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蕪木祐介さんと宮沢賢治と慶應義塾と

慶應義塾(三田キャンパス旧図書館)の八角塔にやっと行けた。曾禰達蔵・中條精一郎さん設計の重要文化財。ここで飲めるのは…盛岡の羅針盤、東京の蕪木でお馴染み、蕪木祐介さんのコーヒーだ。

(一年半前に蕪木さんのことを書いた記事をアップしていましたが、諸事情で削除してしまったので、八角塔のことなど、少し加筆修正しています。)

東京の東のほうに辟易するようなことばかりであったが、一つだけ、何がなんでも行ってみたい、否、行かなくてはいけないところがあった。「蕪木」である。

1、蕪木祐介さんとは


「蕪木」のオーナー蕪木祐介さんはわたしより2学年?3学年?上で、盛岡で同じ時代に同じ大学生として過ごしている。わたしが全席禁煙なんてすごい!とチェーン店のカフェに入っていた頃、個人経営の喫茶店を愛してくれて、数年前閉店した盛岡市の「六分儀」を「羅針盤」としてオープンしてくれた。上京する直前に、盛岡のカフェをめぐり始めたが、全部は周りきれず、悔やんでいた店のひとつだった。盛岡のカフェ文化を通うことで、閉店する店を羅針盤にすることで守ってくれて、ついには自身の知名度と提供するメニューのレベルの高さで全国区にしてくれた、個人的恩人のひとりだ。

先日帰省した時に盛岡の「羅針盤」に行った。

蕪木さんのお店の何が素晴らしいかというと、「ミニマリズム」「引き算の美学」だ。店員さんはあくまで黒子として、黒髪に全身黒い服を着ている。そこに、白にひと匙の金色を添えることで、珈琲が、チョコが際立つ。お店のカードも白地に黒のシンプルなものだ。デザインを皆まで言うと粋ではないので、あえて写真をアップしない。ぜひ現物を見ていただきたい。(羅針盤は)飾っている絵も白黒、(蕪木は)絵もなく時計もない。BGMもインスト曲、どちらも器は大倉陶園(ノリタケ系)だ。

2、羅針盤 岩手県盛岡市


羅針盤の店の作り込み方(作りすぎていない風に作っている)が異次元で、ここは盛岡?と思ってしまうほどだった。

羅針盤・・・なんと控えめな看板!


蕪木にはなく羅針盤にだけある三角コーン。あえてひらがな表記にして
建物のシルエットをつけて、盛岡の素朴な街並みに溶け込ませている?


大倉陶園のカップと無垢チョコレート


羅針盤が盛岡にあることは(神奈川県民的に言えば)スラムダンクで流川楓が、(岩手県民的に言えば)ハイキュー!!で影山飛雄が、地元の公立校に入学するくらいの奇跡だと思っている。それまでは、盛岡にはいい喫茶店あるよ、とぼんやり言っているくらいであった。羅針盤ができたことで、盛岡のカフェ・喫茶店はいよいよ全国区と胸を張って言えるようになった(と思う)。

この当時は「と思うと」書いたが一年後、確信に変わった。
東海道新幹線にはグリーン車限定の冊子があって、23年7月には盛岡のカフェが2店紹介されていて、「蕪木」と「クラムボン」を2ページずつ使って紹介していた。宮沢賢治没後●年のページもあり、5ページが岩手について言及していた。もはや観光のついでに来るのではなく、「関東〜関西エリアから、往復数万円の交通費をかけて、蕪木さんのコーヒーを味わいに来ませんか?グリーン車に乗る人なら、その価値わかるよね?」と言わんばかりに。

3、蕪木 東京都台東区

さて、蕪木、題名の通り東京都台東区にある。
そこそこ頑張って歩けば、(当時の)定期で行けることが判明。当日、カップうどんを啜るか悩んだが、適当な食事をした胃で、舌で、珈琲をいただくのは、蕪木さんに失礼な気がした。お蕎麦屋さんで岩手の具材を使った蕎麦を食べ、いざ出発。会社員のお昼休みタイムを主たる移動時間に充てたので、幸い電車は座れる程度に空いていた。

最寄(と言うにはやや遠い)駅に到着し、歩いた。特徴のある建物がなく同じような道が続き、もう到着してもいいくらいには歩いたけど見つからないなあ、と思ったところで強い珈琲の匂いがして、匂いを辿るようにしてもうひと歩きし、やっと「蕪木」に到着した。

「蕪木」しばらく店舗がここと気付かなかった


控えめな看板

この店、1階で焙煎をしていて、2階が喫茶エリア、と言うことを知らず、少々面食らった。階段を登ると扉があり、その扉を開けると、そこは、静かな喫茶店・・!コーヒーで染めたメニュー表を手に取り眺める。ブレンドコーヒー「珀(はく)」と無垢チョコレートを注文した。待ち時間にお客さんを見ると、一人で来ている女性3名全員が黒系の服を着ていた。わたしも黒いカーディガンで来てよかった。待ち時間にスマートフォンで手元とメニューを撮り、残りの時間は夫に説明するための絵を描いていた。十数分後、コーヒーが来た。

