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サンタクロース症候群

学生の頃、今持っている全てを捨て、ここではないどこか遠い場所に行ってしまいたいとずっと思っていた。

どこでもいいから、

誰もわたしのことを知らない、わたしも誰のことも知らない場所に行ってしまいたい。

そう思っていた。

まだ見も、存在するのかすらもわからない、
その世界のことを考えていた。

当たり前に健康な身体と恵まれた環境を持ってなお、ずっと何かを求めていた。

何かわからない何か。

今ではもう見ていたあの情景すらも掠れてしまった。


あの頃のわたしはこの世界が嫌いだった。

何もかもが嫌いで全て消えてなくなってしまえばいいと思っていた。

あのビルもあの家も。

あの山もこの空も。

あの人もこの人も。

私自身も。


そんな自分をここにいてはいけない、異物のように感じていた。


あてもなく飛び乗った行き先と逆方向に向かう電車。

勇気を振り絞り途中で降りた、
なんだか気になる駅名を掲げたあの街。

それは思い描いていたものとはかけ離れていた。


得体の知れない虚無感と喪失感に包まれた。

私はあの場所に何を求めていたのだろうか。

あの踏み出した一歩で求めていた何かが手に入るような気がしていた。

全てが救われるような気がした。

根拠もなく。


何かなんてどこにもなかった。

私が追いかけ続けていた『何か』はなんだったのか。

答えが見つけられないものもあることを知った。


わたしはわたしが嫌いだった。

どうしようもなく嫌いだった。

心と身体を切り離したかった。


切り離したところで、わたしが嫌いなわたしの部分はどちらにあったのだろう。


20年生きてきてよく耳にした
人はみんな平等、は嘘だし、
バチが当たるのバチ、は存在しないのだろう。

裏切らない絶対ばかりじゃないし、
ずっと続く永遠もないのだ。

信じていたものが存在しない。

見たこともないものを信じていたこと。

あの頃のサンタクロースのような。

きらきらした夢のような存在しないもの。

信じたかったのに信じられなくなったもの。

サンタクロース症候群。


大抵のこの世の真実なんて
空虚でつまらないものだ。


それを知ることが「大人になる」ことなのかもしれない。


#小説  #短編小説 #エッセイ #コラム #日記

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