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スタートアップが社会インフラを創る〜ファイナンス戦略の新潮流〜

本日、アイ・グリッド・ソリューションズ(「当社」)が30億円の資金調達を発表しました。金額だけ見れば一時期のスタートアップ・バブル時代の調達額からすると、それほど珍しいものではありません。2023年上半期でも30億円以上調達したスタートアップは14社あります。

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000063.000043561.html

目下、スタートアップ五か年計画が遂行される中、過去5年間と比較して「進化」した形でスタートアップの経営も事業もファイアンス戦略もアップデートしていくことが大事だと感じています。この5年間でも当方が関わってきたスタートアップも含めて数多くの新しい事例(=スタンダード、新潮流)が出てきており、その「経営知見」がスタートアップ全体に浸透し、業界全体のモメンタムや個別企業の戦略をアップデートしてきたと思います。

アイ・グリッド・ソリューションズはカーボンニュートラル時代を加速する所謂クリーンテック企業です。エネルギーというインフラ業界内で黒子として事業推進してきたこともあり、スタートアップ界隈での知名度は低いと思います。一方で、今回のファイナンス戦略は今後、スタートアップが本当の意味で社会インフラを創っていく上で参考になるエッセンスが幾つも含まれているように思いますので、ポイントを共有できればと思います。


会社概要:「地域の脱炭素化を支えるインフラ」

ファイナンス戦略の構造をよりよく理解頂くために、ごく簡単に会社の紹介をしておきたいと思います。今は、オンサイトソーラー(太陽光発電)システムや蓄電池ソリューションなどを活用し、総合的な脱炭素に向けた地域エネルギーインフラを支える「GXソリューション事業」を展開するスタートアップです。

参考)GXソリューション事業の簡単な概要とイメージ

GXソリューション事業の中核を成すのが、施設の屋根を活用した太陽光=オンサイトソーラーによるオフグリッド発電になります。FIT(再生可能エネルギーの固定価格買取制度)の導入当初はメガソーラーが各地に敷設されてきましたが、徐々に適地が減少。近年では自然災害など公害・環境破壊というリスクが指摘されていますが、当社は既に各地域に存在する屋根スペースを活用した太陽光発電である点が大きな違いです。

これはVPP("Virtual Power Plan")と呼ばれ、分散した発電システムを仮想的に繋ぐことで大規模発電システムのような発電容量を全体で実現するものです。今の日本の電力システムは火力や原子力を需要地から離れたところに大規模に発電し、送電網を介して供給するものです。発電システムが大規模になるため効率性が高まりますが、送配電のエネルギーロスが発生、発電容量が一定であれば、時間帯によるエネルギー需要に対応できない点が効率性を悪化させる要因です。

VPPは欧州で早い段階から普及しており、当社は国内でNo.1の発電容量とアセットを有する会社です。この分散型のメリットは、環境負荷に加えていくつか存在していますが、最も大きなメリットの一つが発電施設自体に電力需要があるということです。物流施設や小売施設など、大量のエネルギーを要する施設に敷設すれば、送配電ロスや時間帯に応じた需給のミスマッチ問題に効率的に対応することが可能になります。

事業上の大きなメリットは、これらの設備は多くの自治体に必ず存在するため、小さなグリッドを構築することができ、地域ごとにカーボンニュートラルの対策が取れるということです。送配電ロスや需給バランスを加味して、最適かつ小規模なグリッドを構築することが可能になります。

参考)オンサイトソーラーのソリューションと設置イメージ

このグリッドを実現に欠かせない技術が、エネルギーマネジメントやDR(デマンドリスポンス)という技術です。大量のエネルギーの発電や消費に関するデータを活用し、AI等を活用したエネルギーの最適化を行っていきます。

