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わたしの本棚109夜~「在宅ひとり死のススメ」

 今年は、在宅死に関する書籍、映画が話題になっています。長尾和宏先生の「痛くない死に方」(高橋伴明監督で映画化)、南杏子先生の「いのちの停車場」(成島出監督で映画化)どちらも医師の立場から在宅死の在り方、終末医療のあり方を問う作品で、読みごたえ、観ごたえありました。どんどん高齢化社会になっていく日本では避けては通れない問題です。そして、おひとりさまの立場から、上野千鶴子先生が書かれたのが「在宅ひとり死のススメ」です。

☆「在宅ひとり死のススメ」 上野千鶴子著 文春新書 800円+税

 あとがきによると、「ある日亡くなっているのを発見されたら、それを孤独死と呼ばれたくない。それが本書の執筆動機です」とあるように、今まで負のイメージだった、在宅でひとりで死ぬことを、いろんな事例をあげてポジテイブにとらえ推奨している本です。

 老後はおひとりさまがしあわせ、のデータを門真市の辻川覚志医師のデータを基に解説してくれます。60歳以上の高齢者500人へのアンケートです。家族へのきがねがない分、気楽に生活できることへの賞賛です。

 コストの面では、小笠原文雄氏の試算では、在宅ひとり死の場合、月30万から300万までと開きがあります。上野先生は、「日本の小金持ちのお年寄りは蓄えを持っているのではないでしょうか」との見解。一方で、病院や施設に入ると、高額医療保険の減免制度があるものの、差額ベッド代金などが加算され費用はかさむとのこと。小笠原氏からの朗報として、「独居の在宅看取りの経験値があがって、医療保険と介護保険の自己負担額の範囲内で看取りができるようになった」そうです。

 上野氏は介護保険は成り立ちから在宅支援をめざしており、年々改訂されて、おひとりさまには家族の抵抗がない分、使いやすいと指摘されています。ちょうど、2021年文藝春秋5月号に、上野千鶴子さんと有働由美子さんの対談があったので、読んでみました。

 このあとの対談では、「あさイチで感じた変化」「四十代で経験した不妊治療」「プライベート上野は別人?」「娘世代はガマンしない」「男が男にイエローカード」「社会改革は建前から始まる」といった小見出しで、女性の社会進出、ジェンダーのことが対談されていきます。

 本の中では、小笠原氏の「ひとは死に時を選ぶ」という言葉とともに、看取り士養成に携わる柴田久美子さんの言葉が、印象的でした。「たとえどんな惨憺たる人生でも、終末の1%が幸せだったら、そのひとの人生は成功だ」というのが柴田さんの持論です。(P94)

「在宅ひとり死」は現場の専門職の支えがあればできる、という上野先生が得た手ごたえは、介護保険のおかげでもあると明言されています。そして、要介護になっても、認知症になっても安心できる社会を、障害を持っても殺されない社会をつくるために、まだまだやらなければならないことがいっぱいありそうです、あなたも一緒に闘ってくださればうれしいです、と結んでおられ、勇気づけられました。

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