返さなくてもいい助成金に助けられた話
事の発端はツイッター。
学生さんからの「フリーランスになるか会社員になるか迷っている」という言葉に、社会人クリエイターさんたちの様々なアンサーが寄せられていたので、それにのっかってこんな呟きをしました。
この「返さなくてもいい助成金」、知らなかったー!!というリアクションが多かったのでここでちょっとまとめておきます。
私は当時通っていた芸大の先生に教えていただきました。
私は上月財団「クリエイター育成事業」の助成金を、19〜25歳の頃にいただいていました(当時の名称は「漫画家・アニメーター育成事業」)。
年間60万円×6年=360万円ですね。
これだけのお金をいただいて!返済義務が!!ない!!!
もし15歳の頃から10年間いただけていたとしたら600万円…震える…
以下、上月財団さんの助成金について雑感を綴ります。
(あくまで私がいただいていた頃の思い出話なので、来年度以降に挑戦したいという人はちゃんと公式の応募要項を確認してくださいね。たぶん今の方が条件が厳しいよ)
(クマ財団のほうは25歳以上になってから知ったので、実際どんなかんじなのかはわかりません)
クリエイター育成事業の流れ
ひとつ注意なのがこの提出作品、著作権を譲渡しなければいけません。
(応募作の著作権は自分のものです。合格後の提出作品は著作権譲渡)
ここが納得できない人には勧められないかな。
著作権譲渡のデメリットについてはイラストレーターズ通信のブログが参考になるかと。
https://illustratorstsushin.blogspot.com/2017/03/blog-post.html
実際のお仕事で考えると「A3フルカラー著作権譲渡で5万円」は安すぎるんですが、
コネも何もない駆け出し作家に、1枚5万円のお仕事を1年間継続してご依頼くださるお得意様…なんてのはまぁ普通できないですよね。
個人的には破格の好待遇だったと思います。
が、このあたりの価値観は人それぞれなので、応募前にしっかり検討してください(一次試験は4月なので、今から準備すれば十分間に合う)。
当時の応募作と提出作
2008年(一番最初)の応募作。ケント紙にアクリルガッシュ。
苺ジャムをグロス代わりにしてる女の子。
絵柄はさておき根本的なところは今も変わっていない気がします。
合格してからの提出作はだいたい自由作品ですが、
育成事業の募集チラシ用イラストのコンペがあったり、お題が出される月もありました。
↓は2013年作でお題:「地球環境保全」の次点入選に選ばれたもの。
画材はシャーペンとPhotoshopです。
いろいろ拙いけどクマの表情とかは気に入ってます。
同世代のクリエイター志望と触れ合う
実技試験中はみんな黙って集中していますが、昼食休憩になると
「私は漫画家志望なんです。一応、担当編集さんはいるんですけど」
「編集付きまではけっこうすぐイケるよね〜。でもそこからが…」
みたいな会話が漏れ聞こえてくる…
積極的な人はここぞとばかりに情報交換をしているようです。
美大・芸大・専門学校などに通っていたとしても、学外の若手クリエイターと触れ合う機会はあんまりないですよね。独学だとなおさら。
しかも「わざわざ地方から試験を受けに来る人」たち。これも刺激になると思います。
しかし人見知りの私は、同じく人見知りの友人と
「このパンおいしいね」
「お肉もおいしいね」
「パンナコッタ最高」
「まじそれ」
というしょーもなすぎる会話しかしてませんでしたが。
試験中の昼食は軽いお弁当とかでなく、立派なレストランのコースでした。おいしかったです。
大企業のおじさん達と面接
上月財団ってね、
もとはコナミ創業者の上月景正さんが設立した財団法人なんです。
(私がお世話になっていた頃は「上月スポーツ・教育財団」でした)
公式サイトの「選考委員」を確認すればわかるんですが
コナミの偉い人と面接するんです。
無知な私でも知ってるぞ!!コナミ!!!
それに、無知な20歳そこそこにはいまいちピンとこなかったけどものすごくすごい大御所イラストレーターさんや…なんか他にもすごい人が面接相手としてそこへいらっしゃったのです…あとで調べてびびったよね…
ろくに就活もしたことなかった私は自分の親より年上かもしれないおじさん達の前でガクブルでした。
(2019年度はアニメーション作家の伊藤有壱さん(ニャッキ!を作った人って言えば伝わりやすいんだろうか)、漫画家のくらもちふさこさん、手塚プロの社長さん…ヒェ…)
これがきっかけでコナミさんと人脈ができたかっていったらそんなことは別にないんですが。いやある人にはあったかもしれませんが。
デキる人はあとで個人的に営業かけてたかもしれませんね。
上京ついでに東京のギャラリーと本屋巡り
余談ですがこの試験、地方民には観光のチャンスです。
試験は朝から始まるので、前日には上京してホテルに一泊します。
なので前日早めに東京に着いていれば、丸一日は東京観光ができる!!