もう一つは、蓄電ソリューションになります。如何に電力の需給ギャップを極小化しても、一定程度余りが生じてしまいます。単なるエリア拡大だけでは解消できない時間的差分が発生してしまうため、一定のストレージ(蓄電=時間をずらす)が必要になります。バッテリーソリューションが必要になりますが、当社は各地域でMaaS化・EV化が来る未来を見据えて、EVソリューションと見合わせることで、地域ごとのクリーンエネルギーのグリッドを構築しようとしています。

参考)EV時代との相性が極めて良い

創業からの変遷、一貫してエネルギー領域

ある程度事業の概要を掴んでいただけたかと思いますが、これらのソリューションやアセットを一気に立ち上げていくのは、スタートアップとしては極めて困難です。多様なアセットや技術が必要になり、また既存インフラである送配電網と繋いでいく業界特有の難しさもあります。リアルアセットを動かしていくテクノロジー企業であれば、必ず直面する課題でしょう。

実は、このソリューションまで一気に到達したわけではありません。創業は19年前で一般的なスタートアップとしてはかなり長期になります。これは日本のエネルギー政策が、この期間に大きく動いたこととも関係していますが、常にその渦中にありながら、少しずつ必要なアセットや技術やネットワークを構築してきたことと関係しています。

最初の12年間は「探索期」と呼べるでしょう。FITや電力自由化、2011年の災害など、日本のエネルギー政策が大きく動いた時代でした。簡単に振り返ってみたいと思います。

フェーズ①探索期:2004-2016年

この期間はエネルギー事業におけるネットワークの獲得、電力供給事業の確立、エネルギーマネジメント事業の立ち上げ期に該当します。目下、単純な電力供給事業を拡大するわけではありませんが、供給事業を行えることは、発電したクリーンエネルギーを送配電網に流し込むこと、電力の販売の仕組みを確立する上では事業の基盤を構成しています。サービスを展開する傍ら、既存インフラへの繋ぎ込みなど、現在ソリューション事業者として展開していく上で不可欠な有形無形のアセットをここで獲得、構築しています。一方で、大きく日本のエネルギー政策がどこに向かっていくのか、見定めながら事業戦略を探索する時期でもあったと思います。

フェーズ②アセット拡大期:20017-2021年

6年前にVPP Japanを設立しています。これは屋根上の太陽光発電(オンサイトソーラー)を拡大するための会社です。後述しますが、ここに大きなポイントがあります。本体で事業を行うのではなく、別会社を設立して事業運営を行なっています。しかも、別会社はバランスシート上連結から外れた形で設立されています。

その後、順調にアセットは増加し、2020年には100億円という大型の資金調達を実施しています(※現在は累計203.4億円)。その8ヶ月後に日本政府も脱炭素宣言を行いましたが、その前に着実にアセットを積み上げ、ファイナンスを実施していたのです。

フェーズ③GXソリューション拡大期:2022年以降

2022年以降、スタートアップ界隈では大きな市場変調を経験し始めた頃です。夏の終わりという人も言えば、冬の始まりという人もいました。当方も以下のnoteを書いて、変調を理解すること、備えることの重要性を説いてきました。

丁度そんなタイミングに寧ろ、大きく事業戦略を明確にし、冒頭で触れたGXソリューション事業へ一気に舵を切ったのがこの頃からです。市場全体の変調は全体に影響するものの、個別領域ごとに異なる、すなわち周りを見るだけではダメで、自らの事業環境を見極めながら事業展開することの重要性があります。当社においては、リスクをコントロールしながらも寧ろ戦略を加速し始めた時期に重なります。

結果的に、現在では、収益基盤以上に大きなアセットを有する会社として、脱炭素社会に向けたソリューション事業を展開することができるようになっています。参考までに代表的なアセットの規模をご紹介します。クリーンエネルギーという領域でこれだけ分散的に規模とアセットを積み上げていることがユニークさにつながっています。そして、今後はこれらアセットを更に拡大させつつ、それ以上に大事なるのは「アセットを活用した」付加価値、社会的価値の創出により投資を行っていくフェーズになってきています。アセットは保有するだけではだめで、いかに効率的にリターン、すなわち付加価値に転嫁していくかの戦略が大事になってくるからです。

