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(5分で笑えるSS)タイムをとってマウンドに集合したら、ライトから長谷川が走ってきた。

耳が痛むほどの寒空の下、少年野球の練習試合にて。
2−1。1点ビハインドで迎えた6回の裏。
ピッチャーの山田がノーアウトから連続でフォアボールを出した。
しかも次打者は4番打者。

山田は動揺しているだろう。腕も少し下がってきているように見える。
キャプテンとしてショートを守っていた俺は、すかさずタイムをとった。

内野手を集合させ、一度山田に一呼吸置かせる。
サードの三橋は山田の尻を軽く叩き、リラックスさせようとしている。
ムードメーカーのセカンド二宮は、白目を剥いて山田を笑わせた。

俺はキャプテンとして連携を確認し、キャッチャーの井上は山田と配球について相談。
ファーストの一条は特に何も言っていないが、大柄な体格だけで安心感を醸し出していた。

そろそろタイムを終わろうとしていたその時。

ライトを守っていた長谷川が、ゼエゼエと息を切らしながら走ってきた。


なぜ外野手の長谷川がマウンドまで走ってきたのか?
パニックになりながらも俺は、長谷川に事情を聞いてみた。

「いや、山田が動揺しとるかなと思って、少しでも鼓舞してあげれたらなあて思ってんけど。」

外野から来られたほうが動揺するやろ。


すかさず突っ込んだ俺に対して、長谷川は軽く腕を掴んできた。

「水臭いこと言うなて。俺らチームメイトやろ?」

「チームやからこど外野からくるなんて辞めて欲しいんだよ。
普段来ない人がマウンド来て山田動揺してるから。」

「そうそれ!普段お前らだけで声かけあっていけずじゃない!?」

いけずとかやない。位置の問題や。


「しかもさ、俺らだけ寒いんわからへん!?ピッチャーは投げてるし暖かいやん。
キャッチャーも1球1球動くやん。内野も横にステップ踏むやん。
けど外野はどーなん。こんな寒い中ポツーンやで。」

「ポツーンてことはないやろ。フライ来たら取るやん」

「いや、ライトは球こーへんねん。だって少年野球みんな右打ちやん。
で、みんな引っ張るやん。レフトに飛んで行くやん。
俺のとこには飛んでこーへんやん。ポツンてなってるだけやん。めっちゃ寒いやん。」

下手やからライト守らされてることに気づいてくれ。


長谷川は肩が弱いし足も遅いし球の追い方も怖い。
呆れ果てているとキャッチャーの井上がボソっと呟いた。

「寒い中しゃがみっぱなしの俺の方が、確実に足元冷えてる」

それはそうやろうけど。


あまりタイムをとりすぎると山田の肩が冷えてしまうので、元の守備位置に戻るように指示を出した。
長谷川には4番の打球は伸びるのでフェンスの手前まで下がるように指示を出した。
長谷川はこう答えた。

「え、あんなとこまで走んの無理」

お前が来たんやろがい!!


ピッチャーの山田が口を開いた。

「じゃあもうお前ピッチャーやったら?どうせ負けてるし。俺もう腕振れんし、ライト行くわ」

「え、いいん?」

おいやめとけ。


ピッチャー交代はまだええ。でも長谷川だけはちゃう。
僕を含め全員、あかんやろという雰囲気は出していたのだが、長谷川があまりに乗り気な雰囲気に押され、止めることができなかった。

マウンドに上がった長谷川は、意気揚々とストレートを投げ込んだ。

ベースの手前で3バウンドしてた。

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