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強豪校で落ちこぼれとして過ごした高校時代

高校生時代を思い出したのでここに綴る。

濃い青春を過ごしてしまったので少し自慢話に聞こえてしまう所もあるかもしれない。

「自分の自慢話や得意な事は人から聞かれるまで言わない美学」という信念を持とうと日々奮闘しているが、結果が伴う過程で自分なりにしんどい目にも遭っているのでこればかりは例外としたい。

強豪校の内情

以前ちらっと書いたように私はそこそこ厳しい吹奏楽部に所属していた。

練習は朝練昼練夜練とあり、朝7時30分には基礎合奏が始まる。
昼練に出るため昼飯は授業の間の5分休憩で胃の中に何とか掻き込む。
早弁しているだけで他の部活の生徒から吹奏楽部と認知される学校生活だった。
夜は早くとも毎日21時までは練習があり、遅くなる日は終電ギリギリまで残って練習していた。時折不良高校生と間違われて補導された部員も居た。

土日祝日も勿論休みなく活動していた。朝7時30分には活動が始まり平日同様終電になる日もあった。

部室では、ほぼ毎日顧問や上級生からの叱咤激励が飛び交う熱い空間だった。実際中に居る時は環境に慣れて特に何も感じなかったが
私の両親が公開練習を見に来た際の感想は「社会人でやったらパワハラで訴えられるレベル」だそうだ。
振り返ってみると確かにそんな気もする。

限られた枠の中で争う夏の大会

部員数はほぼ100人。公立高校にしては規模が桁違いの人数だったと思う。
その中から55人が夏の大会に出られる。

約半分は大会に出られない計算だが、厳しい練習の中で毎年かなりの部員が辞めていくので2年生以上はほぼ全員出場する事が出来た。

私の学年も例外ではなく、同級生の3分の1は学年を越す前に部内から消えていた。

私はその中で何とか生き残った1人だった。

上級生から順に出場し1年生は必然的に大会に出させない学校も多いらしいが、上述のような環境だった母校では顧問がオーディションを行い大会メンバーを決めていた。

そのため、ぽっと出の才能ある新入生が自分の代わりに大会に出る事もざらにある。
運動部だとよく聞く話だが吹奏楽部でこの制度は私の周りの友達から聞いたことがなかった。

大会に出場すると支部大会までは確実に出られる。
それだけの実績があれば周囲に威張る事が出来るだろうという安直かつ不純な動機で私はオーディションに向けた練習に励んでいた。

1年生の時は補欠メンバーだった。
自分の力量を理解していなかった新入生なりに「もしかして私に音楽の才能があったら出れるかも!」と甘い考えを持っていたが「お前は天才ではない」という烙印を押されてしまいほんの少し残念に思った。
だが、当時は同期もほぼ全員補欠だったのでそこまで問題視していなかった。

落ちこぼれの烙印を押されたオーディション

2年生になった私は「今年こそは大会に出るぞ」とそれまでの練習の成果を発揮すべく通常朝練が開始する少し前の時間から練習することにした。

朝7時


社会人目線から考えてもそれなりに早い時間だったがその時間には半分程の部員は練習していた。彼らは皆部内でも上手な生徒だ。

やっぱ上手い人は朝早く来て練習してるんだなぁと新しい事実を知った。

オーディションは担当楽器毎に行われる。

オーディションを終えた同級生から次々に「今年は出られる」という報告を相次いで聞いた。

中には7時からの朝練に参加していなかった部員も合格していたので、彼女より練習していた私は受かる自信があった。

しかし、私は大会メンバーに選ばれなかった。

同級生とのイス取り争いで負けてしまったのだ。

「自分は天才ではない」という烙印を押された1年後
同級生がほぼ全員出場できる大会にすら出場出来ない「自分は落ちこぼれである」という烙印が新たに押されてしまった。

この事実を受け入れたくなくオーディション終了後、顧問に話を聞きに行った。

「お、来たか」

どうやら私がここに来ることが分かっていたらしい。流石長年生徒を全国大会まで導いてきたベテラン顧問である。

「言いたいことはわかる。お前なりに最近頑張って練習してるのは知っていた。だが、それを知った上で敢えて落とした。
お前は正直言って今1番下手だしそれまでの実績も何も無い。いくら練習しても結果が結びつかないと意味が無いんだよ。」

