その一歩が、僕の人生を変えた。
「こんな足に生まれてこなきゃ良かった。」
小学校の時の、家での口癖だった。
僕は生まれつき、シャルコーマリートゥース病という難病を抱えていて、足が思うように動かない障がいを背負っている。
普通に立っているだけでもバランスが取れず、
走ることも難しい。
みんなが普通にできていることが、僕にとっては、全く普通ではない。
だから、スポーツというものは、僕にとってはもともと縁がない存在だった。
小学校の頃は、運動会の退場の時の、走って退場するところですら、すごく嫌だった。1人だけ置いてかれて、低学年の子達に追い抜かされていく。
ペースランニングの時もそうだ。スタート位置が離れた違うクラスの人たちに、あっという間に追い抜かされていく。
まだ何も知らない僕は、「もう周りと同じように生きていけず、何もかも追い抜かされていく人生なのか。」と思ってしまった。
みんなと同じように走れない、その事実だけで、僕の心は荒んでいった。小さい頃は自分の足を恨み続ける毎日が続いた。
そんな僕に、希望を与えてくれたもの。
それが、テニスだった。
そして、そのテニスを始めたきっかけでもある、Mコーチとの出会いが、僕の人生を大きく変えることになる。
テニスのクラブチームは、普通、障がいを背負った人をチームに入れたりはしない。Mコーチ以外のコーチは、僕がクラブチームに入ることに反対したそうだ。でもMコーチは、僕のことを暖かく迎え入れてくれた。
週に一回の練習だったけど、Mコーチは、親身になって教えてくれて、僕なりの打ち方やポジショニングなどを考えたりもしてくれた。とても優しかったのを覚えている。自分が障がい者であることを考えながら、出来ることを提案して親身に向き合ってくれたことが、本当に本当に、嬉しかった。
そして、勇気を出して体を動かすようになった途端、僕はどんどんテニスが上手くなっていった。普通の人にも負けないぐらい、テニスが上手くなった。
生まれて初めて、スポーツが上達している実感が湧いた時は、涙が出そうになった。
今まで何もできなかった分、その喜びは本当に大きかった。
こんな自分でも、スポーツできるんだ。
こんな自分でも、スポーツしていいんだ。
少しだけ、自分に自信が持てて、
前を向いて生きられるようになった。
そんなある日、Mコーチにこう言われた。
「お前は今まで、スポーツに挑戦してこなかっただけだったんだな。」
そう、僕は今まで自分の足の障がいを理由に、
スポーツから逃げていたのだ。
自分にはできない、自分には無理だと、
スポーツをする前から諦めて、
いつの間にか、いつも傍観者側に立っていた。
やってみないとわからないのに、やる前から諦めていた自分が、すごく情けなくなった。
コーチに言われて、やっと僕は目が覚めた。
そしてそこから、
僕の挑戦する心に火がついた。
大学に入ると、大学で1番大きなテニスサークルに入り、毎日のように練習に顔を出し、おぼつかない足に悔しさを感じながらも、練習を直向きに頑張った。
練習をしていると、自分の歩き方や走り方を見て、心配してくれる友達もいた。
自分の足の障がいを曝け出すことは、今まで恥ずかしいことだと思っていた。小学校の時は、変な歩き方をしていたせいで、いじめられたこともあったし、自分の足のせいで、自分に自信が持てなかった。
しかし、このサークルで、不恰好ながらも必死に頑張っていたら、心配していつも僕のことを見てくれていた友達から、こう言われた。
「足が悪いのにそんなにテニスできてすごいよな。俺も頑張らなきゃって思うよ。お前の足は勇気を与えられる宝物だな。」
泣き崩れた。
その言葉は、今までの僕の辛さを、幸せなものに変えるには、十分すぎる優しい言葉だった。
自分の足は、恥ずかしいものじゃない。
自分の頑張り次第で、他人に勇気を与えられる存在なんだ。そう思えた。
友達の一言で勇気が湧いてきた僕は、
大学のテニスサークルで、
さらに挑戦を重ねる。
大学3年生になった時、サークルの幹部になることを決意した。幹部は、練習のリーダーとしてテニスを教える立場に回ったり、練習を仕切ったりする。僕の足の障害を気にして、止めてくれる友達もいた。
それでも僕は、やりたかった。
もう、やる前から諦める人間に、
なりたくなかったから。
幹部が始まったら、大変なことばかりだった。自分より上手い人をまとめなければならなかったり、重い荷物を毎日運んだり。辛いことも沢山あったけれど、自分がスポーツにおいて人をまとめる立場になれているということが嬉しくて、ひたむきに頑張れた。
いつしか、後輩からは、
「先輩がいなかったら、サークル辞めてましたよ!」
「先輩がいてくれて、本当に良かったです。僕の大学生活に花が咲きました!」
「大変なことも多いのに、いつも面倒みてくれて本当にありがとうございます!」
「先輩いつも頑張ってて素敵です!」
とまでいってもらえるような、幹部になれた。この言葉を聞いた夜、小学校のころの、ずっと自分の足の障がいから逃げていた自分を思い出して、枕を濡らした。
本当によく頑張ったなと、
自分で自分を褒めてあげた。
スポーツは僕にとって、挑戦だった。
足の障害を背負って、運動をする。
なかなか想像がつかないことかもしれないが、
絶え間ない努力が必要だった。
もちろん、普通の人よりも技術が上がったとは言い切れないかもしれないけれど、
僕にとってスポーツに挑戦するということは、
大きな一歩だった。
そして、その一歩を踏み出したおかげで、
また次の一歩が踏み出せそうだ。
やる前から、諦めない!
自分にできないことなんて、ない!
一歩踏み出せば、なんとかなる!
頑張った分だけ、成長できる!
努力する姿は、きっと誰かが見ててくれる!
スポーツが僕にくれたもの。
それは、一歩。たった一歩。
でもその一歩は、僕の人生を大きく変えた。
スポーツは、多くの人にとっては、
当たり前の存在かもしれない。
でもその当たり前を、感じられない人もいる。
スポーツが出来ずに悲しんでいる人たちも、
いるかもしれない。
最初は何も出来なくて、辛くて、
大嫌いだったけど、
今ではスポーツができる尊さに、感謝している。
これからもずっと、
当たり前のことを当たり前と思わず、
感謝の気持ちを忘れずに、生きていきたい。
ありがとう。
もう、自分には無理だなんて、
やる前から、思わないようにするよ。
そして最後に、最初の言葉を撤回するよ。
「この足に生まれてきて、本当に良かった。」
たけひろ
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