三木成夫を読んだ記憶から
人間の臓器の内で唯一、意思によってコントロールができる(ときにはしなければならない)ものが、肺である。旅立つ前の最後の晩餐、故郷の味をまだ充分に身体に蓄えていないのに、胃は、これ以上の食べ物を拒否する。自分の意思で胃を動かして、消化を早め、さらなる味を迎える隙間を用意することはできない。しかし肺は、意思によってその動きを変えることができる。息を潜めて隠れなければならないとき。森の奥で澄んだ空気を深く吸い込みたいとき。身一つで、色彩豊かな海の中へと溶け込みたいとき。人は意識し