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我が子の瞼 赤糸で紡ぎて 
木漏れ日が写しだす 羽隠虫

暗い羊水の中で俺は 
映画の始まりを知らせるベルを聞いた

寡婦の母親の胎内という
指定席に浮かびながら
俺は初めて映画のスクリーンに
自分の血が流れている事を知った

昭和四十九年三月七日 午前一時五十分
うらぶれた場末の映画館で俺は 
確かに産み落とされた

映画のベルが鳴り響く 
スクリーンには念仏と菊の花が映し出される

安月給 街工場勤め 
機械油と汗の染み付いた作業着を着た労働者

寂寥に愛を語り続けてきた
女郎屋の女将達が集う胞衣の劇場よ
俺は確かに此処で産まれた

スクリーンには美女の宝石を狙う
世紀の大怪盗 怪人二十面相

客席には未だスクリーンの美女を演じる
老女優の麗しき涙

その麗しき涙を奪おうと
スクリーンから手を伸ばすのは誰だ!

スクリーンの中では永遠の主役が約束され
客席には棺と算盤を抱えた
葬儀屋の口笛が聞こえてくる

客席の灯りが点く前に 
俺もドアを開かなければならない

じっとしている間にも 
フィルムはカラカラと回り続けているのだ

さぁ入り口と出口は一つずつ
このまま俺の臥所となるのか 
胞衣の劇場
俺も世紀の大怪盗になってしまうのか 
胞衣の劇場
映画のベルが鳴る前に 教えてくれよ 
胞衣の劇場

俺という映画を
俺が生きているという証を
俺は確かに此処で産まれた
俺は確かに此処で産まれたのだ
俺は確かに此処で産まれたのだ

胞衣の劇場 まっくらくらの 
暖かい母の海
胞衣の劇場 ゆらりゆらり  
羽隠虫が飛んでくる
胞衣の劇場 まっくらくらの 
夢寐の我が子 まだ眠い
胞衣の劇場 ゆらりゆらり  
赤い一縷 母と子の

母の歌響く 映画を見た 
胞衣に包まれた無数の星達よ
母の歌響く 映画を見た 
嬰児の朝よ無窮の劇場

無数の星達よ 無窮の劇場 無数の星達よ

2009年
血の濫觴/ストロベリーソングオーケストラ
作詩・作曲/宮悪 戦車

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