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眠れない夏の夜に

 皮膚にへばりつくようななまぬるい風が、草木を心地よく揺らす風に変わったような気がした。人々の熱気とともに、夏は音速で過ぎていったのだ。

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 成就した恋ほど語るに値しないものはない、というとある学生の言葉があるが、あれは本当にそう。幸せな結末ほどつまらないものはないし、過ぎ去った季節には誰も興味がない。ハッピーエンドはハッピーエンド以外の何者でもない。人は皆、心のどっかで、自分に被害のない大惨事が起こるのを待っている。

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 気が付くと夏はもう終わりかけていて、あんなに近かった空さえ、少しだけ遠ざかったような気がする。「秋隣り」という言葉があるらしい、ディスクジョッキーがラジオで言ってた。夏の終わりかけ、秋が近いと感じられる時期のことだって。


 夏休みの宿題を1日で終わらせるような、夏限定で無限に湧き出ていたあの頃のようなスタミナはもうない。夏のログインボーナスを受け取るのがやっとで、夏イベ周回するほどの時間も体力もない。冷房の効いた部屋でコーヒーを飲みながらパソコンをカタカタするだけの夏。皮肉なことに、毎日「宿題」だけは湧き出てくるのだ、これは夏が終わってもずっとだけれど。

 あまりにも書くことが無くて、1行書いては10分ほどSNSの自分の投稿を眺めるということを繰り返している。
 振り返れば振り返るほど、写真の中にしか残らなくなってしまった夏を虚しく思わずにはいられない。

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