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PLGとジョブ理論と私(プロダクトマネージャー)

こんにちは、外資系IT企業でプロダクトマネージャーをしていますハヤカワです。

SaaSプロダクトのProduct-led growth戦略について、ジョブ理論(Jobs-to-be-done)の考え方と、プロダクトマネージャーの視点について考えてみたいと思います。

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私は、米国 Salesforce.com の Product Growth & Adoption というチームで、AI製品のAdoptionを高めるためのプロダクトのプロダクトマネージャーをしています。

PMというと、イチから製品を作ったり、開発チームと一緒にロードマップに基づいて製品を作るイメージが強いと思いますが、それだけではありません。

実はPMには4つのタイプがありそれぞれ

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①  Innovation PM
② Feature PM
③ Growth PM
④ Platform / Tech PM

という分け方ができます。この中でも、製品をユーザーに定着化させ、利用ユーザーを広げ、製品を成長させることをミッションとしているのが、Growth PMです。私が所属しているのもこのGrowth PMチームです。

📈 PLGについて

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さて、Product-led Growthという言葉自体はみなさんいろいろなところで目にしていると思います👀

こちらの記事にPLGについては詳しく書いてあるので、ぜひご覧ください。このnoteではPLGのビジネス的な戦略や組織、PLGをとっている成功企業の話は割愛します🙊

では、プロダクトマネージャーとしてPLGにどう関わっていくのかについて話していきたいと思います💪

🌀PLGの誤解

Product-led growthとは、「プロダクト自らがユーザーを獲得、販売、定着、そして解約されないように維持し、拡大すること」を指します。日本のスタートアップ市場では、起業家や投資家の文脈で「営業を使わずにプロダクトを販売すること」と狭いレンズで捉えられてしまっています。ビジネス戦略としてのMRRやARPU, CAC, CLVといったお金の話や、組織や会社としてのGo-to-market戦略などのキーワードもよく聞きます。しかし、実際はそれだけではありません。営業、マーケティング、カスタマーサクセス、エンジニアリングといったプロダクトのライフサイクル全体において、プロダクトが自らがビジネスを促進する戦略を指します。

では、CEOやCPOが立てた PLGの戦略に対して、プロダクトマネージャーははどのように応えていけばいいのかを考えてみましょう👇

⚠️ 内容に入る前に注意として、Product-led growth は Product manager-led growthではないというところも押さえておきましょう。PLGの話や、Pendoの Todd Olsonの著書 "product-led organization"でも、冒頭の方にPMの話が出てくるため、プロダクトマネージャーが主導するものと思われますが、そうではありません。確かにPMが重要な役割を担いますが、会社や組織そのものがPLGに合わせて変化をする必要があります。

🍡 プロダクトマネージャーの種類

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Product-led growthについて、ビジネス戦略や組織ではなく、プロダクトマネージャーとして何をするべきなのか、ということについて考えてみます。

まず前提として、前述した3種類のPMについて考えてみたいと思います。

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🍡 ① Innovation / 0→1 PM とは、プロダクトの価値(Value)を見つけ、その価値を広げながら、新たな市場を見つけにいくPMです。新製品や起業したばかりのスタートアップに所属するPMが最初に担う役割がこれにあたります。

🍡 ② Feature / Core PMとは、プロダクトの価値の上で、何を、なぜ作るのかを定め、実際に製品・機能を作ることで、プロダクトを通してユーザーに価値を届けるPMです。比較的多くの企業に求められるのがこのPMです。

🍡 ③ Growth PM は、既存の価値や機能に基づいて顧客へ提供するプロダクトの価値を最大化するために、機能を改善し、よりユーザーに使ってもらう (Adoptionを向上する) というミッションを担うPMです。一般的には、複数の製品を持つ企業や、一つの製品がPMFを達成した後に求められる事が多いです。

一方で、PLGにおいては初期段階で Growth PM が求められるのではないか?と個人的に考えています🤔

🧢 PLGにおけるPMの役割

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では、PLGにおけるそれぞれのPMの役割を見てみましょう

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🧢 ① PLGにおける Innovation / 0→1 PM の役割

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Innovation / 0→1 PMは、新たな価値を見つけるために、PLGにおけるプロダクト全体の戦略と、プロダクト主導でユーザーが価値を得るための体験全体を考える必要があります。

たとえば、従来のプロダクト戦略では、複雑な製品体系により営業が必要だったり、個社別のカスタマイゼーションが必要な場合は、PLGにそのまま変わることは難しいです。
そこで、PLGにおいては、プロダクト主導でユーザーが製品から価値を得ることができる、そして製品自らがそれをリードすることができる、新たなプロダクトの戦略やユーザー体験を考える必要があります。

