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京阪 くずはモール「SANZEN-HIROBA」の5000系を見てきました

大阪〜京都間を結ぶ京阪電車において、ちょうど中間地点に位置する樟葉駅隣接のショッピングモール「くずはモール」。

くずはモールには以前より、かつて京阪特急の看板車両として活躍していた特急電車である初代3000系車両を保存・展示するスペースとして「SANZEN-HIROBA」が設置されていましたが、去る2023年4月21日に同施設がリニューアルオープンし、新たな展示車両として、側面に五つの扉を備えたラッシュ特化の通勤電車、5000系が加わりました。

5551号車の概略

1960年代、京阪は急速に進行する守口市駅以東の宅地化による乗車率の急激な増加と混雑の激化、それに伴って常態化する列車の遅延に悩まされていました。今でこそ京橋〜萱島(寝屋川信号所)間の複々線を使用しての円滑な遠近分離や緩急接続が可能であったり、最大で8両編成の列車を運行するための設備が備わっている京阪本線ですが、'60年代当時、複々線区間はまだ守口市駅まで、架線電圧も600Vしかなく、最長でも7両編成までしか運行できませんでした。
複々線区間の延伸や、架線電圧を1500Vへ昇圧し、車両の出力アップによる速度向上や運転効率化、および8両運転を可能とする路線の改修計画は進行していたものの、これらの改修を全て達成するには巨額の費用と長期間の工期を要する見通しでした。さりとて京阪本線の混雑は路線の設備改修を待てる状況になく、これに対応するための即効薬的な装備をもった車両を必要とする時が来ていました。

このような状況に対応するために設計されたのが5000系という電車です。

京阪5000系 トップナンバーの5551-⑦-5601 引退直前の頃 (2021年5月撮影)
トップナンバーの5551-⑦-5601
引退直前の頃
(2021年5月撮影)

冒頭で説明したように、5000系は側面に五つの扉を備えた多扉車です。京阪一般車のドア数は通常3箇所ですが、それに加えて乗降口を2箇所増やすことにより、旅客の乗降をスムーズにすることが目的とされました。

加えて5000系は内装にも特殊な機構が備えられていました。それが座席の昇降機能です。

5000系はラッシュ時の最混雑列車に充てることを念頭に入れて設計された車両であり、そのための5扉ではありましたが、扉の数を増やすということは座席の数が減ることと同義であり、閑散時間帯の列車に座席定員が少ない車両を投入することは、サービスの低下に直結してしまいます。これに対応すべく、5000系を混雑時と閑散時、両方の時間帯で使用できるよう、5箇所中2箇所の扉に昇降式の座席が設置されました。この2箇所の扉はラッシュ用ドアと呼称され、ラッシュ時間帯は座席を天井付近に格納して5箇所全ての扉を開閉。閑散時はラッシュ用ドアを閉鎖して格納していた座席を下降、展開するというような運用がとられていました。

車両1両あたりに通常よりも多くの扉を設けるという発想はその後関東にも広まり、JR東日本の山手線に導入された205系のサハ204形を始め、京浜東北線の209系、中央・総武緩行線やE231系0番代、山手線の205系の後継車として造られたE231系500番代、東急田園都市線の5000系といった中間の6扉車、営団地下鉄(現:東京メトロ)日比谷線の03系や、同線に直通する東武20050系といった5扉車などが後に続きましたが、京阪の5000系は言わばその先駆けであり、また編成中の全車両が多扉車であるということや、閑散時間帯の使用に備えた座席の昇降機能といった特徴は、後発の車両には無いものでした。

京阪5000系は1970年の暮れに第1編成がデビュー。その後1980年までに合計で7本が製造されています。

少数形式でありながらも10年という長期間に渡って造られた経緯から、製造年次によって多数のマイナーチェンジが行われ、外観のバリエーションも多岐に渡ります。

今回、SANZEN-HIROBAへ搬入された5551号車は、晩年の時点ではトップナンバーである5551-⑦-5601の京都方に据えられた先頭車両でした。

もともと5000系の第1編成は4両編成と3両編成を組み合わせた分割7両編成であり、製造当初、5551号車は4連側の京都方先頭車でした。
5000系は、1998年より第3編成を皮切りとして更新工事の施工が開始されます。第1編成は1999年に実施され、更新に際して7両貫通固定編成化されています。貫通編成化にあたり、それまで事実上の中間封じ込め扱いであった京都方から数えて3両目の5601号車と4両目の5551号車を編成の先頭に据えるよう変更し、それまでの先頭車であった5001号車(京都方から1両目)と5651号車(京都方から7両目)は運転台を撤去して中間車化され、車号も改番されました。

原型時代の第1編成に見られた大きな特徴として、標識灯の形状が第2編成以降と異なる点も挙げられます。第2編成以降は初代3000系と同じ角形2灯タイプの標識灯が装備されましたが、第1編成は2400系原型時と同様の尾灯兼用1灯タイプを装備しています。ちなみに第2編成も第1編成と同様に京都方から3+4の分割編成とされ、第3編成以降は製造時より7両固定編成で製造されています。
また1976年竣工の第5編成より貫通扉の種別・行先表示器を製造時点より搭載するようになり、既存の第1-第4編成にも1989年ごろ追加で設置されています。なお'89年の表示機追設で対象となったのは当時の先頭車、すなわち5001号車と5651号車であり、営業運転において先頭に出る機会が全く無くなっていた5601号車と5551号車についてはこのタイミングでは設置されず、同2両については1999年に実施された更新工事において種別・行先表示機が設置されています。加えてこの更新工事では、標識灯も8000系の物に類似したLEDタイプに変更されています。
京阪電鉄は、2008年より新たな京阪ブランド確立のためのイメージ改革の一環として、既存車両のカラーリングの変更を開始します。5000系では同年中に第7編成のカラーリングが変更されたのを皮切りに、順次、新塗装化が進行。第1編成は2011年8月に新塗装化され、晩年見られたスタイルがここに完成します。

