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第45回・何かお探しですか?

今日、キャンピングカーを見に行ってきた。
すぐに買う予定があるわけでは無いが、正直買えなくもない。
その代わりに、我が家の財はほぼほぼブッ飛ぶ。

間違って、ノリで買ってしまった後には、それに乗って、どこかへ出かけ、思い出を沢山作ることは無いだろう。
『キャンピングカーをギリなのに買った』という事実が思い出のピークとなり、それが唯一の思い出となるはずだ。
20年ほど経たなければ笑い話にも出来ない。

ローンを組めば良いのでは?と思われるかもしれないが、それで購入出来たとしても、それは自分のお金で買ったわけではない!と、きっと私は感じてしまう。
乗りながらも、どこか納得いかずシックリもこないまま、楽しい思い出なんて作れない。

ならば、なぜ見に行ったのか?

実際は、情報収集のためだ。
『購入はきっと無理だろうな』を『やっぱ購入は無理だな』の気持ちに切り替えるため。
つまりは、現実を思い知りに行ってきたのだ。

20代の頃、何年間かアパレルの販売員をしていた時期がある。
毎日のように本社から送られてくる新作の服をオタタミして、店頭に並べる。
その声、どこから出してんの?って感じの声で、「いらっしゃいませ〜」と一日中繰り返し、そしてまたオタタミをする。

「何かお探しですか?」
「私も買いました!」
「良かったらご試着も出来ますので」
「今日入ってきたばかりなんですよ」
この辺のワードも、一通り実際に使った経験もある。

毎月のように自社の服を割引で購入し、それを着て毎日のように店頭に立ち、笑顔を作った。
あれだけ狂ったように買っていた服も、現在は年に1度買えば良いくらいになっている。
自分の中で、モノの価値観は確実に変わったということだろう。

販売員を辞めて10年以上経つが、未だにあれらお決まりのワードを耳にする。
その度に、やっぱり辞めて良かったなと思う。

別にアパレル販売員という仕事を否定しているわけではない。
実際に、自分が働いている時は、楽しかったしやりがいもあった。
ただ、自分にとっては、何も見えてこない世界だった。

この先、何十年とオタタミしながら、どこからとも分からぬ場所から声を出し続けることは出来ないな。
そう、ある時オタタミしながら思ってしまった。
そして、手に職を付けたいと思って、飲食の道に進んだ。

アパレルの時の経験があるから、自分が客の立場になった場合、なんとなく販売員さんが、今何を思っているのかが分かる。
販売員は、慣れてくると、お店にお客様が入ってきた瞬間に、この人は買う人か買わない人かが判るようになる。
私もその能力は会得した。

きっと今日、キャンピングカーを見に行った時も、お店に入った瞬間に、お互いが思っていたはずだ。

『無いな』と。

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