最初の頃はどうしていいかわかんなくてとりあえず東京タワーに行ってみたりしましたが(たまたまやってたマイケル・ジャクソン展や蝋人形館が意外とおもしろくて楽しめた)
そこそこ慣れてからはギャラリー巡り。
そして本屋、古本屋、特に絵本専門店を巡りました。
(雑誌の「MOE」や「ILLUSTRATION」、ツイッターなどで情報漁り。いいお店はだいたいSNSで繋がってるので一軒でもみつかれば芋蔓式)
こういう、
自分が行きたい場所を調べて、ピックアップして、複雑な地下鉄を乗り継いで目的地にたどり着き、そこでしかできない体験をする…
てのが今思えばその後のフリーランス活動の予習になったのかも。なんて。
根性のある先輩は持ち込み営業活動をしていました。さすがや。
これ幸いとディズニーに行く子もいます。自由か。
何にせよ、翌日に響かない程度に満喫してください。
ちなみにホテルはシャワー・トイレ付き個室、さらに朝食ビュッフェ付き。
貧乏学生が自費ではとても経験できないような一泊です。
至れり尽くせりすぎて怖い…
まじでなんでここまでしてくれるの???てかんじですが、
答えは「未来の可能性への投資」だそうです。震える…
いただいた助成金で何をしたか
最後のなんやねんって怒られそうですが、
まず芸大在学中に「ヨーロッパ研修旅行」というのがありまして。
・フランスのアニメーション制作会社の見学
・日本アニメ・マンガを翻訳して流通させる会社の見学
・ノートルダム寺院、モンサンミッシェルなど歴史的建築物の観光
・ルーブル美術館やオルセー美術館などで名作鑑賞
などができたんです。
1週間でフランス、イタリア、ヴェネチア…あたりを巡ったかな。
(当時の「旅のしおり」的なものが手元にないのでアニメ会社の名前が正確にはわからないんですが、流通のほうは「KAZE」さんです)
これが通常カリキュラムとは別に有料で参加できたので、その参加費。
あと卒業後にチェコ・ドイツ旅行をしました。
もともとチェコアニメがすごく好きなので、一生に一度は行ってみたい!と思っていたのです。シュヴァンクマイエル監督の自宅兼ギャラリーにも行きましたよ!…閉まってたけど………
あとミュシャ美術館とか、プラハの天文時計とか、蚤の市巡りとか。
これらが創作活動にどう影響したかっていうのは具体的には説明しづらいんですが、
「TVや本の中で見たアレらは実在する」
「日本で普通なことは世界的にはだいたい普通じゃない」
「世界は繋がっている、行こうと思えばどこにでも行ける」
というのを体験として実感できたのは大きかったと思います。
ふつうにこつこつバイトして貯めたお金ならこんな思い切った使い方できなかったろうなぁ。
「助成金」は「お小遣い」ではない
んやで、とは恩師のお言葉です。
だから将来はちゃんと社会に還元するんですよ、と。
だってさ…返済義務のない助成金60万円やぞ…とんでもねぇ………
ほんと大人になってから実感できるこのありがたみ。
ありがとうございました。
おかげさまで餓死せずクリエイターの端くれができています。
あの頃は「社会に還元」って具体的にどうすりゃええんやろって思ってたんですけども。
たぶん「ふつうに仕事する」ことやんなぁ。と。
「仕事をする」というのは「社会の穴を埋める」ことなので。
助成金はもらってたけど結局クリエイターにはならなかったよ、という人もいるでしょうが、体を壊さずちゃんと大人になってちゃんと働けていたならそれだけで立派なもんなんちゃうんという気がします。
もちろん名目は「クリエイター育成事業」なので何かしらクリエイティブなことに関わるお仕事ができたほうがいいですけど、自分自身が創作をする側でなく、創作者を支援する仕事とか、道はいろいろあるわけだし。
物価も学費もどんどん上がってて今の若い子はほんと大変だろうな〜と思うのですが、こういう制度も!あるので!
興味が沸いたらまずは応募だけでもしてみたらいいのではないでしょうか。
というご紹介でした。
サポートしていただいた売り上げはイラストレーターとしての活動資金や、ちょっとおいしいごはんを食べたり映画を見たり、何かしら創作活動の糧とさせていただきます。いつも本当にありがとうございます!!