珀(はく)と無垢チョコレート。
木苺のような、ほんのり酸味を感じるチョコレートとマリアージュしてくれた。


口の中でゆっくりとチョコが溶けるように、コーヒーの香りが広がるように、心がほぐれていく。喫茶店のこの時間がたまらなく愛おしい。ほぐれながらも背筋が伸びるような、坐禅のような心地よい緊張感が残る。約1時間素敵なひとときを過ごし、帰った。

そういえば、テーブルには黄色や紫色の花、一方カウンター側は白い紫陽花があった。店員側を白にすることで、店員は目立ちすぎないというスタンスを徹底していると思われる。蕪木さんは花に詳しいのかと思っていたが、インタビュー記事を読むと、そうでもなかったらしい。

花の知識もないのに何かやってしまったら、それこそ上っ面になってしまうんじゃないかと思っていたから。でもあるとき気が変わって挿してみたら、気持ちがよくなったんですよ。僕以外にここに生き物が増えたというのがよかったみたいです。それで単純に、気持ちがよくなるものならやればいいじゃないかって。それ以来、花は欠かさないようにしています。

上記【わたしをひらくしごと】抜粋

蕪木に置くならという観点で花を買ってみた。

4、慶應義塾大学(三田)八角塔 東京都港区


さえぎる雲(ほぼ)なき旧図書館
看板のひかえめさは蕪木さん!


しっかり蕪木のコーヒーであることを推してくれている


大倉陶園のカップ!(左の黒猫の絵が書いたお皿も大倉陶園)


慶應義塾の三田キャンパスに来た時に、どこか懐かしいような気持ちになった。曽禰 達蔵さんは(東京駅やわたしの地元盛岡の岩手銀行赤レンガ館をてがけた)辰野金吾さんと同じジョサイア・コンドル一期生系らしく雰囲気が似ているのも納得。そして前述の通りここでいただけるコーヒーは蕪木祐介さんが焙煎していて、ああ盛岡市中の橋と同じだ、と気づいた。

就職して、結婚&上京して(岩手では比較的人気のない会社だと思っていたのですが、東京エリアでは大人気の会社であったため、とある同期いわく)「石を投げれば慶應卒に当たる」状態で、「SFCは湘南藤沢大学」という後輩たちの冗談を信じていたくらい何も知らなくて、岩手出身なのも家庭の事情と学力の兼ね合いで国公立しか受験できず地方国公立大卒なのもコンプレックスだったが、八角塔では岩手で学んだ蕪木さんのコーヒーがいただけるんだな、先生たちもこれを飲んで教鞭ふるっているんだな、とチョコレートが解けるように、コンプレックスもどこかに消えていくのを感じた。
ここではブレンドコーヒーと、おかわり用のポットがもらえる。2杯飲むのを前提にマイルドで優しい味わいで、一方サブレは塩味が強く、しっかりチョコでしっとりとしていて、マイルドなコーヒーによく合う。そしてここが一番横浜方面から通いやすい!

大好きな古川紙工のそえぶみ(八角塔のある旧図書館の絵が書いてある)と、慶應義塾の水(110円)を購入して帰った。売り上げの一部は奨学基金になるそう。この水は富士吉田市が採水地だそうで、フジファブリック好きにはうれしくて、毎日これ飲んでもいいと思っている。

5、おまけ

慶應義塾のサブレといえば、豊島屋の鳩サブレー!(久保田社長は三田会の役員をやっていたり、日吉には慶應パッケージの鳩サブレーが売っていたり、慶應を象徴する菓子のひとつ)鳩サブレーの豊島屋本店には「ハトソン(ダイソン掃除機にかけた鳩の卓上掃除機)」のような、鳩のダジャレ雑貨が売っているが、そのなかに銀の鳩という4,000円の銀製キーホルダーがある。これは元ネタが宮沢賢治の「マグノリアの花」の「天に飛び立つ銀の鳩」と最近気づいた。そして羅針盤の近くにある櫻山神社では、鳩サブレーの缶におみくじを詰めた、鳩オミクジーがある。これも最近気づいたが、オリザはラテン語で稲(グスコーブドリの伝記でオリザが出てくる)羅針盤にもオリザという名のブレンドがある。聡明で勤勉でストイックで、蕪木さんはブドリっぽいなあと思っていたが、宮沢賢治が好きと上記のインタビュー記事に書いてあり、ちゃんと宮沢賢治履修しておけばもっとニヤリできたなあと思った。

桜山神社の攻めたおみくじ(隣のカメはジョジョ第五部のココジャンボ)

盛岡市中の橋の羅針盤→岩手銀行→櫻山神社のコンボで陸の王者慶應を、盛岡市中の橋の雰囲気を感じに慶應義塾に、八角塔にお越しください!


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