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「キャラAはBにごにょごにょと呟いた」とだけ描写して発言内容を伏せることで、読者・鑑賞者の好奇心を刺激する ~小説「涼宮ハルヒの憂鬱」の場合

俺に身を屈めさせてハルヒは耳元でその「作戦」とやらをごにょごにょと呟いた。

小説「涼宮ハルヒの憂鬱」


◆概要

【「キャラAはBにごにょごにょと呟いた」とだけ描写して発言内容を伏せることで、読者・鑑賞者の好奇心を刺激する】は「読者・鑑賞者の心を掴んで離さない語り口」のアイデア。


◆事例研究

◇事例:小説「涼宮ハルヒの憂鬱」

▶1

本作の主人公は、キョン(高1男子)。

彼はごく普通の少年である。


高校に入学したキョンは、

・Step1涼宮ハルヒという何ともエキセントリックな女子と同じクラスになった。

・Step2:そしてひょんなことから口を利くようになり……ハルヒが立ち上げる部活、何をするのかさっぱりわからぬ怪しげな部活の部員にされてしまった。

・Step3:キョンは困惑する。しかし相手はハルヒだ。言葉を尽くして抗議しようと無視されるだけだろう。ハァ。彼は、渋々ながらハルヒに付き合うことにした。


その後いろいろあって、

・Step4長門有希、朝比奈みくるという2人の女子生徒を部活に引きずり込んだハルヒ。


次いで、ハルヒは言った「部室にPCがほしいわね」。

・Step5:彼女は「調達に行くわよ」と宣言すると、キョンとみくるを伴ってコンピュータ研究部の部室に向かった


▶2

ご注目いただきたいのは、Step5である。

コンピュータ研究部の部室の前にやってきた3人だが……

※以下、「俺」はキョンのこと。

「これ持ってて」
そう言って俺にインスタントカメラを渡す。
「いいこと?作戦を言うから、その通りにしてよ。タイミングを逃さないように」
俺に身を屈めさせてハルヒは耳元でその「作戦」とやらをごにょごにょと呟いた。
「ああん?そんな無茶苦茶な」
「いいのよ」

お前はいいかもしれんが。俺は不思議そうにこっちを見ている朝比奈さんを一瞥し、アイコンタクトを図った。
とっとと帰ったほうがいいですよ。
目をパチパチさせている俺を朝比奈さんは怪訝な顔で見上げ、いかなる理屈か、頬を赤らめた。だめだ、通じてない。
そんなことをしているうちにハルヒは平気な顔でコンピュータ研究部のドアをノックもなしに開いた


そう、ハルヒがキョンに何を呟いたのか、私たち読者には明かされないのだ。そしてそのままハルヒが部室に突入し、作戦が始まる……!


これが重要だ。

何を呟いたか明かされないからこそ、私たち読者は「ハルヒは何と呟いたのだろう?」と興味を抱き、「もしかして○○か?」「いずれにせよハルヒのことだ、どうせとんでもないことをやらかすに違いないぞ(笑)」「キョン曰く『無茶苦茶』らしいからな(笑)」とワクワクドキドキすることになるのだから。


つまり、【「キャラAはBにごにょごにょと呟いた」とだけ描写して発言内容を伏せることで、読者・鑑賞者の好奇心を刺激する】というテクニックである。


もしもハルヒの発言内容が明記されてしまっていたら、こうはいくまい。


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