参考)国内でも屈指のエネルギー関連アセットを時間をかけて積み上げてきた

大きなテーマ(山)にどこから登っていくか

ディープテックなどテクノロジースタートアップの成功が、日本の復活には不可欠だと言われています。一方で、単なる技術シードだけで会社が成長したり、社会的インパクトを出せるインフラになれるわけではありません。その要因の一つが、アセットを如何に構築し、活用し、収益につなげていくかという事業戦略、またそれを実現するファイナンス戦略の難易度の高さです。

以前、私がリード投資を務めたアストロスケールについて解説しましたが(※下記リンクnote参照)、アストロスケールは創業から徐々に大型のエクイティ調達を駆使しながら、現在は徐々にファイナンス戦略の多様性を高めつつあります。アセットの観点で言うと、ファイナンス先行であり、だからこそエクイティ性の資金がフィット感がありますし、エクイティ資金の出し手が不可欠なのです。これは一つの山の登り方の代表例と言えます。

一方で、今回のアイ・グリッド・ソリューションズの例は、少し異なります。技術資産を積み上げていくことは同じですが、今回で言うと屋根上太陽光発電というリアル・アセットを先行して積み上げながら、それを活用してエクイティファイナンスを大型化しています。また、アセットを積み上げることで、その上にソリューションを載せていく事業展開をおこなっています。

あえて言うならば、アストロスケールとアイ・グリッド・ソリューションズは、「真逆の」山の登り方をしていると言うことができると思います。では、このファイナンス戦略について、もう少しポイントの詳細を解説していきたいと思います。

ポンイン①:2種類の資金使途

実は、今回の資金調達ラウンドには資金使途が2種類存在します。人材採用と広告線宣伝といった2種類ではありません。1つは、事業成長のための成長投資資金、もう一つはVPP Japanの100%子会社化の資金になります。

一般的なスタートアップにとって、100%以外の子会社が大規模に存在するケース自体が稀だと思います。これまで触れてきた通り、VPP Japanの戦略的位置付けがより明確になり、100%化したメリットが大きくなったと判断したため、踏み切ったわけですが、単純な成長資金の確保に比較して、一定の難易度が存在します。特に新規の投資家を招き入れる説得難易度は大きく向上します。

当然ですが、事業成長に投資した方が投資家への説明はシンプルになります。加えて、子会社株式の買収となると、本体のvaluationに加えて、子会社のvaluationが問題になります。双方の株主やステークホルダーの納得度を高めながら、両方のプロセスをハンドリングしていく必要があります。一般的な資金調達では、既存株主と新規株主という2つの異なるステークホルダー間の調整を同時に行う必要があるわけですが、もう一つ本体と別会社の異なるステークホルダー間の調整が必要になり、2x2の調整の難しさが発生します。特に価格交渉は絶対値だけではなく、相対も重要になります。これは株式交換を行うか否かによらず発生します。

このような難しいプロセスをあえて実行したのは、GXソリューションという成長戦略をより加速するため、そしてポストIPOを見据えて、エクイティ・ストーリーをシンプルかつ明確にし、財務戦略のギアを今タイミングで入れ替えることが狙いになります。

ファイナンス戦略のギアチェジンのタイミングで実施した、大型エクイティ調達という観点、連続性ではなく一定の非連続性を伴うファイナンスという意味で、大きな転換を伴う調達だったのです。

ポイント②:VPP Japanのファイナンス戦略

冒頭の沿革で触れたとおり、VPP Japanは6年前に設立しています。実は当初は子会社でもなく、他人資本を活用して非連結の状態でスタートしています。これはVPP事業という本体事業とは異なるリスクの事業を推進する上で、ファイナンスリスクを本体と切り分けてコントロールすることに狙いがありました。もちろん、100%でスタートしなかったことのデメリットも存在するわけですが、今回の一連の資金調達がそのデメリットを解消するプロセスでもあったわけです。

