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夜は寝るもの?──映画ファンの「ハレの場」としてのフェイドイン・マンスリーレイトショー①

2023年12月21日(木)~12月26日(火)にかけて、Galleryそらにて開催している展覧会「見る場所を見る3」の第2部「夜は寝るもの?──映画ファンの「ハレの場」としてのフェイドイン・マンスリーレイトショー」の解説文を掲載します。

展覧会「見る場所を見る」の実施を通じて、鳥取県内の映画館で配布された数々の印刷物をご提供いただきました。第2部では、それらの資料を活用し、鳥取市南吉方にあった映画館「シネマスポット フェイドイン」の印刷物を対象とした調査研究の成果報告を行います。また、それらの研究成果をもとにClaraが制作したフェイドインの新作イラスト2点と、過去作1点を併せて展示しますので、ぜひ会場まで足をお運びください!

このnoteでは、会場で配布している「鑑賞ガイド」に収録の第2部解説文映画ファンの「ハレの場」としてのフェイドイン・マンスリーレイトショー」を3回に分けて掲載。展覧会第1部解説文イラストで見る、倉吉市内・郡部の映画館&レンタルビデオショップ史」は以下のリンクより、併せてご覧ください。

また、2024年1月26日(金)に開催されるオンラインイベント「全国映画資料アーカイブサミット2024」第5部「映画資料最前線―映画館文化発掘の試み」に登壇させていただくことになりました。
「見る場所を見る」で確立したイラストレーション・ドキュメンタリーを中心に、これまでの活動を報告します。こちらも奮ってご参加ください!
*定員500名(事前登録制)・無料・1/25(木)17:00申込締切


①フェイドインに関して

シネマスポット フェイドイン(以下、フェイドイン)は1991(平成3)年に鳥取市南吉方に開館した映画館で、現在の鳥取シネマの社長である中村俊一郎氏が支配人を務めました。120席の「WEST」と84席の「EAST」という2つのスクリーンを所有しており、お洒落な外観と、映画館にしては珍しい吹き抜けのホールも備わっていることから、当時の若者にとっても心惹かれる映画館であったことに違いないでしょう。開館後のフェイドインに関して、1978(昭和53)年から1997(平成9)年まで発行されていた鳥取のタウン誌『まちの本スペース』(以下『スペース』と記載)では次のように語られています。

「鳥取市南吉方の世界館がリニューアルして、7月13日オープン。なんて事は、スペースの読者なら御存知ですよね、もう行ってみた? 濃いグレーの外壁、なぜか打ちっぱなしのコンクリートの壁が設けてある外観は、これが映画館? と思わせる遊びっぷり。館内は、「イースト」(84席)と「ウエスト」(120席)の2つの劇場がある。両劇場とも階段式の座席で、前の人の頭でスクリーンがさえぎられることもなくなった。そして、吹き抜けのホールの階段を上ると、なぜか、12畳ほどのオープンスペースがある。今のところ具体的な使用方は考えてはいないそうだが、ここでも色々遊べそう。スペースも何か考えちゃいましょう!」

(『スペース』通巻60号、1991(平成3)年8月31日)

開館に際して発行されたリーフレットには、「フェイド インとは、映像音楽が無の状態から少しずつ明るさと音量を取り戻し輝きを増して行く状態を指します」と名称の由来が記されています。最盛期には9つの映画館が存在した鳥取市内でしたが、1990(平成2)年を迎える頃には2館まで減少。新たに誕生したフェイドインが市内の映画文化に再び光を与え、非日常の空間・時間を提供する場所になります。

Clara【シネマスポット フェイドイン】(2021)

② フェイドインと『スペース』の協力・取り組み

フェイドインと『スペース』を発刊するスペース企画は互いに協力して、映画館で行うイベントを度々実施していました。その中のひとつが、開館1カ月後から毎月行っていた会員制レイトショー。上映作品は映画館スタッフによる選定で、第1回上映の作品はデヴィッド・リンチの『ワイルド・アット・ハート』(1990)でした。上映後に募ったアンケートを読んだ当時のスタッフは、次のようにコメントをしています。

「第1回とあってスタッフ一同どんな反応が帰ってくるかドキドキしていましたが、以外と楽しんでくれた方が多かったようで(そうじゃなかった人もありますが、万人に受ける映画などないということはご承知の上)、うれしいかぎりです。ほっ。ところでこの映画ってコメディだったんですよね。え、アクションだったっけ、それともミュージカル? あ、ポルノだっけ………ホラーだったかな…。」

(「VOICE OF FADE IN CLUB」『THE PRESS HUSTLE』Vol.2、1991(平成3)年11月10日)
『FADE IN CLUB LATESHOW INFORMATION』(1991)

またアンケートには、映画作品の内容以外のことに意見をする人も居たことが、『THE PRESS HUSTLE』の紙面から確認できます。例えば「フィルムが途中で切れるのがフユカイ」という意見に対して、スタッフが「すみません。切れないよう努力します」と返答したり、「“一般良識ある人々“に負けずがんばってミョーな映画をいっぱいやってね」とのコメントには、「はー。なんと返答してよいやら・・・・と、とにかくがんばります。」と応じています(「VOICE OF FADE IN CLUB」『THE PRESS HUSTLE』Vol.2、1991年11月10日)。

会員制であることも関係しているのか、作品内容上映環境に対して辛口の意見をする人も居り、反応は様々でしたが、レイトショーを多くの人々に満足してもらうために、当時のスタッフは積極的に観客の声を集めていました。レイトショーは当初からフェイドインが力を入れていた企画だったこともあり、1997(平成9)年12月の『スペース』の終刊以後も、毎月開催のペースを落とさず地道に実施されました。はっきりとした終了時期は不明ですが、少なくとも2002(平成14)年7月頃までは継続していたことが確認できています(佐々木友輔「空間に偏在する映画史——鳥取のタウン誌『スペース』の映画関連情報を読む」、『スペース』研究会 編『街を見る方法』所収、小取舎、2022年)。

レイトショー以外にも、フェイドインは「銀幕夜会」というイベントを実施していました。これは、平日の夜に映画館を貸し切って食事映画鑑賞をセットで楽しめるというもので、フェイドインが開館した年にあたる1991(平成3)年10月には、すでにこの企画の案内が『スペース』に掲載されています。(『スペース』通巻62号、1991年10月)。「映画館を貸し切って思い出のひと時を過ごしませんか?」というキャッチコピーのもと、平日であるウィークデーの夜に、ささやかな非日常を味わうことができる場を提供していました。そこで振舞われるお洒落なディナーは「カフェ・プティ・メゾン」のTAKAKOさんによるもので、同時期の『スペース』には「遊々料理」といったコーナーも設けられていました。ここからも、タウン誌『スペース』とフェイドインの結びつきが強いものだったことが窺えます。

『銀幕夜会』(1991)


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