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書籍解説No. 7「闇の子供たち」

こんにちは。Masa_Jordanです。

最近のnoteでは、毎週土曜日に「書籍解説」を更新しています。
日々の読書で得られた有益でタメになる情報をまとめていますので、ご覧いただければ幸いです。

前回の書籍解説はこちらからお願いいたします。


第7弾の今回は「闇の子供たち (梁石日)」です。

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本作のテーマは「タイを舞台にした幼児売買、臓器売買。それと戦う者たち」です。

もしかすると、本作を取り上げることにネガティブな反応を示す人がいるかもしれません。本書あるいは映画のレビューを見てみると、著者が在日朝鮮人という理由から「これは日本の価値を陥れるためのものだ」と真っ向から否定する意見も散見されます。

実際、この作品はフィクションだといわれており、文中で描かれるような臓器売買に日本が関与しているかどうかは私自身も判断しかねます。
しかし、現代の奴隷とも形容できるような女性や幼児の人身取引は今もなお世界各地で横行されており、そこには日本をはじめとした富裕な国の人間も関与しています。

私は大学在学中、タイ北部のパヤオ県を訪れました。
「パヤオセンター」という、人身取引の被害に遭う恐れのある(生活苦から両親に売られる危険がある)子どもの保護施設を訪問するためです。
タイ国内は貧富の格差が著しく、とりわけ北部・東北部ではそれが顕著に現れています。その様子は、首都バンコクの煌びやかさから想像もつかないほどです。
タイの目覚ましい経済発展から取り残された同地域では、農業をはじめとした第一次産業で従事する人が多く、更にはミャンマーやラオスとの国境付近にある山岳地帯では国籍を有していない人も少なくないため、人身取引業者やマフィアにとって格好の標的とされていました。

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そこで取り引きされた子どもや女性は、首都バンコクやパタヤなど国内有数の大都市に送られますが、なかには国外に売られる人もいます。その先の一つが日本なのです。

私はパヤオを訪れたとき、かつて日本の性風俗店で働かされていたという女性から話を聞くことができました。彼女たちが涙ながらに語ってくれた壮絶な体験は、本書に描かれる内容とリンクする部分もありました。

詳細に関しては、過去の記事でまとめていますのでご覧ください。

本作に関して賛否両論の意見があることは承知していますが、日本も密接に関与している深刻な社会問題の一端を見てきた身として、満を持して取り上げることにしました。

ネタバレにならないよう、ここでは「主な登場人物とその略歴」「あらすじ」のみを解説していきます。

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【主な登場人物】

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【D村 (タイ北部の街「チェンマイ」から120km離れた山岳地帯)】
●ヤイルーン
(長女・10歳) 2年前、両親によって売られた。
●センラー(次女・8歳) ヤイルーンに続いて、売られようとしている。
●ワンパオ、ムオイ夫婦 貧しい村に住むが、ヤイルーンを売って得た金で冷蔵庫やテレビといった家電を買い揃えた。今度は、次女のセンラーを売ろうとしている。
【ホテル・プチ・ガトー (首都バンコクにあるペドファイル(幼児性愛者)向けの売春宿】
●チューン(マフィアの手先) かつてD村を訪れ、ヤイルーンを買った。今は、センラーを買うために彼女の両親と交渉している。
●ダーラニー(子どもの監視役) 
●ソムキャット(マフィアのボス) 
【社会福祉センター (NGO団体)】
●ナパポーン
(所長) ストリートチルドレンや売買春を含む児童労働によって搾取されている子どもを保護し、職業訓練などを行っている。
●音羽恵子(スタッフの一人) 3年前、日本のNGO団体から派遣されてきた。
●南部浩行(記者) 音羽恵子の大学時代の先輩で、タイで取材活動をしている。
●梶川克仁・みね子夫婦 翼を救うため、臓器提供を求めている。
●梶川翼 難病を抱え、余命は長くないだろうと宣告されている。

【あらすじ】

一人の男が、舗装されていないでこぼこ道で車を走らせていた。その男が向かっていた先はタイ北部の街チェンマイから120、30kmも離れた山岳地帯だった。

このチューンという男は、2年前にも同じ道を走っていた。ある一家の女の子(ヤイルーン)を買うためにである。
そして、その女の子を売った両親から「今度は妹(センラー)を働きに出したい」という連絡を受け、急遽バンコクからD村へと向かうことになったのだ。

チューンはD村に着いて間もなくワンパオ・ムオイ夫婦の家に上がり、妹を引き渡す交渉を始めた。
今、両親によって売られようとしているセンラーは、2年前にヤイルーンが突然いなくなった事情を察していた。そのため、チューンが自分たちの家に再び現れたとき、今度は自分の番だとわかった。

交渉がまとまり、父親から「早く行くんだ」といわれ背中を押されるが、チューンの車に乗り込むまでの間、自分を売った両親の姿を何度も振り返って見た。
車に乗り込むとセンラーは、この現実を受け止められず泣き出してしまう。すると今まで優しく微笑みかけていたチューンが豹変し、センラーを殴打する。それでも泣き止まないセンラーに苛立ったチューンは煙草を押し付け、「騒ぎ立てたら殺す」と脅しつけ、帰路を急いだ。

いくつかの検問を賄賂でくぐり抜けながらたどり着いた先は、「ペドファイル(幼児性愛者)」の間で話題の売春宿だった。そこでは、学齢期の子どもが監禁され、海外から来る旅行者の性欲を満たすための奴隷にされていたのだった。

両親の手によって売られたセンラーは、ここで地獄のような日々を送ることになる。
そして、2年前にバンコクへ送られた長女ヤイルーンは、今どこで何をしているのか。
いたいけな子どもたちを救う手立てはあるのか。
人間は自身の欲望を満たすためにどれだけ冷酷になれるのか。
善とは。悪とは。

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【まとめ】

冒頭で述べたように、本作「闇の子供たち」はフィクションといわれていますが、この「人身取引」という問題は世界各地で今なお横行されています。

本作ではタイ国内での人身取引について綴られていますが、この問題は国境を越え、膨大なネットワークの下で行われています。
タイをはじめとしたアジア地域に住む人のなかには、故郷で暮らす家族を養うために一縷の望みをかけて海外に渡る人がいます。ブローカー(仲介者)からは当初、渡航先ではレストランやバーのような店で働けるといわれていたが、その国に着くや否やパスポートや有り金を没収され、性風俗店などで客をとらされるケースもあります。
監禁状態で労働を強いられる「奴隷労働」が今なお、しかも先進国でも横行しているのです。

もちろん、歓楽街で働くすべての外国人が騙されて連れてこられ、労働を強いられているとは限りません。お金を稼ぐために、自らその仕事を選ぶ人もいます。
しかし、働き先が性風俗店だと知らずに「お金が稼げるいい仕事がある」と甘言で釣られていたり、家族の手によって売られる人もいます。たとえ、後でその事実に気付いたとしても既に手遅れで、そこから逃げ出すことはできずに搾取され続けてしまうのです。

ある子どもは突如として行方不明になり、ある子どもは自らの意に反して生みの親から売られてしまいます。そして、彼ら彼女らの行方が突き止められることはほとんどなく、社会的に抹殺され、この世に存在しないも同然となります。
私たちの目の届かない場所では、声を挙げることも許されない絶望的な環境で奴隷のように扱われている子ども、女性、外国人は間違いなく存在しているのです。

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