傷口に毒を塗ってくる正論を言われてしまい、人生で初めての挫折を味わった。

まだ高校生で素直だった私は顧問に尋ねた。

「どうやったら結果は出るんですか?」

「そういった生徒が上の奴らに勝てるのは練習量だけだ。後は自分で考えろ。」

翌日、私は始発で学校に向かった。

朝5時50分


まだ空いていない校門の前で数人の生徒が譜読みをしていた。

全員が部内でトップの上手さを誇る部員だった。中には県から表彰されて楽器を贈呈された生徒も混じっている。

昨日の事でかなり落ち込んでいたが、この時間から練習したら私に勝ち筋があるのでは?と少しの希望が見えた気もした。

しかし、1つ問題があった。

その場に居る他の部員は少しの基礎練を終えて大会に向けた曲を練習していたが

私は大会に出ないのでやることが無い。
基礎練ばかりも飽きてしまうので気が乗らなかった。

だが、真剣に練習する部員たちの中でサボる訳にはいかない。

仕方なくその日は基礎練を2時間行い朝練を終えた。

時間を犠牲にし、下克上を目指す

私の高校では楽器ごとにプロの外部講師が着いていた。

私は「ガッハッハッ」とよく笑う恰幅が良い先生に教えて貰っていた。部活終わり、たまに近所のもやしが大量に入ったラーメン奢ってくれる気前のいい先生だ。

早速オーディションに落ちた事と練習内容に困っている旨を先生に伝えた。

「おぉ、やっぱ落ちたか。ガッハッハッ。」

いつもの様に笑われてしまった。
当時持っていた高すぎる自尊心が「落ちると予想されていたこと」によって傷付けられたので、
大会直前には朝練に早く来て練習していた旨を伝えた。

「大会直前だけの練習なんて付け焼き刃だろ。それは言い訳だ。」

一蹴されてしまった。

「少しの頑張りを大袈裟に言うんじゃない。お前はテスト前だけの勉強で受験に受かるようなタイプじゃなかったってだけの話だ。そこは認めろ。」

確かにその通りだ。毎日の目まぐるしい日々の中で自分が不器用な事を忘れてしまっていた。

「だが、落ちてから毎日始発で練習してるのは良い事だからそのまま続けろ。」

そう言って、キツめの基礎練を教えてくれた。

「先生、こんなの出来ないですよ。」

勿論私はボヤいた。

「時間は有り余ってるんだからそれだけ練習しとけ。」

「でも、同期の大会メンバーだってミスなく出来ない譜面ですよ?やる必要ありますか?」

「お前は進学校に通ってるのに馬鹿だなぁ。皆ができない事をやろうとしなくてお前みたいなのが上達する訳ないだろ。他の人が出来ない事を出来るようにならないと大会に出られないって理解しろ。」

とても正論である。

「数やれば出来るようになるから安心しろ。お前の先輩達も皆そうしてきた。
お前が今持ってる音楽の通知表はオール1だがそれだけ一点集中で練習したら一つだけ5にする事が出来る。それを何度も繰り返して5の項目を増やせば追いつける。」

「はぁ…ならやってみます。」

当時の私はデフォルトで虚勢を張ってイキリ散らかしていたのでとても態度が悪い。こんなに有難い教えを貰ってこの態度の私を過去に戻れるならぶん殴りたい。

こんな私を見捨てない熱い想いを持った先生はさらに私をこう鼓舞する。

「じゃぁ今年の大会が終わるまでに再オーディションしてもらって下克上しろよ。」

「は!?無理ですよそんなこと!前例がないじゃないですか。」

すかさず「無理」という言葉が口をついて出た。日頃虚勢しか張っていなかったから自分に自信がなかったのだ。

そんな私に対しても先生はさらに前向きな言葉を掛けてくれる。

「バカヤロウ!皆ができない事をやろうとしなくてお前みたいなのが上達する訳ないってさっき言ったばかりだろ。お前が上達したら顧問に俺から再オーディション頼んでやるから後は努力しろ!」

ここまで言われたら普通引き下がるだろうが虚勢しかない私はさらに食い下がる。

「でも、自分がそんな短期間でそこまで上達出来るなんて信じられないです。」

「お前はでもでもだってだってずっと言ってるな。そういう所が音楽にも現れるから今すぐそこを直せ!自分を信じなくてもいいからとにかく練習したら報われる!」

こうして次の日からの朝練メニューが変わった。

この時の先生の言葉は割と自分の中の教訓になっている事もあって詳細に覚えている。
日々の練習はしんどかったが恩師には感謝してもしきれない。

やがて夏休みになり、毎日始発から終電まで部活漬けの日々を過ごす事になったが相変わらず私は基礎練しかやっていなかった。

いい加減飽きていたが「信じれなくても練習しろ」という言葉に加えて後に加えられた「飽きてもやれ」という言葉に鼓舞された私は何とか踏ん張った。

高校生とは正直で残酷なものであり、大会メンバーの同期から「君って何でそんなに練習してるのに下手なの?」と悪意ない感想を貰ったこともあるが「まぁ練習量は認められているから良しとする」と自己解決して「何故だろうねぇ?」と流した。
ほんの少しだけメンタルも強くなっていたらしい。