🧢 ② PLGにおける Feature / Core PM の役割

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Feature / Core PMは、その名前の通り、製品の機能を実際に作って、製品改善していくPMです。PLGにおいては、顧客を獲得 (Acquisition)し、新規ユーザーがアクティブ化(Activation)し、さらに定着・維持し続ける (Retention)ことを、プロダクト主導で実現する必要があります。そのためのプロダクト自体の設計、機能を考える必要があります。

たとえば、最初に無料で使ってもらい「顧客を獲得」するためにどのような機能があればいいのか?
そして、「アクティブ化する」つまり顧客がお金を払ってでももっと使いたい!と思ってもらうためにどのような機能を提供し、どのように利用制限するのか?
最後に、ずっと使い続けたい「定着・維持し続ける」ため、プロダクトの価値を提供し続けるループを作るためにどのような機能を提供するべきなのか?というプロダクトの製品そのもの、そして機能を考えます。

また機能以外にも、プロダクトをどのように市場に投入するのか (Go-to-market)戦略についても考える必要があります。

たとえば、製品の課金体系としてはフリーミアムで良いのか?その場合、機能を制限するのか?利用度合い(Usage)を制限するのか?課金する場合は従量課金 or ユーザー課金か?などなどプロダクトのデリバリー方法もPLGに基づいて考える必要があります。
(初期のプロダクトの場合はこの部分をInnovation PMが考えることになると思います)。

🧢 ③ PLGにおける Growth PM の役割

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最後に、Growth PMは、ユーザーがプロダクトを通して体験するプロダクト全体から、顧客の定着化をより促進し、製品を改善しながら、新たなユーザーの獲得を目指していきます。
特に、他のPM以上に、担当しているプロダクトの事実やデータ(Data)に着目し、成長・成功指標 (Metrics)を改善するために、一連の短期間での実験を繰り返し(Iteration)、プロダクトの成功に向けたプロセス全体の効率を段階的に改善させます。

ここで、データは必ずしも定量的なデータだけではないことに注意します。プロダクトの利用度合いをトラッキングしたデータや、外部データのような定量的なデータは一般的にアウトプット型の指標と呼べます。しかし、それ以外にも、実際にユーザーと話すことで得たデータやユーザーインタビューやアンケートで得た定性的なデータも重要です。Growth PMはこれらの事実とも言える、データに着目し、成長のための意思決定を行います。

私自身もGrowth PMとしては、以下のことをやっています。

プロダクトの利用データ・利用ユーザー・営業売上データの分析、ユーザーリサーチ、ユーザーインタビュー、アンケート調査、ワークショップ、ユーザーとのMTG、新機能のテスト、パイロット、検証、VoCの優先順位付け

他のPMとの関わり方としては、Feature / Core PMに対しては、分析や新機能のユーザーへのパイロット検証などを通して得たVoCや既存製品のAdoption状況を連携し、一緒にどのようにFeatureレベルでプロダクトを改善できるかを考えたりします。

また、Innovation PMに対しては、機能を開発する前に、MVPのようなものを作り、ユーザー検証を行い、AdoptionやGrowthにどの程度影響があるかを調査し、今後の新たな価値創造や機能改善のために必要な材料を用意するような動き方もします。

📊 プロダクトマネージャーが追うべき成功指標

さて、ここで重要になってくるのが、何を成功指標として、Growthさせていくのか?です。前述のとおり、製品利用データやユーザーデータといった定量データだけではプロダクトの成功は図れません

なぜならば、製品のダウンロード数や、ログイン頻度、機能の利用頻度はユーザーにとっての成功と何の関わりもないからです。

一方で、ユーザーと話し「製品うまく使えていますか?」と聞いたり、カスタマーサクセスとして満足度や不満、改善要望を聞くだけでも不十分です。

📊 PMとしては、プロダクトの価値を見極め、それが達成されているかどうか?をプロダクトの成功指標とすべきです。

North Star MetricsやGrowth Metricsといった、プロダクトの成長を左右する主要KPIも重要です。PLGにおいて、コンバージョン率やアクティベーション率をトラッキングする中で、ユーザーが何をすればその後の定着化が促進するのかを見極めるために必要だからです。

💎 プロダクトマネージャーとジョブ理論

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一方で、プロダクトの本当の価値を考える上では、あと一歩足りません。そこで使えるのがジョブ理論 (JTBD: Jobs-to-be-done theory)です。

