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statsfmから見る2022年私的ベストアルバム 1位〜10位

なんとかギリギリ年内に書き終えられた。

数日前に2022年の仕事を納めたのだが、ビジネスメールは"件名"を入力して送るのがマナーであり常識である。ところが今月、たぶん差出人の確認不足で珍しく件名の無いメールが飛んでいるのを見かけた。『件名なし』と書かれたメールに、他の誰かが更に返信する。すると件名は『Re:』になって飛んだ。

「あ、これもう少し待てば『Re:Re:』とだけ書かれたメールを見られるのでは?」とちょっとだけワクワクしたが、次の返信も『Re:』のままだった。どうやらメールアプリ側の設定でタイトルが冗長にならないように"Re:"が増えない仕組みになっていたらしい。

利便性を求めることでノスタルジーが失われる、よく言われることだが、それを現実で目の当たりにした瞬間だった。

話を本題に繋げると、仕事とプライベートの最適なバランスを保てるように努めてきた1年だった。平日の仕事終わりもなるべく時間を確保してライブに行ったり、ゆっくり音楽を聴いてnoteに書いたり、note投稿の習慣も「月1記事以上」という控えめな目標は達成できた。

それだけ趣味の時間を大切にできたのも、素晴らしい作品に触れて感動を覚えることができたからだと思う。改めて偉大なアーティストたちに感謝しつつ、続きを書いていく。

前回の記事↓

10位 『gokigen』 chelmico (775 min.)

chelmicoにたくさん元気をもらった1年だった。

前作『maze』は文字通りジャンルもテンションもごちゃ混ぜなアルバムだったが、本作は『gokigen』というタイトル通り、聴けばご機嫌になれるような比較的穏やかなチューンが並んだ。

以前の記事でも触れた「Meidaimae」とか「Touhikou」はどちらもゆるりとしたテンポで歌う恋愛ソングだが、どこか怪しげでアンダーグラウンドな雰囲気がツボだった。

その一方、まるで「おジャ魔女カーニバル」を彷彿とさせるかのような社会人応援ソング「ISOGA♡PEACH」や、RIP SLYMEのDJ FUMIYAプロデュースのアラビアンでサイケな「O・La」辺りでは、彼女たちのポップさが存分に発揮されていて、変に凝ったり尖ったりし過ぎないところも魅力。

2022年は2回ほどライブに行ったが、もはや彼女たちは鳴り物入りの"女性2人組ラップユニット"なんかではなく、歌もラップもMCもアジテーションも全てのパフォーマンスにベテランアーティストの風格すら感じた。

9位 『LOVE ALL SERVE ALL』 藤井風 (806 min.)

藤井風さんに関しては、特に最近になって彼のファンダムへの注目度が高まった感があるが、アーティストとファンの関係性は答えのない難しい議論だと思う。

ちなみに個人的には1stアルバムの方が好きだったが、データが示す限り今年の自分は本作を17周くらいはしているわけだ。

思えば今年の初めに「まつり」を聴いたとき、「きらり」のような現代的なビートでフレッシュなダンスも交えて披露する曲とは打って変わって、日本古来の舞踊について歌うことで暑苦しさや古臭さも感じさせる楽曲に気味の悪さすら覚えた。もちろん気味悪さとは褒め言葉であり、「あー、今年もこの人の勢いは衰えることを知らないだろうな」と直感的に感じたのだった。

なんとなく口調や作品に対する想いが第三者の視点になってしまうのは、自分が想像する彼の「ファン」に、自分自身は程遠い存在だと思ってしまうからなのだ。サカナクションの山口一郎さんがインスタライブを継続的に配信し始めた頃、全ての配信を追えていない自分はもう全国各地の数多の「リスナー」に及ばない存在だと感じてしまった事象に近い。

作品の感想から外れてしまったので戻ると、「やば。」「ガーデン」などの優しく穏やかな楽曲が特に好きなのだが、暖かな旋律なのに歌っている情景や心象は物凄く壮大で、深く、重たい。これだけ達観した目線で歌われたら、文句のつけようなど無い。

8位 『Chilli Beans.』 Chilli Beans. (1,049 min.)

Chilli Beans.は既に数多のロックバンドからは一線を画す人気と地位を確立した。メンバー三者三様ながらユニークで確かな音楽センスと、世の中に媚びようとしない厭世的なリリック、キャッチーなアイコンとしての存在感、どれも一流で手放しに褒められる。

本作がリリースされる前からいくつかの先行配信曲があったわけだが、正直「マイボーイ」のような路線だけで進むのはやめてほしいと思ってしまっていた。ところが蓋を開けると「This Way」「neck」「blue berry」など、ただのキラキラなポップバンドではない、ダークな側面も存分に発揮されていて心配など無用だった。

12月に豊洲で行われたワンマンライブも最高だった。ここでもファンダムの話は少し気にしていて、これからも純粋に彼女たちの音楽性を素晴らしいと思えるファンたちが集まってくれれば良いのになと思う。

「HAPPY END」のコーラスパートのリリックの、"頑なな"という形容動詞に含まれる"なな"の部分。このセンスには敵わない。

7位 『neon』 iri (1,097 min.)