赤字前提のJカーブ型の成長投資を前提としてしまうと、アセット拡大において毎年大きなエクイティ調達が必要になります。アストロスケールのような大型のエイクティ調達の実行が不可欠になるのです。しかし、VPPはそのような財務戦略をとっていません。リアルなアセットがあると言う特徴を生かし、デットファイナンスを活用できる形で、事業戦略とファイナンス戦略を実行してきました。

その成果が会社設立から2年半後の100億円の資金調達なのですが(※現在は累計203.4億円)、実はこれは銀行からのデットファイナンスになります。Jカーブ型ではなく、財務規律を効かせながら、着実時アセットを積み上げていくことで、デットを活用できる会社として事業成長を実現して行ったのです。

並行して本体では、異なる事業戦略、投資戦略、財務戦略で事業推進を行うことが可能になります。

ポイント③:デットからエクイティへ

既に簡単に触れましたが、アイ・グリッド・ソリューションズにファイナンス戦略は、赤字⇨アセット化、エクイティ⇨デットという典型的なスタートアップファイナンスとは逆です。

3年前にご紹介したオープンロジの資金調達において、エクイティファイナンスと並行してデットファイナンスを大規模に活用する事例、そしてその潮流についてnoteを書きました。それ以降、どんどんデットファイナンスの活用範囲は広がり、ベンチャーデットを含めると、かなり早いフェーズのスタートアップも、デットの活用を意識した財務戦略を検討するようになりました。昨今では、デットファンドも立ち上がるのど、この傾向は今後も続くでしょう。

アストロスケールも近年になって、エクイティ調達だけではなくかなり大型のデットファイナンスを活用するようになっていますが、基本的にはエクイティ調達が先行します。

しかし、アイ・グリッド・ソリューションズは、大型のファイナスはデットが先行し、その後にエクイティ調達が大型化する逆の流れです。これを可能にしているのが、アセット型事業とノンアセット事業を切り分けて、異なる財務戦略と財務規律を設けたことで、異なる成長スパイラルを並行して実施した財務戦略にあります。

このメリットは大きく、本来リスクが高く資金調達が難しいアセット事業を大きく飛躍させることができた結果につながります。このような財務戦略があって、現在VPPで国内No.1の市場シェアを獲得するに至っています。

ポイント④:財務コベナンツのメリデメ

メリットばかりを強調したかもしれませんが、もちろんデメリットもあります。それが財務制限条項、いわゆるコベナンツの存在です。詳細は触れることができませんが、当然ですがVPP Japanにおける大型のデットファイナンス(累計203.4億円)を実施するには、銀行も制約を与えてきます。

一般的には、利益やバランスシート(純資産等)に対する約束です。この水準を下回っていけないという制約で、事業者にとっては成長を犠牲にするリスクを向き合いながら、健全かつ高い成長性を実現するバランス感覚が求められます。当然と言えば当然で、今後も大きな投資と成長が求められるスタートアップが200億円を超えるデットを背負っているのですから、当然と言えば当然です。

昨今、タイミーやUPSIDERが実施した運転資金用のファシリティとは別で、リアルにアセットを取得し、そのリスクと紐づいたデットです。当然ですが、アセットの価値が毀損すれば一気に銀行は回収に動き、事業どころか会社の存続が難しくなってきます。

実は、スタートアップにとって、アクセル全開とブレーキとか、アクセルと健全な成長のバランスを同じ経営体制、同じ会社の中で実現するのは簡単なことではありません。その意味でも、別会社にし、経営体制も財務戦略も切り分けることで、異なる成長と健全性のバランスを取ることを可能にしています。設立当初、別会社にしたことで、本体事業への影響を最小化しながら、VPP Japanとして必要な成長投資をバランスシートを最大限活用しながら、実施することができたわけです。

また、本体事業はVCガバナンス、VPP(子会社)事業はバンクガバナンスという形です。これは財務制限条項自体はデメリットですが、前向きに言えば状況に応じたガバナンス体制の構築ということでもあります。

