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時間について考えると正直になる

お金について考えると嘘をつきやすくなり,時間について考えると正直になるという趣旨の論文を読んだのでメモ(1)。

今までの研究ではお金が嘘や騙しなどの倫理的に良くない事柄と結びついていることを示す結果を報告しています。具体的な例を挙げると以下のようなものがあります。

・お金持ちは嘘をつきやすい(2
・所得が高い世帯は低い世帯よりも収入に対する寄付額が少ない(3
・社会的に地位の高い人は社会的な場面で不道徳になりやすい(4

このようにお金と不道徳な行動や概念との結びつきは強く,さまざまな状況でお金を持っているひとが利他的ではなく,利己的な行動をとる傾向があることが確認されています。

今回紹介する論文はお金・時間について考えることで取りやすくなる行動が変わることを教えてくれます。

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2014年にハーバード大学のフランシスカ・ジノらが時間やお金などの概念が行動にどのような影響を与えるのかを調べるために実験を行いました。

実験の対象になったのは大学生98名でした。

実験参加者はランダムに3つのグループに分けられ,意味をなさない単語列を文意が通るように並び替えました。その3つのグループには文意が通るように並び替えた際に関連する概念が以下のように違いました。

<グループ1>
時間

<グループ2>
お金

<グループ3>
意味をなさない

その後,問題用紙とお金が入った封筒が渡されました。そこではいくつかの3桁の数字(e.g. 4.78)を足し合わせて10にする課題を解いてもらい,合計を10にする組み合わせが出来た分(1組み合わせ$1)だけお金がもらえました。課題遂行後,渡された封筒はゴミ箱に捨てるように指示されていました。

今回の分析では,封筒からお金を組み合わせを作った分だけ取るときに数を誤魔化し,お金を多めに取るのかをグループ間ごとで調べました。

実験の結果,②お金に関する文章を作成した場合には約87.5%が,③中立的な文章を作成した場合には約66.7%,①お金に関する文章を作成した場合には約42.4%が実際に作成した合計が10になる組み合わせの数よりも多くのお金を騙し取っていました。

続く実験3では自分自身の様子が自分で確認できるように鏡張りで実験1と同様の課題を別の実験参加者にしてもらいました。結果,お金に関する文章を作成した場合であっても鏡によって自己意識が高められた場合には,実際よりも多くのお金を騙し取る傾向がなくなりました。

過去の研究を見ても,自分の行動が観察されていると感じる状況では,自分自身に対する意識が高まり,道徳的で社会的に望ましい行動を取らせる効果があると言われています(5)。具体的な例を研究の結果を挙げると以下の通りです。

・人の視線は寄付額を上げる(6
・神様の存在を意識すると利他的な行動を取る(7
・目線を感じると嘘をつく回数が減る(8

今回の実験はお金という事前の情報が与えられることで,お金を騙し取るという利他的でない行動が促進されることが分かりました。しかし,そのお金-不道徳のプライミングの効果は自己意識の高まりによって低減するようです。

(1) Gino, F., & Mogilner, C. (2014). Time, money, and morality. Psychological Science, 25(2), 414–421.

(2)Paul, K., et al. (2013). Higher social class predicts increased unethical behaviour. Proceedings of National Academy of Sciences, 11, 4089-4091.

(3) Independent Sector (2002) Giving and Volunteering in the United States (In-dependent Sector, Washington, DC).

(4) Kraus, M. W., & Keltner, D. (2009). Signs of socioeconomic status: a thin-slicing approach. Psychological science, 20(1), 99–106.

(5)Pfattheicher, S., & Keller, J. (2015). The watching eyes phenomenon: The role of a sense of being seen and public self‐awareness. European Journal of Social Psychology, 45(5), 560–566.

(6)ErnestJones, M., Nettle, D., & Bateson, M. (2011). Effects of eye images on everyday cooperative behavior: a field experiment. Evolution and Human Behavior, 32(3), 172-178.

(7)Shariff, A. F., & Norenzayan, A. (2007). God is watching you: Priming God concepts increases prosocial behavior in an anonymous economic game. Psychological science, 18(9), 803-809.

(8)Hietanen, J. O., Syrjämäki, A. H., Zilliacus, P. K., & Hietanen, J. K. (2018). Eye contact reduces lying. Consciousness and cognition, 66, 65–73.

■時計の時間、心の時間―退屈な時間はナゼ長くなるのか?/一川 誠  (著)

■退屈の心理学 人生を好転させる退屈学/ジョン D イーストウッド (著), ジェームズ ダンカート (著), 一川 誠 (監修), 神月 謙一 (翻訳)

■脳と時間: 神経科学と物理学で解き明かす〈時間〉の謎/ディーン・ブオノマーノ (著), 村上郁也 (翻訳)

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