前作『Sparkle』があまりにも良かったため、次のハードルは高いぞと勝手に試練を与えていたつもりだったが軽々越えてきた。

既発曲の「渦」「摩天楼」がiri史最大レベルの高揚感で突き抜ける楽曲群だったことから、アルバムも頭から飛ばすスタイルなんだろうと思っていたら1曲目の「はずでした」は驚くほどゆっくりと、じわじわ脳に溶けていくようなナンバー。

その後はアップビートとダウンビートを織り交ぜたストリームで、序盤からジェットコースターのような『Sparkle』とは全く毛色の違った、グルーヴやバウンスは保ちながらも曲のペースを伸縮自在に操るような作品だった。

iriは女性シンガーソングライターとして唯一無二の異彩を放つ存在であることは敢えて言うまでもないが、段々と"お茶の間"にもウケる存在として人気を博してきたのではないだろうか。R&B・HIPHOPと分類するにはその歌唱のキャッチーさがもったいないし、ただのJ-POPかと言うとそれよりも深度が大きく玄人にもウケる音作りをしている。今後も順当に、幅広い音楽ファンからの人気を獲得していくだろう。

音楽性の豊かさとラップスキル・歌唱スキルに関しては言わずもがな、彼女のライブを観ればキャラクターの愛らしさとファンを虜にするカリスマ性も物凄い方だと実感する。

6位 『BADモード』 宇多田ヒカル (1,101 min.)

音楽ファンたちによるハイレベルな考察が既に世の中に溢れまくっている本作だが、至ってシンプルに表題曲の「BADモード」がとにかく好き。6位ランクインという功績はこの曲のリピートによる貢献度が一番高い。

色んなところにセンスが溢れすぎている。これ曲名もアルバムタイトルも「BAD MODE」だったら、それだけで今の半分以下の人気だっただろうなとか。

「Somewhere Near Marseilles ーマルセイユ辺りー」も好き。この曲のMVがアルバムリリース後に配信され始めたが、水族館という背景が曲のムードにカチッとハマるようで気持ち良かった。パーカッションの音色がポコポコ変わっていくのも面白い。

もし年始にこれだけ素晴らしい作品が出ていなかったら、「2022年は真面目に音楽聴いてレビューとかしようかな」と思うこともなかったかもしれない。そのくらいの後押しをしてくれた作品。

5位 『TOUGH PLAY』 Lucky Kilimanjaro (1,279 min.)

宇多田ヒカルのおかげで「やっぱ音楽っていいかも」と思えた2022年、Lucky Kilimanjaroのおかげで「やっぱライブって最高だ」と思うことができた。

正確に言うと、必ずしもライブ会場に足を運ぶ必要などない。今のご時世、まだまだ疫病の流行は終わらないし様々な理由でライブに行かない人だってたくさんいるはずだ。私自身はしばらく行くのをやめていた音楽ライブに今年の3月頃からまた行き始めたのだが、彼らのライブで思い知ったのは、理論や思慮に辿り着くよりもずっと前の「反応」で音楽を楽しむこと。

家で1人で音楽を聴いていたって、本能的に体が揺れたりいつの間にか口ずさんでいたり、そういう何気ない反応にこそ、その文化を心から好きかどうかが表れる。

ラッキリは、疫病の流行など関係なくずっと前からハウスミュージックへの傾倒、家でのゆったりとした時間を楽しむことの素晴らしさを説いていた。「週休8日」にして"休んで"と呼びかけまくるバンドだ。そうして回復したエネルギーをとにかく好きなことに向ける。それこそが「生の実感」である。

この辺の話も既にライブレポートの記事で書いていたことを途中で思い出したので、そのリンクを貼って終わりとする。

4位 『Ninja of Four』 the band apart (1,336 min.)

この先の作品は全て今年記事に書いてきた。それほど好きな作品がトップ5くらいに並んだわけだ。

the band apartは「近所の洋食屋さん」である。メンバー本人が言うのだから間違いない。

そう認識して以来、むしろ近所の洋食屋さんに行くたびに彼らのことを思い出すようになった。初見で行ってみるとお客さんの年齢層は少し高め、メニューが豊富で洋食屋さんと言いつつ和の定食もラインナップにある。2回目に行くと、初回で頼んだメニューが美味しすぎたのでリピートするかそれとも新しいメニューにするか迷う。メニューに並ぶのは、これだけ長い年月バンドを続けてきてもまだ泉は掘り進められるぞと言わんばかりに並ぶ名曲の数々。

「The Ninja」で再認識する、オシャレなだけじゃないどこかカオスで泥臭い彼らのカッコよさは一聴の価値あり。「夏休みはもう終わりかい」「酩酊花火」などミドルテンポのナンバーには不気味さと爽やかさがブレンドされていて夏の夜にピッタリである。1,300分も聴くと、一番好きな曲は初め印象が薄めだった「キエル」かな、とか考える。

12/25に渋谷で真のレコ発ツアーを開催していたのだが、予定があって行けなかった。「The Ninja」のハンドクラップとか楽しかっただろうな。

3位 『NIA』 中村佳穂 (1,359 min.)

