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演奏旅行のため渡米したら黒人医師に診察された話

学生時代の私は、そこそこの吹奏楽部強豪校に所属していた。

強豪校と言うだけあり練習環境もそこそこ厳しかったと思う。3年間、始発で朝練に向かい終電まで学校に残って練習するその辺のブラック企業も驚きであろう生活を送っていた。
(ちなみに、その後入社したブラック企業では「電車が動く時間に帰れないから」という理由で入社と同時に車を強制的に買わされた。やはりホンモノは違うなぁと感じた所存である。)

その甲斐あってか、3年間頑張った恩恵でアメリカ演奏旅行に招待された。

私は楽器がそこまで上手では無かったので行ったところで楽器の下手さを指摘されて苦労することは目に見えていた。

しかし、うまい話には転がっていきたい貧乏性精神が働き、気が付いたらアメリカ行きの飛行機に飛び乗っていた。

もちろん演奏旅行なので現地で本番に備えた練習時間も取られていた。
自分の演奏の至らない部分もたくさん指摘されて「私みたいな下手なやつが来て良かったのか?」と思いもした。

海外での演奏旅行という半ば浮付いた気持ちで参加していたからか楽団の中から体調不良者がちょこちょこ出てきた。

若干の不穏な空気を感じたが、元気さだけが取り柄だった私は体調不良で休んでいる仲間の分も頑張ろうと前向きに練習に参加していた。

そんな私の気持ちとは裏腹に日に日に脱落者は増えていく。

楽しいアメリカ演奏旅行に来たつもりが、いつの間にか流行り病に怯える日々を過ごすようになっていた。

そして団員の数が3分の2になった段階で

私も流行り病に感染した。

病院にて

朝から熱が出てしまった私が連れてこられたのはカリフォルニア州ロサンゼルス付近の某病院である。

私の前に強面な黒人医師が立ちはだかる。
彼は私にこう質問した。

「How are you?」

朦朧とした意識のまま、義務教育で習った知識を頼りに私はこう答えた。

「I’m fine thank you.」

黒人医師はポカンとした顔で私のほうを見ている。

遅れて到着した通訳ガイドの方が私に教えてくれた。

「"I’m fine thank you."だと、”元気です”という意味になるので…」

なんだって。それは今の私の体調と合っていなさすぎる。

「How are you?」と聞かれたら「I’m fine thank you.」以外なんと答えれば良いのだろうか。その答えを私は学校で教わっていない。

と、日本の学校教育に憤りを感じている間に通訳さんが私の状況を説明して下さりいつの間にか話は進んでいた。

どうやら黒人医師は私が日本から持ち込んだ薬を知りたがっているらしい。

私はカバンに入っていた漢方薬を医師に差し出した。

そして、漢方薬をしばらく眺めた彼はこう言った。


No Kanpo.

”ストップ!薬物乱用” 
みたいなノリで漢方薬を否定されてしまった。

そして私が渡した漢方薬を勢いよくゴミ箱へぶん投げた。


ああああ、私の漢方薬!

「漢方薬の代わりに」とピンク色の錠剤が処方された。

漢方薬よりこの錠剤の方が余程危険な気がしたが、それは日本人の感覚だからなのだろうか。

そして、医師から三色のペットボトルを差し出された。

・ショッキングピンク
・蛍光ブルー
・蛍光黄緑

よくもまぁこんな毒々しい色合いの御三家を揃えたものである。これがアメリカンスタンダードなのか?

通訳さんから「変わった色合いをしてますが、どれもポカリスエットと同じ味なので安心してください。」と助言された。

だったら普通にポカリスエットが飲みたかった。

どれか一つを選んでくれという事だ。

強いて言えば水タイプのポケモンが好きだった私は蛍光ブルーの液体を選んだ。毒タイプも混ざっていそうでとても不安である。



「失われた自信」という問題は解決された気がする

最初は「私みたいな楽器が下手な奴が演奏旅行に来て良かったのか」という不安を抱えていたはずが「この錠剤を呑んで生きて日本に帰ってこれるのか?」という心配に代わっていた。

マズローの法則という欲求分類がある。

この時の私は「社会的欲求」から「生理的欲求」まで2段階も下がっていた。

言い換えると、最初に感じていた不安はもはや消え失せていた。
一旦欲求の質を下げてみるというのも悩みの解消方法の一つかもしれない。

というアホな仮説を病床で組み立てた。


幸い、無事生きて帰国できたので良い思い出にはなった。

もう二度と海外で風邪は引きたくない。


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