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「劣悪だった食生活が次第に改善されていく」という描写によって、人生に絶望していたキャラがエンパワメントされつつあることを暗示する ~アニメ「スーパーカブ」の場合

小熊「親はいない。お金もない。友達も趣味も、将来の目標もない。……でも、何もなかった私の生活にいまはカブがある!」

アニメ「スーパーカブ」(第3話)


◆概要

【「劣悪だった食生活が次第に改善されていく」という描写によって、人生に絶望していたキャラがエンパワメントされつつあることを暗示する】は「キャラの感情などを暗示する」ためのアイデア。


◆事例研究

◇事例:アニメ「スーパーカブ」

▶1

本作の主人公は、小熊(高2)。

彼女は覇気の感じられない少女である。まるで、すべてを諦めてしまっているかのように見える


というのも、じつは小熊には親がいない。

お金もない(奨学金でどうにか自活している)。

趣味もない。

友達もいない。

つまりは「ないない尽くし」である。


ないない尽くしの小熊は、これまでさんざん辛い目に遭ってきたに違いない。何かを望んでも手に入らない……。私には何もできない……。

その結果、彼女はすべてを諦めるようになったのだろう。

【「世界は冷たい」「私は世界に必要とされていない」「私には何もできない」→「何かを期待してもどうせ叶うことはない。だったら最初から期待しない方がマシ」】というわけだ。

小熊はそうやって生きてきた。それが彼女の生きる術だった。


▶2

ところが第1話中盤、小熊はひょんなことから原付バイク「スーパーカブ」を購入する。

そしてあちこち走り回ったり、カブを手入れしたりする内に気がつくのだ。「あれ。私にもできることって案外たくさんあるじゃん」「もしかして世界はそこまで冷たくないのでは?」「うわっ!世界って面白い!」と。

つまり本作は、【劣悪な家庭環境のせいで自信を失い、人生に絶望していた少女が、スーパーカブと出会ったことをきっかけに自信を獲得し、人生に希望を抱けるようになる物語】なのだ。


▶3

こうした「小熊の成長」は、食生活を通じて暗示されている。

まずは、第1話の食事シーンを見てみよう。


<朝食>

電灯を点けず、かといってカーテンも引かない。薄暗い部屋の中、小熊は立ったまま1人きりで食事をする。メニューはアップルジュースと、バターを塗っただけの食パンだ。


<昼食>

学校の教室。

小熊は「白米だけが詰まった弁当箱」と「レトルトパック(中華丼の素)」を持参している。レトルトパックは電子レンジで加熱するタイプの商品だ。そして教室には電子レンジが設置されている。しかし、小熊は加熱しない。そのまま白米にぶっかける。つまりは、すっかり冷えきった白米に冷たい中華丼の素をぶっかけただけの飯、それが彼女の昼食だ。

また、クラスメイトが友達同士集まってワイワイ楽しく食事をしている一方、小熊は自席に座って1人きりで黙々と口を動かす


<夕食>

チャーハンをレンジでチンして食べる。メニューはそれだけ。そしてもちろん、ここでも彼女は1人きりだ。


……この日ばかりのことではない。小熊は来る日も来る日もこんな食事を繰り返す。

食事には「おいしいものを食べて幸せを感じる」「温かいものや栄養のあるものを食べて健康に気遣う」「親しい人との会話を楽しみながら食べる」「料理を作ってくれた人に感謝しながら食べる」「神や生命に感謝しながら食べる」といった面があるはずだが……小熊の食事にはこうした要素は一切ない。

嗚呼、この貧しさよ!

これは人間の食事ではない。まるで餌だ。


▶4

しかしその後、小熊の食事は次第に変化していく

以下、第2話以降の印象的なエピソードを列挙してみよう。


・Episode1:礼子(クラスメイト、熱烈なカブマニア)に誘われて、一緒に昼食を食べるようになる →気の合う仲間と共に食事をする(第2話)

・Episode2:カブを使ったバイトに挑戦しようと決める。そしてコース確認のために甲府駅まで行った際、彼女は鶏飯を買って帰ってくる →旨いものを食べる(第4話)

・Episode3:「いまからうちに来ない?」と礼子に誘われた時、小熊は自発的に食材を購入、持参。そしてお好み焼きを手作りして、礼子にふるまう →大切な人のために調理する(第5話)

・Episode4:修学旅行前、旅行先でごちそうを食べることを想像してにやける。そして旅行中、豪勢な夕飯に舌鼓を打つ →旅先で旨いものを食べる(第6話)

・Episode5:クラスメイトの両親が経営する喫茶店を訪問。コーヒーの旨さに感激する。以後、隙あらば入り浸るようになる →外食の楽しみを覚える(第8話)

・Episode6:偶然見かけたメスティン(アルミ製の飯盒)にひと目惚れ。迷った挙句に購入する。以後、メスティンで米を焚くようになる →日常の食事にも気を遣う(第8話)

・Episode7:礼子のみならず、椎(新しくできた友人)にも手作りのカレーうどんをふるまう →料理をふるまう相手が増える(第11話)

・Episode8:礼子、椎とともにツーリングに出かける。途中、各地で旨いものを食べたり飲んだりする →食事って最高!(第12話)


とまぁこのように、「小熊の変化(人生に絶望していた → 次第に自信を持ち、希望を抱けるようになっていく)」に合わせて、彼女の食生活は改善されていくのだ。

つまり、「劣悪だった食生活が次第に改善されていく」という描写によって、人生に絶望していたキャラがエンパワメントされつつあることが暗示されているわけだ。


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