物語の合間合間に「嵐の前の静けさ、という言葉の意味が今の俺にはよく解る」「○○が暴走を開始するにはまだ一ヶ月弱ほどある」といった意味深なモノローグを挟むことで、「この後何かとんでもないことが起こるようだぞ!」と読者・鑑賞者にワクワクしてもらう ~小説「涼宮ハルヒの憂鬱」の場合
◆概要
【物語の合間合間に「嵐の前の静けさ、という言葉の意味が今の俺にはよく解る」「○○が暴走を開始するにはまだ一ヶ月弱ほどある」といった意味深なモノローグを挟むことで、「この後何かとんでもないことが起こるようだぞ!」と読者・鑑賞者にワクワクしてもらう】は「読者・鑑賞者の心を掴んで離さない語り口」のアイデア。
◆事例研究
◇事例:小説「涼宮ハルヒの憂鬱」
▶1
本作の主人公は、キョン(高1男子)。
彼はごく普通の高校生である。
第1章冒頭、
・Step1:キョンは高校に入学した。
・Step2:そして、涼宮ハルヒという少女とクラスメイトになった。ハルヒは大層エキセントリックなやつだ。
・Step3:ハルヒは入学直後からあれこれ奇抜な言動を取り、周囲を唖然とさせた。並行して、ハルヒと同じ中学に通っていた者の口から過去の奇行も語られる。
・Step4:5月、キョンはひょんなことからハルヒと言葉を交わすようになった。なお、月が替わってもハルヒの突飛な言動は続いている。
そんなある日のことだった。
・Step5:ハルヒがキョンに向かってふいに叫んだ「部活を立ち上げるわ!」。キョンは嫌な予感がする「まさか……俺を部員としてカウントしてないよな?」(ここで第1章は終わる)。
▶2
ご注目いただきたいのは、Step2-4である。
「ハルヒが奇行に走る→クラスメイトが愕然とする」「キョンとハルヒが他愛もない会話をする」といったシーンの合間合間に、以下のような気になる文章が登場するのだ。
・気になる文章1:入学直後、ハルヒがエキセントリックな自己紹介をした後に……
・気になる文章2:その後しばらくして……
・気になる文章3:5月になって……
・気になる文章4:「ハルヒは曜日によって髪型を変えているようだ」と気づいたキョン。彼は何の気なしに、ハルヒにそれを指摘。2人は二言三言、言葉を交わした。その後で……
・気になる文章5:「部活を立ち上げるわ!」とハルヒが宣言する直前に……
これらの文章は、私たち読者にあることを示唆していると言えるだろう。
そう、「この後ビッグイベントが待っていますよ!」「ビッグイベントが近づいていますよ!」と示唆しているのだ。繰り返し繰り返し、示唆しているのだ。
ゆえに多くの読者は、「一体何が起こるんだ!?」「ただでさえハルヒという少女はぶっ飛んでいるのに、この後さらにとんでもないことが起こるの!?」とワクワクしたに違いない。
そして続きが気になり、ページをめくる手が止まらなくなる……!
つまり、【物語の合間合間に「嵐の前の静けさ、という言葉の意味が今の俺にはよく解る」「○○が暴走を開始するにはまだ一ヶ月弱ほどある」といった意味深なモノローグを挟むことで、「この後何かとんでもないことが起こるようだぞ!」と読者・鑑賞者にワクワクしてもらう】というテクニックである。
なお、ここでいうビッグイベントとはStep5のことであり、第1章全体が「クライマックス=ハルヒの部活立ち上げ宣言」に向けて読者の期待を高めていくよう設計されているわけだ。
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