ジョブ理論(JTBD)について、詳しくないかも? 🤔という方はこちらをご覧ください

ジョブ理論(JTBD)では、ユーザーが達成したいジョブを顧客の声を通して見極めることを目的としています。

意外と見落としがちなのが、ジョブ理論(JTBD)はソリューションスペース には言及していないという点です(デザイン思考において、問題とソリューションを分けるという考え方)

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ジョブ理論(JTBD)にはSolution agnostic(ソリューション依存しない)という特徴があるように、ユーザーのジョブを達成するためにどんな解決策があるべきなのかはどうでもいいのです。

一方で、ユーザーが達成したいジョブを無視した状態で、ソリューションを提供するのも無価値です。

そこで、ジョブ理論(JTBD)のような問題に言及した定性的な定義と、ソリューションが達成する定量的な成果を紐付けなければいけません。

ジョブ理論(JTBD)には、アウトカムアプローチと呼ばれる、ユーザーが達成したいジョブがもたらす成果 (アウトカム) はなにか?を定義する方法があります。

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この記述方法でJTBDを定義することができれば、スライドの文章の最後にあるように「時間を最小化する」といった形で、何かしらの計測可能な定量的な指標で、ユーザーが達成したいジョブを表せるので、このアウトカムベースのJTBDをプロダクトの成功指標として追うことができます

☘️ PLGとジョブ理論とプロダクトマネージャー

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さて、少しPLGと離れてしまいましたが、最後にPLGにおけるPMの役割にジョブ理論(JTBD)がどのように役に立つのかを立ち戻って考えてみます。

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☘️ ① PLGにおける Innovation / 0→1 PM によるジョブ理論 (JTBD)

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Innovation PMの役割は、プロダクトの価値を探し、定めることです。このときに、社内のディスカッションだけでプロダクトの価値を探したり、何となくで定義しては不十分です。JTBDの考え方に基づくことで、顧客の声に耳を傾け、プロダクトが提供する価値は何かを定義することができます。つまり、PLGにおいてプロダクトの価値を見つけ、ジョブ理論によって定義し、プロダクトの全体戦略、ユーザーの体験全体を考えることがプロダクトマネージャーには求められます。

☘️ ② PLGにおける Feature / Core PM によるジョブ理論 (JTBD)

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Feature / Core PMにとっても、ただ闇雲に機能を提供し、ビルドトラップにはまってはいけません。機能を作る前に、どのようなジョブを達成するために、どのような機能を、どういう優先順位で作るかを考える必要があります。

PLGにおいては、利用初期に少ない機能で、ユーザーが求めている本質的な価値を達成しなければ、アクティベーションしてもらうことはできません。そこで、ジョブ理論の考え方で定めた、プロダクトが本質的に達成すべきジョブにこだわった機能のみを提供することで、PLGにおけるアクティベーションなどの成長指標を達成することを目指します。

☘️ ③ PLGにおける Growth PM によるジョブ理論 (JTBD)

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そして、Growth PMにとっては、定量的なデータだけでなく、JTBDに基づいて、ユーザーのジョブがどの程度達成されたかをプロダクトの成功指標としてトラッキングし、何が足りないのかを分析することが重要です。

ユーザーの成功と直接関係のない、アウトプット型の定量的な指標だけでもダメですし、闇雲にユーザーのアダプションやエンゲージメントを高めるのも不十分です。ユーザーが何を成し遂げたいのか?現在提供している製品や機能でどの程度ジョブが達成しているかを定量・定性の両面でデータによって分析することで、プロダクトの改善、成長を目指していきます。

おわりに

いかがでしたでしょうか?PLG、ジョブ理論、プロダクトマネージャーの関係性が少しでもわかっていただけたら嬉しいです。私自身もGrowth PMチームに所属してまだ日が浅いですし、PLGについても学んでいる最中です。今回のnoteでは具体的な話までは言及できませんでしたが、これからも、このようなプロダクトマネージャーに関することについて発信していきたいと思います。一緒に、プロダクトマネージャーとして学んでいきましょう!💪

今回のPLGの話にもあったように、プロダクトにおける価値や解決すべき課題に着目することがプロダクトマネージャーにとっては重要だと考えています。個人的なそういった想いから、プロダクトが目指している価値をジョブ理論などのフレームワークに基づいて、客観的に評価するレポーティングツール Value Assessorというのを作っているので、ぜひご利用してみてください!


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参考資料
https://www.productled.org/foundations/the-rise-of-the-growth-product-manager

https://productschool.com/blog/product-management-2/product-led-growth-strategy/

https://productschool.com/blog/product-management-2/product-driven-growth

https://productschool.com/blog/product-management-2/growth-product-manager-airbnb




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