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【ミステリーレビュー】六人の超音波科学者/森博嗣(2001)

六人の超音波科学者/森博嗣

瀬在丸紅子と阿漕荘の面々による森博嗣の"V"シリーズ第七弾。


内容紹介


閉ざされた研究所 発見される死体

土井超音波研究所、山中深くに位置し橋によってのみ外界と接する、隔絶された場所。
所内で開かれたパーティに紅子と阿漕荘の面々が出席中、死体が発見される。
爆破予告を警察に送った何者かは橋を爆破、現場は完全な陸の孤島と化す。
真相究明に乗り出す紅子の怜悧な論理。
美しいロジック溢れる推理長編。


解説/感想(ネタバレなし)


森博嗣にしては、捻りのない主題だなと思ったものの、英語タイトルは「Six Supersonic Scientists」。
しっかり"S"で揃えてきている。

橋が爆破され、クローズドサークルとなった館。
無響室に閉じ込められる紅子や錬無。
仮面の博士と、頭と手首がない死体。
本格ミステリー的な様式美が詰め込まれているうえ、天才科学者たちとの対峙はS&Mシリーズを彷彿とさせる。
この雰囲気にワクワクしたのは、僕だけではないはずだ。

これまでの数作で保呂草が前線に出て活躍した反動か、本作では彼の出番は控えめとなった印象。
その代わり、7作目にしてようやく紅子の科学者としての顔がクローズアップされた形。
探偵としても、科学者としても、鮮やかなロジックが冴え渡っている。
また、そうなると出番が増えるのが、林を巡るライバルである七夏。
犯罪者に立ち向かうというベクトルは共通していながら火と油の関係にある彼女たちが、一癖ある科学者たちや施設と対峙していく構図であった。

キャラクター小説として成熟しつつある中で、森博嗣の代名詞でもある理系ミステリィの切れ味が復活。
しかも科学者は6人もいるという選り取り見取り。
もう少し科学者たちの個性が際立っていれば文句なしであったが、意外な伏兵が真犯人であった実績も十分なシリーズ作品。
読者を悩ませるには十分だったのでは。


総評(ネタバレ注意)


S&Mシリーズと比較するのであれば、誰が萌絵の役回りになるのか、というのが気になるのだが、ここは練無に軍配が上がった。
やはり、本作においてヒロインは紅子や紫子ではなく、練無なのだろう。
もっとも、S&Mシリーズとは異なり主人公格が多いVシリーズ。
衝撃を大きくしたいのであれば練無退場もなくはないだけに、ご都合主義で助かるんでしょ、と安心できない肝が冷える感覚があった。
保呂草がいるせいでハードボイルドな展開はVシリーズのほうが多いはずなのだが、死線をくぐってきているのは萌絵であり、練無であるというのが面白い。

本作については、誰が連続殺人を企んでいたかというフーダニットと見るか、頭と手首を切り取った意図を探るホワイダニットと見るかで、難易度が変わったのではなかろうか。
前者であれば、真犯人はややアンフェアということになる。
誰が犯人だろう、と考えてしまった時点で作者の手のひらの上と言えるかもしれない。
一方で、後者であれば、比較的容易に辿り着ける気がしないでもない。
何せ、病気で喋ることができず、モールス信号で会話する仮面の博士だ。
ベタすぎてあっさり気が付いてしまいそうだが、連続殺人の二人目にしたことで、その選択肢を曖昧に。
先にフーダニットだと思い込ませる手口が巧妙すぎた。

次作にあたる「捩れ屋敷の利鈍」では、西之園萌絵が登場するとのこと。
理系ミステリィへの回帰は、そこに繋げるための伏線という狙いもあったのだろうか。
10作+7作となったが、まだまだ飽きがこない、同じパターンがこない引き出しの豊富さ。
更には、終盤に突入するにあたり盛り上がりを作り出す演出もあって、この群像劇がどこに着地するのか、残り3冊を読むのが待ちきれない気持ちと、なんだか惜しくてまだ読みたくない気持ちが交錯している。

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