他の車両とは異なる特殊な装備をいかんなく活用し、ラッシュ時において高すぎる混雑率を叩き出す列車に対しての切り札として存分に活躍した5000系でしたが、最終的にはその特殊性が引退への大きな要因となります。

2017年に発表された京橋駅へのホームドア整備計画において、他の車両とは扉の位置が大きく異なる5000系を早期に置き換え、一般的な3扉車に置き換えることによってホームドアを整備可能な状況を作る方針が決定。2016年に第7編成が廃車されたのを皮切りに、2021年3月までに順次廃車が進行し、同年9月に最後まで活躍した第1編成が引退しました。

ファンのあいだでは「技術の京阪」と評されることもある京阪電鉄。ラッシュ時とオフピーク時の両面で活躍できる5000系は、その画期的な技術が詰め込まれた結晶とも呼べる電車でした。

2022年の7月の末、5000系という車両を次の世代へと受け継ぐことを目的に、最後まで活躍した第1編成の京都方先頭車である5551号車をデビュー当時の姿に復元し、くずはモールのSANZEN-HIROBAにて初代3000系と共に展示されることが発表されます。

この復元は5000系復刻プロジェクトの名の下に進められました。復元に際しては1999年の更新工事において設置された貫通扉の種別・行先表示器を撤去し、5551の車番と特急板掛けなどを復元し、ヘッドマークステーの位置も変更。スカートや標識灯もデビュー時の形状に、また晩年にLED化されていた前照灯もシールドビームに戻されています。

SANZEN-HIROBAの5551号車

5000系復刻プロジェクトによりデビュー当時の姿に復元された5551号車は、2023年4月21日のSANZEN-HIROBAリニューアルオープンでお披露目されます。

去る4月24日、復元された5551号車を見てきましたので、本日の記事ではその時に撮影した写真をお見せします。

5000系復刻プロジェクトによりデビュー当時の姿に復元され、SANZEN-HIROBAに展示される5551号車
5000系復刻プロジェクトにより
デビュー当時の姿に復元された5551号車

5551号車の車内を写したカットです。

1998年より始まった更新工事では内装が9000系または7200系に準じたデザインに改められ、化粧板は白色に、座席のモケットは水色に、床板は茶色に変更され、モケットに関しては2014年より13000系に準じたものに交換されていましたが、これらもデビュー時のグリーン濃淡を基調としたデザインに復刻されています。

5551号車のインテリア

デビュー当時に復元された内装 (1)
デビュー当時に復元された内装 (2)
デビュー当時に復元された内装 (3)
手前が通常扉 奥の銀色の扉がラッシュ用ドア
手前が通常扉
奥の銀色の扉がラッシュ用ドア
ラッシュ用ドアに設置されたプレート
ラッシュ用ドアにはプレートが設置されていた

プロジェクションマッピング

リニューアルされたSANZEN-HIROBAではプロジェクションマッピングにより、エモを引き立たせる演出があります。

プロジェクションマッピングにより幻想的な光に照らされる5551号車

感動的なのは5000系復刻プロジェクトのムービーを車体側面に浮かべる演出で、5000系が歩んできた道のりや沿線風景、引退時に掲出していたヘッドマーク、プロジェクトのロゴマークが映し出されます。

側面に5000系復刻プロジェクトのムービーが映し出される (1)
側面に5000系復刻プロジェクトのムービーが映し出される (2)
側面に5000系復刻プロジェクトのムービーが映し出される (3)
側面に5000系復刻プロジェクトのムービーが映し出される (4)
側面に5000系復刻プロジェクトのムービーが映し出される (5)
側面に5000系復刻プロジェクトのムービーが映し出される (6)
側面に5000系復刻プロジェクトのムービーが映し出される (7)

SANZEN-HIROBAのリニューアルオープンに際しては2600系の前頭部も新たに展示されています。

この前頭部は2600系のトップナンバーにあたり、晩年の組成で言うところの2601-⑦-2819の京都方先頭車として活躍していた車両で、2021年9月頃に運用離脱。翌'22年8月に寝屋川車庫へと移送され、SANZEN-HIROBAでの展示に際し、カラーリングを濃淡グリーンのいわゆる京阪旧塗装に復元。前照灯も晩年のLEDタイプの物からシールドビームに戻され、車番も黒文字のステッカーから鉄製の切り抜き文字に復元されています。

2600系カットモデルと初代3000系3505号車

2014年のオープン時より展示されている初代3000系のカットも。

特に5000系復刻プロジェクトのムービーを映し出すプロジェクションマッピングは必見です。

5000系5551号車が佇むリニューアルされたSANZEN-HIROBAに一度訪れてみてはいかがでしょうか。

撮影日

2023年4月24日

使用機材

FUJIFILM X-T3
XF16-80mmF4 R OIS WR

参考

駅ホームの安全性の向上に、ハード、ソフト両面から努めます(平成29年3月30日付 京阪電鉄社公式プレスリリース)

5000 系車両を KUZUHA MALL の SANZEN-HIROBA に復刻展示します(令和4年7月28日付 京阪電鉄社公式プレスリリース)

公式サイト

5000系復刻プロジェクト|SANZEN-HIROBA|京阪電気鉄道株式会社

SANZEN-HIROBA|京阪電気鉄道株式会社

京阪電鉄社公式アカウントによるツイート

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