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「キャラが、略語・専門用語らしき謎の言葉をたびたび使う→しかしその意味はなかなか明かされない」という展開によって、「何かの略語か?」「どういう意味だ?」と疑問を喚起し、読者・鑑賞者の好奇心を刺激する ~小説「弱キャラ友崎くん」の場合

日南「おにただ」
友崎「え?なに?おに?ただ?」

小説「弱キャラ友崎くん」(第1巻)


◆概要

【「キャラが、略語・専門用語らしき謎の言葉をたびたび使う→しかしその意味はなかなか明かされない」という展開によって、「何かの略語か?」「どういう意味だ?」と疑問を喚起し、読者・鑑賞者の好奇心を刺激する】は「読者・鑑賞者の心を掴んで離さない語り口」のアイデア。


◆事例研究

◇事例:小説「弱キャラ友崎くん」(第1巻)

▶1

本作の主要キャラの1人・日南(高2女子)。

彼女には口癖がある。「おにただ」だ。

幼い頃好きだったゲームに登場するセリフで、「おにのごとく ただしい!」(鬼のごとく正しい)の略語らしい。


本記事では、この口癖に注目したい。


▶2

「おにただ」が初めて登場するのは、物語序盤のことである。

友崎(クラスメイトの男子/本作の主人公で語り手)とごくごくまじめに話している中で、ふいに日南が……

「おにただ」
真顔で指をさされてそう言われた。
「え?なに?おに?ただ?」
(中略)
「いや、なにいまの」
「……なんの話?気のせいじゃない?」
目をそらしてぶっきらぼうにそう言ってくる。なんだいまの。どっかで聞き覚えあるような。


次いで後日、またもや友崎とまじめに話している最中に日南が……

「おにただ」
「え?」
(中略)
「なに?いまの?」
「……気のせいよ」
なんだ?ふざけてるのか?顔が赤いし、俺を馬鹿にして、笑うのをこらえてるのか?しかもなんか聞き覚えがあるような響き……。


そして物語中盤、やはり友崎と話している中で……

「おにただね」
(中略)
「待て待て待て待て。もう三回目だぞ、そのおにただっていうの。なんだそれ?」
(中略)
「……そうね、三回目だしもういい、あきらめるわ。口癖よ。間違えてたまに言っちゃうの。知らない?小さい頃好きだったのよ、レトロゲームの『ゆけ!うちまくりブイン』のブインのセリフ。正直、恥ずかしいから今まではなんとかごまかそうとしていたけれど、もう面倒くさいわ。どうせ言わないようにしてもいつか言ってしまうし、これからはどんどん使っていくことにするわ」


ご注目いただきたいのは、3回目の登場シーンに至るまで「おにただ」の意味が明かされないという点である。

友崎は意味がわからなくて困惑するが、私たち読者も同様。「どういう意味だ?」と首をひねることになる。そして疑問を抱いたからには答えを知りたくなるのが人情というものだ。かくして私たちは物語に引きずり込まれる。ページをめくる手が止まらなくなる……!


つまり、【「キャラが、略語・専門用語らしき謎の言葉をたびたび使う→しかしその意味はなかなか明かされない」という展開によって、「何かの略語か?」「どういう意味だ?」と疑問を喚起し、読者・鑑賞者の好奇心を刺激する】というテクニックである。


もしも初っ端から「あ。おにただっていうのはね……」なんて日南が解説してしまっていたら、こうはいかない。


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