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短編小説「くまの床屋(梅雨編)」


ポト、ポト。
瓦を伝って屋根から落ちていく雫の音が聞こえてくる。

ここは動物が皆共存して平和に暮らしている世界。

そして、ある所にひっそり建っているお店があった。
名前は『Kuma’s hair salon』。
従業員はひとり、店主のくうさん。

くうさんはその地方ではとても腕がいいと人気の髪切り屋さんで、毎日色んな動物が訪れていた。


梅雨編


「今日も雨だ。梅雨に入っちゃってお客さん減ってきたなぁ。今日の予約は2丁目のあの猫さんだけ。大雨になってきたら夕方までにはそそくさ閉めようか」

外は灰色の雲で覆われており、
真昼なのに夜がすぐそこにいるような暗さが街を包んでいた。

カランカランとドアが開く。
くうさんは椅子から立ち上がり玄関の方を見た。

「予約していた猫のミケと言います。」
外は今小雨。傘を畳んでパタパタさせながらこちらを見てミケさんは挨拶をしてきた。

「お待ちしておりました!湿気がすごいですね。こちらの椅子にどうぞ〜」
ぺこっとお辞儀をし、ゆっくり腰掛けられた後
少し汗をかいていたようで首にかけていたタオルを
使い、顔をあおいでいた。

くうさんはひっそりとクーラーの温度を下げ、
冷たい水をミケさんの目の前に出した。

「ありがとうございます。友達のスズメちゃんに
 オススメされて来たんです!湿気で毛並みが
 不揃いなのが気持ちわるくって。揃えてもらおうと」

「そうでしたか。梅雨時期の猫さんたちは
 とても大変ですね。僕に任せてください」

くうさんは腰につけているシザーケースから櫛と
はさみを取り出し器用に5本指を動かしていく。

シャンプー、トリートメント、ヘッドマッサージを
手際良く終わらせた後、最後のカットを進めていく。


鏡を見ていたミケさんが
「耳のてっぺんのアホ毛も気になって。切ってもらえます?」
と頭を指さした。

見てみると確かに茶色っけのある毛が何本か
ピョンピョン飛び出ている。
切りすぎたらガタガタになってしまうのが難しいところ。
丁寧に慎重に、要望通りにはさみで切っていく。

「終わりました。どうですか??」
ミケさんのちょうど後ろで2面鏡を広げ、
ニッコリしながら聞く。

特別なヘアケアとカットをしてもらったミケさんの
ヘアーは、絹のように柔らかな毛並みに仕上がり、
店の中の普通の灯りに照らされただけでわかるほど
一本一本の色合いがはっきりとし、誰が見ても
見惚れてしまいそうなくらいの仕上がりになった。

ミケさんはふんふんと首を動かしながら頷き、
じっくり後ろ姿を見たあと満足げに目を細め、
「いいですねー!凄いにゃー」と一言。
「他のとこは全然綺麗にカットしてくれなくて
 困ってたんです。ありがとうございます!」

すっきりサラサラになった毛並みを撫でながら
会計をするミケさん。
くうさんは嬉しそうに「また来てくださいね」と、
スタンプを押した新規のショップカードを手渡し
玄関まで見送る準備を始めた。

外は先程より雨脚が強くなっていて、
風が吹いていないのが唯一の救いだと思うくらいだった。

「迎えとかありますか?タクシー呼びましょうか?」
「いえ、今日は車で来たんです。ありがとうございます」
バサっと傘を広げ近くの駐車場まで駆けていく姿を
最後まで見送ったあと、「雨が強いため本日休業」
という看板を外に出し静かにお店の扉を閉めた。




これはくうさんの床屋に訪れる
色んな動物たちのシリーズ短編小説‼️

季節ごとに様々な悩みを抱えた
可愛い動物たちがお店にきます。

これからみんなで見守っていきましょう🐻🐻


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