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「パラソル&アンブレラ」⑥

第六話「アウト&イン」 
 母の一周忌は、無事済んだ。墓の近くのおばの家に寄った古透子と八未は、おばの話を腰を据えて聞くことにした。なにやら長くなりそうだからと、おばは笑いながらもどこか困り果てている様子で、二人の娘は、?と思った。
「いや、実はね、やっちゃん。あんたのお父さんが、あんたに会いたいって言ってるんだよ。どうする?急に来られても、ねえ?」
ついにこの日がやって来た、と古透子は思って、背筋がぞうっとした。自分のではなかったが、父が登場するという、この日がついに。
八未も、視点がどこか定まらず、ボーッとしている。
「で、八未の父親って、本当に?」
古透子が強く出た。おばはため息を付くと、
「本当なのよ。真理子が当時働いてた会社の上司でね、妻子もいるんだって」
言い終えたおばは、お茶をズズッとすすると、
「どうする?会ってみる?会ってみたいかい?」
八未に詰め寄った。
「、、、会いたくない」
八未は、震える声でささやくように絞り出した。
「なんで?なんで、今さら?、、、卑怯っ!」
それが若さゆえの潔癖な八未の答えだった。
「そうだよねえ、あんまりだよね。今までどうして放っておいたんだって、話だよねえ」
おばは、少し目をうるませながら、八未の背中をさすりつつ言った。
「断っておくからね。おばさん、あんたらの味方だから。ようく、言っておくよ。だから、元気出すんだよ?私がいけなかったのかもしれないね。ごめんねえ」
おばの目からは、嘘偽りなく涙が流れていた。それを見たら、八未の目からも大粒の涙が溢れ、つられた古透子の目にも、涙が溢れ出した。
いつまでも、ごめんね、ごめんねえと言うおばを快くは許せなかったが、なるたけこの案件は二人で直ぐに忘れようと思った。子どもも居なく、夫に先立たれて、今や一人暮らしのおばの家を後にすると、古透子は、このことを真っ先に友人(ゆひと)に喋りたいと思った。だが、今はそれは出来ぬ相談であった。あれ以来、パッタリと彼は古透子の目の前に現れてはいなかったのだ。
 いつも、八未と一緒に生きてきた古透子は、あまり寂しいと思わない、言えない子に育ってしまっていた。しかし、この時ばかりはつくづく寂しかった。だが、自分は友人(ゆひと)の事を恋人として受け入れられるのだろうか?それは、何よりもかによりもおおいなる謎であった。

 「友人(ゆひと)に振られたんでしょう?違う?」
大学で出来た友と、電話で話していたときも、そう聞かれた古透子は、そうかも知れない、と思った。友はさらに、
「本当のこと、言えっ!吐けっ!」
と突っ込みを入れて来て、ついに古透子は事実を白状した。
すると友は、
「なーんだ、あんたが振ったんじゃない!じゃあなんで、そんなに落ち込んでんの?」
と聞いた。そうだ、何故自分はこんなにも辛い気分でいるのだろうか?それは、実は私も友人(ゆひと)が好きだったからではないだろうか?深夜ラジオを聴きながら、ベッドの上から窓の星を見上げ、古透子はようやく自分の答えに気が付いた。ラジオから、ドリカムの「すき」が、きらきらした流星のように部屋に流れこんでいた。

 






 
 


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