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クリスタル カスケードの『キセキ』

日本では昨日、緊急事態宣言が出たそうですね。オーストラリアのニュースでも伝えられました。海外で言うロックダウンほどではないと思いますが、外出自粛要請が法律のもと行われたと理解しています。外出ができずに自粛疲れしている人に少しでもハピネスを届けられればと思いこの記事を書きました。テレワークの合間の休憩にぜひ読んでみてください。

これは僕とイギリス人の友達が体験した『キセキ』の物語です。

夏草が生い茂るままに立ち枯れるほどの暑さの日。
僕と留学先の仲間たちは、オーストラリアはケアンズ市街地から車を20分ほど走らせた場所にある後に『キセキ』を生んだ渓谷、クリスタル カスケードへと向かっていた。

男だけでのドライブでは息が詰まりそうなので、女の子も含めた8人で目的地へと車を走らせる。
車中のどんちゃん騒ぎが一通り終わる頃には目的地へと着いていた。

滝壺へと落ちていく水は、真夏の降り注ぐ太陽の光を含みスノーパウダーの如く光り輝いていた。その光景に目を奪われていると「クリスタルカスケードの醍醐味は崖から滝壺へと飛び込むこと」だと、爽やかな笑顔でイギリス人のマイキーが教えてくれた。

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早速飛び込むと、かなりの衝撃が体にはしる。
想像を遥かに超えた衝撃を感じながら、濡れた髪をかきあげる。

ふと周りを見渡すと、きわきわの水着を着た、日本風で言うとギャルたちの水遊びが目に入った。
飛び込んだときの痛みもすっかり忘れ、あの衝撃ときわきわの水着を交互に脳内再生しているとある邪な考えが頭をよぎった。そうだ、マイキーも仲間に引き入れようと彼の方を見ると

わかってるわかってる。みなまで言うな

と顔が語っていた。同じことを考えていることを悟った僕らは、お互いに何の言葉も発さずに、そっと滝壺がよく見えるポイントへと移動した。
僕はオーストラリアへ英語を学びにきているが、この時ほど言葉はいらないと思ったことはない。

何人のギャルたちが飛び込むのを見ていたのだろう。僕らは水に浸かりながら訪れるであろうその時を待っていた。
時には飛び込む人へ「ヒューヒュー」とエールを送り、時には「どうだった?」と話しかけ、『キセキ』を待った。
おそらく飛び込むギャル達も僕らの目的には気付いていただろう。飛び込んだあと必ずといっていいほど水着を抑えながら水から上がっている。

ただ、全く問題ない。

ほんとんど出会いが一期一会なのだから。
そんなことよりも『キセキ』がみたい。
そう思いながら、待つこと2時間。
いくら夏とは言え、水に2時間も浸かっていれば、僕らの体はシワクチャになる。
寒さも加わり、自然と腕が内側へいき、手を合わせ指を組んでいた。
側から見れば僕ら2人は、まるで教会で祈っている人のようだったと思う。
とうとう神は僕らには微笑まなかった。

心と体に限界が来て、渋々水から上がり、マイキーとお互いの健闘をたたえながらアツい握手をしていたところに、同じシェアハウスに住んでいる、金髪色白で驚くほど美人なイギリス人の女の子が僕らに歩み寄ってきた。

「もう帰るよ」

その言葉で僕は顔を上げる。

神はいた!

彼女の水着はその役割を半分しか担っていなかった。
その時、はじめて気づいた。僕らは2時間もの間、水の中で祈っていたのではなく、懺悔していたのだと。
長い長い苦行のご褒美に神様が、仏様が僕らの目の前にご褒美を運んできてくれたのだと。
彼女の水着のサボタージュに「わかる。お前も長時間疲れたよな。ゆっくりサボれ」と思いつつ、この『キセキ』を共に戦ってきた戦友のマイキーへ伝えるべく、彼の方を見ると彼は

わかってるわかってる。みなまで言うな

と言いたげな顔でニヤニヤいや、失礼。ニコニコしながら、僕を見ていた。

もう一度言うが、僕は英語が学びたくてオーストラリアへ留学してきた。
でもこの瞬間もやはり言葉はいらなかった。

「あー、やっぱりエロに言葉はいらないな」

僕の日本語での呟きは、オーストラリアの『キセキ』の渓谷、クリスタルカスケードの滝壺へとゆっくりと吸い込まれていった。

(完)

最後にクリスタルカスケードを訪れる女性の皆さん、気を付けてください笑

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