ポイント⑤:アセットを動かし社会を動かす

オンライトソーラーを活用したグリッド、地方の地域ごとの脱炭素の実現に向けては、構想だけ描いていても実現は一向に近づきません。クリーンなエネルギーを実際に発電し、実際に送電線に流し込み、実際に需要家へ供給し、データを取得し、エネルギーの利活用を最適化していくためには、絵に描いた餅ではなく実際の「アセット」が必要です。

このアセットを誰かが用意するまで待つという戦略では、ディープテックやテクノロジースタートアップ、社会インフラを創造することは困難です。鶏と卵にしないためにも、まずアセットを動かしていく必要があります。

大企業であれば、自らのアセットを活用し新しいイノベーションを起こすことも可能かもしれません。もしくは、スタートアップがアセットを有する大企業をうまく動かすことでパートナー戦略で新しい社会インフラを創造する選択肢もあるでしょう。

しかし、社会にそのアセットが存在しない場合は自らがそのアセットを生み出していく必要がでてきます。どうやってアセットを積み上げていくか、そして付加価値を創造していくかという戦略にはファイナンス戦略が不可欠になってくるのです。今回の資金調達は、VPP Japanという大規模にアセットを保有する別会社を完全子会社化します。これはアセットを更に活用し、社会変革を起こしていくための布石だと言えます。

一方で、これまで以上にアセットを保有するリスクをグループ全体で全面に受けていくため、財務制限条項を含め、PL/BS/CFを含め総動員したより高度なファイナンス戦略が求められるフェーズが来たことを示しています。これまで積み上げてきたアセットを更に動かし、大きな価値に転換していくフェーズがやってきたのです。新たなリスクテイクの局面を迎えており、異なるファイナス感覚が必要になります。

今回、エクイティファイナンスを実施することで、バランスシートをより強固にする狙いがあります。そして、売上も利益もキャッシュフローも100%取り込むことで、それを前提にしたグロース戦略を描く必要が出てきます。グループ全体でのバランスシート、キャッシュフローマネジメントが求められるようになります。プレIPOのどのタイミングで、それを実行するか。それは各事業の事業とファイナンスそれぞれの状況を踏まえた判断が求められることになります。

ポイント⑥:多様なパートナー企業が参画

アイ・グリッド・ソリューションズには多数の事業会社が参画しています。事業進捗ごとに徐々にその多様性が拡大している点も大きなポイントです。

ステップ1:エネルギー業界における信用獲得

代表的には関西電力が挙げられます。電力の調達、販売を含めて既存の大企業と連携することで、エネルギーの安定供給とエネルギー業界における信用を獲得することが可能です。特に当初は電力小売事業の割合が大きかったことから、早い段階からパートナーとして連携してきました。

ステップ2:事業推進

代表的には伊藤忠商事が挙げられます。最も早い段階から参画し、今も当社が運営するTHE FUNDが外部2位株主なのですが、外部筆頭は伊藤忠商事になります。エネルギー事業の経験に加えて、物流や小売業界の商流におけるプレゼンスが大きな役割を担っています。既に触れたとおり、オンサイトソーラーの敷設の最大の候補は物流や小売業界であり、業界へのアクセスを深める意味でも大きな推進力となります。

加えて、今回の資金調達において東急不動産や鈴与商事が参画し、不動産会社や地域商社のネットワークを活用し、更にアセット開拓を進めていくことになります。

ステップ3:ファイナンス力の強化と多様化

今回の資金調達ラウンドの最大の目的に一つが、ファイナンス戦略の更なる強化です。今回、大きく3つのカテゴリーにおけるファイナンス戦略の強化を狙いました。

1)不動産業界のアセット取得力:東急不動産

2)リース/損保業界のファイナンス力:JA三井リース、東京センチュリー、あいおいニッセイ同和損保

3)地域金融機関(地銀)の融資力:ちゅうぎんキャピタル

ポイント⑦:更にファイナンス戦略の多様化へ

そして、本ラウンドの途中からPE出身のCFO候補が参画しています。今後、より多様な、具体的にはオフバランスファイナンス、プロジェクトファイナンス等、多様なパートナーと連携しながら、単純なエクイティやコーポレートローンに依存しないファイナンス戦略が求められるようになります。これに対応するスキルを獲得し、今回のラウンドをクロージングしました。