いつの間にか最初に出来なかった事ができるようになり音楽の世界での通知表でポツポツ5が出始めた。

大会1週間前

楽器の先生がこう言った。
「お前、そろそろオーディション受けろ。」

努力が報われたと思った。

「今すぐお前から再オーディションの直談判しに行け。」

「え!?先生から顧問に言っといてくれる話はどうしたんですか?」

理不尽に逆ぶりしすぎて思わず反論してしまった。

「お前が上達している事は顧問に伝えるがオーディションの申し込みは自分でやれ。待ってるだけの人間にチャンスはない。」

流石に最初と約束が違うのでは…?とふと思ったが
もはやここで食い下がるのも何だかバカバカしかったので顧問に頼みに行った。

もう、この時期には色々な理不尽は慣れていた。

大会直前であるこのタイミングで補欠の話を聞いてもらえる訳ないだろ、と半ばダメもとで頼んだが時間を作ってもらう事に成功した。

オーディション終了後

「メンバー交替、午後から大会の練習に参加しろ」

受かってしまった。

横に居る同期を見ると苦虫を噛み潰したような表情をしていた。
そりゃぁ下手くそと舐めてかかっていた補欠の奴と大会直前で交替宣告されたら悔しいだろう。

そんな彼に顧問はこう言う。

「お前、合奏中に寝てただろ?少しの綻びが音に現れることを学べ。」

相変わらずこの部活は厳しい正論と現実をぶつけてくる。
「日頃の行いが音に現れる」を体感した出来事だった。

自分の才能の限界を学んだ

結果的に大会に出ることは出来たが、その道のりはあまりにも厳しく
始発から終電まで狂ったように同じ基礎練だけを繰り返す生活は
最初に狙っていた「周囲からの賞賛」という対価には余りに見合わない代償だと高校生なりに世間の厳しさを知った。

部活引退後

音楽に全てを捧げていた反面、授業中は主に睡眠学習をしていた私から楽器を奪ったら何も残らなかった。

学業の学年順位も、入学時は国公立大学を狙えるレベルと言われる位置に居たが
3年生の大会を終えた時点では下から10番以内の順位にまで成り下がっていた。

燃え尽きた灰のようになっていた私に
大学の吹奏楽部ともコネのあった外部講師の先生は吹奏楽強豪大学の推薦状を書いてくれる話を持ってきた。

とても有難い話だったし、藁にもすがる思いでその選択を選ぼうとした。

だが、憔悴した自分の有様を俯瞰して見て我に返った。



私、同じ事を残り4年もできる気がしない。

推薦で入学した生徒は奨学生と同じ扱いを受け、授業料を安く抑えることが出来るらしいが

あくまで部活を継続した場合の話だ。

気の狂うような生活をもうほんの1日でも続けられる自信は私になかった。

途中で仲良くなった他校の音大志望の友達からは「君はその辺の音大生よりも長時間練習している」と言われたこともある。

彼のその一言は、それだけ練習していたら普通は音楽の道に進む事が出来るという事を示していた。

だが私は、県から楽器を贈呈されたり、華々しくソロコンテストで表彰されたことも無い。

これだけ身を粉にして練習しても部員の中ではようやく普通レベルに追いつけたかどうかの私だ。

それどころか、終盤は自分より下の後輩に席次を抜かされかけたりもしていた。

本気で取り組んだからこそ、私に音楽の才能が無いことを痛感してしまったし、そんな希望の無い世界から早く抜け出したいと思っていた。

先生は言う。

「良いのか?お前の今の成績だとせいぜい選べる進路はFランか専門学校だろ?」

「推薦状のお話、本当に有難いんですが
焼き刃の勉強で科目数の少ない私立を一か八かで受けてみます。」

「わかった。お前がその道を選ぶんだったらそうしたら良い。」

綺麗に終わらせられなかった物語

ここで有名私大にでも合格していたら話がとても綺麗にまとまってこのnoteのいいねも沢山着いただろうが

残念ながら不器用な私が部活引退後の勉強で入れたのはギリギリFランから免れたレベルの学校だった。

部活を諦めていった同期達が有名大学に入学する姿を横目に「私も部活を諦めていれば学歴コンプレックスを抱くことなく進学出来たのかなぁ」と時折思うが

実際に受験戦争を戦っていない私が大口叩いてそれを言うのはあまりにも惨めで言い訳がましい。挑戦していない事を「私もやれば出来るんだけどね」と言っている人程なりたくないものはない。

勉強に限らず、自分になし得なかったことを成し遂げた人々へは尊敬の念だけを送ることとする。

厳しい環境で過ごすと、本来自分が厳しい環境の置いた目的や受けたかった恩恵はとても矮小で価値の無いものに思えてくる。

私が言うとひがみに聞こえるかもしれないが、物語のように綺麗に終わる経験が出来るのもひと握りの人間だけである。

だが、落ちこぼれてしまった人間も一生懸命物事に取り組むことでそれなりに学びや経験も時には得ることができる。

一生続けるのは過酷な道なので、その道を選びたい人だけが選べばいいと思う。

諦める選択も、頑張り続ける選択もどちらも正解なんだろう。

綺麗に物語を終わらせられなかった私はそう思う。

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