この作品も素晴らしかった。細かい感想は過去記事で語った。

親切な自己紹介で幕を開ける本作は、序盤の無敵感から終盤の無力感への変容が美しい。中村佳穂さん本人が、自分をちっぽけに思うくらいに他者や社会の強さ、広大さを感じ取れるアーティスティックな世界観の持ち主であると同時に、ポジティブで若くて"ウチら最強"的なノリも兼ね備えている豊かな感性を持っていることを痛感する。

ライブではバンドメンバーが皆個性の塊の方たちで彼女に負けない存在感を放っていたし、最近ではROTH BART BARONとのコラボも最高だった。これからもオープンイノベーションでその輪を広げて、いつもその真ん中にいる存在であってほしい。

2位 『our hope』羊文学 (2,161 min.)

この辺りから、聴いた時間の1,000の位が一気に跳ね上がる。自分にとってはそれだけこの上位2作品が特別な意味を持つような、2022年を象徴する作品だったように思う。

最近リリースした楽曲「生活」は過去作『若者たちへ』に近く内省的なエネルギーを感じるようなサウンドで、今年の大傑作アルバムを越えてまた飾らない素朴な3人の魅力を再認識させた羊文学。

今年4月にリリースされた本作は、バンドの可能性を広げるように外に開かれた作品だった。

「マヨイガ」「光るとき」の素晴らしいタイアップ作品で魅せたあらゆる運命を見守り包み込むような温かな目線、「ワンダー」「OOPARTS」に見る壮大で銀河的な世界観。これらの楽曲が、彼女たちが過去の作品から一気に何倍にもステップアップしていることを実感させる。一方で、"生活"に隣接した視点で歌われる「パーティーはすぐそこ」「金色」では、キラキラした側面だけではない、いなたい日常の表現も絶妙。

真骨頂は「くだらない」で見せる反骨心。一聴するとラブソングだがその実、"聞き飽きたラブソングを僕に歌わせないで"と吐き出す真意には様々な葛藤もあるのだろうなと思う。

何かを背負わされるのではなく、自分たちが好きなことをひたすらに続けていってほしい。

1位 『プラネットフォークス』 ASIAN KUNG-FU GENERATION (3,351 min.)

堂々の第一位。今年どころかこれまでの人生で聴いた中でも最高と形容するにふさわしいアルバムだった。

今年の4月に記事を書いたときに、当時のアジカンが「解放」のフェーズにあると述べた。

本作のリリースツアーではまさにその記述に即したセットと演出で、アジカンの4人とサポートメンバー含めた6人が本編を通して立方体の"枠"から解放される様が描かれた。自分が作品から感じて言語化したことが、わりとビンゴだったんだなあと嬉しくなった瞬間だった。

近年のアジカンは幅広い意味での"多様性"を詠ってきた。

生まれた土地や生まれ持った虹彩や皮膚の色によって、その人の運命や選択肢が縛られるようなことがあってはならない。いかなる他者も自分と異なる存在であることを認め合う将来を願う。紛争地域の出来事が数km先で起きているかのような衝撃を受けた2022年だからこそ、こうしてポップカルチャーの中で社会への希望を歌うことに大きな意味があると感じた。

もちろん言うは易く行うは難しで、誰もが人格者でいられるわけではない。だからこそ分かっていながら、後ろめたさも抱えながら、人間らしく毒だって吐いて生きていけばいいんだという、自分の無力さも認めて清々しく前を向く力をもらえた。今年はフェスだろうと何だろうと所構わず披露してきた「De Arriba」は、彼らにとっても大切な曲だろう。

本作の幕を閉じる「Be Alright」には、今年何度も助けられた。横浜アリーナで観た、幸せに満ち溢れたゲスト全員での大合唱は忘れられない。

何気ない日の背後から忍び寄って、いまひとつ抑揚の無い日々に魔法を仕掛けて、憂鬱を蹴飛ばしてくれるようなアジカンの音楽にはまた来年もお世話になるだろう。


というわけで、stats.fmを使って2022年の傑作群を振り返ってみた。主体的に選ぶとなると骨が折れるが、こうして自動的に観測されたスタッツをもとに語ると、自分が日常的に聴く音楽に何を求めているかが少しずつ見えてくる。2023年も楽しみにしておく。

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