既に触れたように、今回アセットと共に多額のデットを100%抱える企業に生まれ変わるため、ステークホルダーとの関係性の再構築が求められます。資本増強を実施したとは言っても、今後の事業拡大から比べれば、まだまだアセットを積み増していく必要もありますし、資金調達が必要です。それを単純な希薄化を伴うエクイティファイナンスだけに依存しない形で、またバランスシートの拡大リスクがボトルネックにならないように、ファイナンス戦略を構築していく必要があります。

これは言うは易し、難しいことです。今後のファイナンス戦略の実効性を高める意味でも、今回の資金調達そのものが試金石となっていると言えます。金額もタイミング、資金使途も含め、全く異なる形で今回のラウンドを実施していたら、今後の成長戦略は大きく違ったものになり、成長性を財務戦略が足を引っ張ることになっていたでしょう。そしてそれこそが、ディープテックやテクノロジースタートアップが陥りがちな、ファイナンス戦略が機能しきれず、成長戦略が実現できないという鶏と卵問題に陥ってしまう構造です。

それを見越した布石として、今回資本増強と共にVPP Japanの100%子会社化を実施し、同時に多様なステークホルダーを招きいれ、事業推進のみならずファイナンス戦略の多様性を確保する狙いがありました。まだ、成功しているわけではないですが、このテクノロジースタートアップが直面する難題に、少しでも答えられるように実施したのが今回の資金調達ということが言えるかと思います。

最後に

最後になりますが、今回のラウンドの設計は1年以上前から入念に議論を重ねてきたものです。その間において、市場環境の変化、ウクライナ情勢に絡む(+気候変動)エネルギー価格の変化も踏まえつつ、急速にGXソリューション事業を成長させながら、並行して新しい事業計画を議論して進めてきました。

一般的なITスタートアップと異なるのは、事業計画の議論がPLだけに留まらないというものです。どのようにアセットを活用していくのか、ROICなどどのような指標を重視し、成長性と効率性のバランスをとっていくのか、バランスシートをどのようにマネジメントしていくのか。とは言え、成長性が企業価値評価に直結する業界であることは疑いようもなく、また2030年のカーボンニュートラルの実現に向けて業界のニーズの高まりは待ったなしです。

サービス提供会社として、その期待スピードに乗り遅れるわけにはいきませんから、高い成長性を実現しながら、バランスシートやキャッシュフローを最適化していくにはどうすれば良いのか。そのような議論と並行して、100%化に向けた子会社株主との交渉を実施し、ようやくこの日を迎えることができました。

当方が運営するTHE FUNDとしては、この議論を入念に行いつつ、新規ステークホルダーをまとめ上げる意味でも、そして実効性のある事業戦略をまとめ上げる意味でも、できる限り早い段階で既存投資家としてリード投資のコミットをする必要がありました。今回、手前味噌ながら既存リード投資が実行できた意味は大きいと考えています(※それを意識して前倒しの議論のタイムスケジュールで動いてきた)。

今回は難易度の高い資金調達ラウンドをまとめ上げた経営陣に敬意を示したいと思います。とは言えまだカーボンニュートラルの実現、それを可能にする地域社会インフラの実装に向けては、小さな一歩を踏み出したに過ぎません。今後も、より多くのステークホルダーの皆様の力を借りることなしには、目標の達成は困難でしょう。しかし、今回のラウンドでまた一歩前進したことをご報告すると共に、テクノロジースタートアップのファイナンス戦略の新しい潮流を示し、より大きな成功を収めるスタートアップが日本から出てくることを願い本投稿を締めたいと思います。

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