もいると聞いたけど、この年、私以外の4人は家にも帰らないからマキノに残ることになった。私は少し、マキノを離れたかったから旅に出かけることにした。彼女は私が行くときちょっと寂しそうにしていたかな!?(笑)どうだったか忘れたけど。私は彼女に、「電話してね!」と言った。彼女も、「Okay Okay!!電話するね」と言っていた。

私は出かけた。
2週間くらいマキノを離れた。結局、彼女から電話が来ることなかった。だけど1回だけ「Hou are you?」とメッセージが送られてきたのを覚えている。私は2週間の旅を終えてマキノに戻った。ほんの2週間出掛けただけだったけど、帰ってきて彼女と話して、彼女と私の言葉が前よりも通じ合っている気がしてすごく驚いた。と同時にすごく嬉しかった。
クリスマスはみんなで過ごした。それから数日して、彼女も含めて4人で4日間くらいバラナシに旅行に行った。彼女も楽しそうにしていたからよかった。彼女は帰りにマキノのみんなにオレンジをお土産に買って帰った。
12月31日もみんなで過ごした。夜ご飯は食べていたけど、ご飯を食べてからもう一度料理をして、外に出て焚火を囲みながら歌を歌ったり話をしたりしていた。彼女は疲れたと言って一度部屋に寝に帰った。日が変わる前に彼女を起こして、2度目の夕ご飯を食べた。食べていて気が付いた時にはもう日が変わっていた。

つづく

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