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サラリーマン、レザークラフターと小説家を兼務しています。 暖かい目で見て頂ければと思い…

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サラリーマン、レザークラフターと小説家を兼務しています。 暖かい目で見て頂ければと思います。

記事一覧

【小説】カセットテープなカフェバー【6】

翌日、朝から忙しかったカフェも、ようやく落ち着き出した午後2時過ぎ。 私はオーディオ機器の電源を入れ、来るべきその時刻を待つことにした。 30分ほどが経ち機器が暖…

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6か月前

【小説】カセットテープなカフェバー【5】

翌日、私は野呂にサンプルの率直な感想を伝え、より高音質にするため磁性体を更に高密度、かつ、二重塗布にするようサンプル作成を指示した。 予算からすると、納品される…

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6か月前
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【小説】カセットテープなカフェバー【4】

ふと、優子を見ると、潤んだ瞳で私は見つめられていた。 「珈琲、美味しいわ。で、どうするの?私も応援するわよ」 風のように現れた野呂の事はともかくとして、一旦否定し…

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6か月前
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【小説】カセットテープなカフェバー【3】

「あのー、私、こういう者ですが・・・」 いつも3時頃に来るお客はさっき見送ったのだが、もう一人いたことをすっかり忘れていた。 差し出された名刺を見ると、日本マグ…

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7か月前

【小説】カセットテープなカフェバー【2】

店に入ってきた優子は、覚悟を決めたかのように私の目をしっかりと見つめていた。 「いらっしゃい。どうぞ、こちらに」 私は、2人をテーブル席へ案内した。 優子のクライ…

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7か月前

【小説】カセットテープなカフェバー【1】

別に、お客がいないわけじゃない。 ここは心地良く音楽を楽しむため、それ以外は静かさを売りにしているカフェバーだ。 店内を見渡すと、さっきまで居たのに、あ、手洗いか…

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7か月前
【小説】カセットテープなカフェバー【6】

【小説】カセットテープなカフェバー【6】

翌日、朝から忙しかったカフェも、ようやく落ち着き出した午後2時過ぎ。
私はオーディオ機器の電源を入れ、来るべきその時刻を待つことにした。
30分ほどが経ち機器が暖まり出した頃、扉が開いた。
「いらっしゃい。ちょっと早すぎないか?仕事はどうしたんだ?」
オレンジのダッフルコートに、黒のミモレ丈フレアスカート姿の優子だった。
「だって、お店に着いたらテープチェックが終わってた、なんて事になったらイヤだ

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【小説】カセットテープなカフェバー【5】

【小説】カセットテープなカフェバー【5】

翌日、私は野呂にサンプルの率直な感想を伝え、より高音質にするため磁性体を更に高密度、かつ、二重塗布にするようサンプル作成を指示した。
予算からすると、納品されるテープの長さは全体の半分以下になってしまうが音質が最優先という拘りは譲れなかった。
野呂は数日中に出来上がり、店まで持ってくると言った。

そして数日後の夜、仕事を終えた優子が店にいた。
ウイスキーの入ったグラスの氷を揺らすようにユラユラさ

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【小説】カセットテープなカフェバー【4】

【小説】カセットテープなカフェバー【4】

ふと、優子を見ると、潤んだ瞳で私は見つめられていた。
「珈琲、美味しいわ。で、どうするの?私も応援するわよ」
風のように現れた野呂の事はともかくとして、一旦否定してから肯定に転じた島村まで、確かに話がうますぎる。
こうなったら、自分の目で確認するしかない。
そこで私は、野呂の会社、つまり、磁性体メーカーの日本マグネティックマテリアルズで正式に見積もりをもらう事にした。

定休日の水曜日に、優子と待

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【小説】カセットテープなカフェバー【3】

【小説】カセットテープなカフェバー【3】

「あのー、私、こういう者ですが・・・」

いつも3時頃に来るお客はさっき見送ったのだが、もう一人いたことをすっかり忘れていた。
差し出された名刺を見ると、日本マグネティックマテリアルズ営業部長、野呂康浩と書かれていた。
中肉中背、50代半ばといったところだろうか。
きっちりスーツを着こなしているところは、頭の賢さを演出させているように見えた。
「大変失礼かとは思ったのですが、先ほどの商談を遠くから

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【小説】カセットテープなカフェバー【2】

【小説】カセットテープなカフェバー【2】

店に入ってきた優子は、覚悟を決めたかのように私の目をしっかりと見つめていた。
「いらっしゃい。どうぞ、こちらに」
私は、2人をテーブル席へ案内した。
優子のクライアントは、島村と名乗った。
珈琲を持って行き、優子達のいるテーブルを振り返る。
優子は異常なまでの相槌を打ち、あからさまに焦っている感じが伝わってくる。
いわゆる、プチパニックといったところだろうか。
私は優子がSOSを出さない限り、近づ

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【小説】カセットテープなカフェバー【1】

【小説】カセットテープなカフェバー【1】

別に、お客がいないわけじゃない。
ここは心地良く音楽を楽しむため、それ以外は静かさを売りにしているカフェバーだ。
店内を見渡すと、さっきまで居たのに、あ、手洗いから戻ってきた人生の先輩系お客が1人。
恐らく、どこかの会社を定年退職して、スローライフを楽しんでいるのだろう。
このお店の常連でもある彼は、ほぼ毎日午後3時頃に来店する。
店が一番空いている時間帯に来て、決まってこう言うんだ。
「何でもい

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