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違ったはずの味覚が混じり合っていくのを、恋だといって仕舞えたら

全然違ったはずの味覚が混じり合っていくのを、恋だといって仕舞えたら美しいような気がする。誰の目から見ても綺麗なものに映ってくれるんじゃないかと思ったりする。

そうじゃなかったとしても、一日に二回も、三回も口にする食の好みが同じであったならそれはもう一緒に暮らせるんじゃないだろうかと思う。これは願望よりも真実という感じがする。

それぐらい、わたしたち、お互いにお互いの好きなものを侵食し合っているって、あなたは気が付いているでしょうか。

はじめてグリーンカレーを出された時。私はソファで横になって、昼から夜にかけての時間をぼやりと見つめていた。外の日が暗くなっていってもあなたは蛍光灯を付けることはない。小さな電気ランプみたいなのを灯す。

キッチンは狭い部屋の一角にあって、ほんの目と鼻の先で何かを煮込んだりしている背中をただ見ていた。時々笑ったり、会話をしたりしながら、辺りに匂いが充満していくのを感じている。ベットの下の小さなこたつに足を入れて過ごす。寒い季節が私たちの再会だった。

私はお洒落な料理は何も知らない。母の手料理と時々祖母の手料理しか知らない。デパートのお総菜売り場は好きだけど、グリーンカレーは置いていない。外食をあまりしない。自分で料理もしない。そんな頃の私は得体の知れない豆とよく分からないペーストを目の前に食べてみたいという好奇心が勝っていた。

「嫌いな人もいるから聞くけど、食べれる?」

「多分」

なんて無責任な多分なんだと思ったけれど、どうしてもあなたが常に食べるというそれを食べてみたいという好奇心にかえられなかった。小さな灯りの下で隣り合って食べるカレーは未知の味がした。それから食後に出されるコーヒーの香り。アメリカンの薄い味。

何度かカレーを出されていくうちに、カレーのベースはトマトに変わり、スパイスが増えていった。それでも長ったらしいスパイスの名前は覚えられないのだけれど、いつの間にか食べられるようになっていった。嫌いなものだって多い私なのに、当たり前のように好きなものになっていった。

私は甘いものが好きというぐらいしかもとの食のこだわりはないのだけれど、時々粉物が食べたくなる時がある。それでも想像以上に不器用な私はもんじゃもうまく出来ないし、お好み焼きやたこ焼きなんてもってのほかだからおのずと外食するときのリクエストになっていたのだ。

鉄板に向かう姿をただただ見ている。それも面白くって、真剣な表情を正面からただ何とはなしに見ている。綺麗に切られるお好み焼き。

「粉物が食べたい」

最近そうあなたがいうことが多くなった。

私がカレーがいいといって、あなたが粉物を食べたいというのはすごく奇妙な感じがするけれど、それぐらい長い時間を過ごしているということなのかもしれない。いつの間にか入れ変わってしまったわたしたちの好み。お互いの好きなものを食べたがるようになりましたね。

コーヒーはブラック。ポテトチップスは期間限定の味をとりあえず買ってみるのに、アルフォートは絶対に青。フルーツケーキが一番好き。

それぐらい今の私たちの味覚は似てきてしまっているのかもしれません。お酒だけ、私が付いていけない。ちょっと悔しくて飲み始めたの、まだそのことは言っていない。

「食の好み、似ているからまかせるわ」

似ているというか似通ってきてしまったんだよ、わたしたち。最初から似ていたわけじゃない。

そんなことを思いながら、新作とホワイトチョコを組み合わせて、あなたの昼食のベーグルを買った。

グミを食べながら書いています。書くことを続けるためのグミ代に使わせていただきます。