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幸せなおじぞう

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#詩

幸せなおじぞう(第5話)

幸せなおじぞう(第5話)

父はお地蔵さんを探してあちこち掘りました。

しかし1年たっても2年たってお地蔵さんは出てきません。

その代わり、堀った後から桃の木が生えてきて

いつのまにかたくさんの実をつけるようになりました。

掘れども掘れどもお地蔵さんは見つからず、

桃の畑のほうはどんどんと広がっていきました。

あたり一帯が津波のように流されていましたから

父一人でやっていたのではなかなかはかどりません。

そこ

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幸せなおじぞう(第4話)

幸せなおじぞう(第4話)

「私の生みの親は、まだ私が物心つかないうち、崖崩れで亡くなりました。

今の育ての父は、そんな身寄りのない私を引き取って育ててくれました。

父は村の人たちと一緒に村の荒れ地を広く耕しで村を豊かにして、

村長として敬われていたんじゃないかと思います。

ええ、確かに(父は)ちょっと変わったところがあったかもしれません。

お地蔵さんの話とか。

自分の頭の中にお地蔵さんが入ってきたっていう、あの

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幸せなおじぞう(第3話)

幸せなおじぞう(第3話)

男が呆然としていると、どこからか小さな泣き声が聞こえてきました。

かすかに聞こえる音を頼りに、がれきを掘り起こしてゆくと、

小さなひとりの赤ちゃんが泣いていました。

赤ちゃんは倒れかけたたんすの隙間に怪我一つなく生きていました。

男がそうっと赤ちゃんを抱き上げ、安全そうな場所へもどってくると、

どうっという音をたてて崖が崩れ、家はすっかり埋まってしまいました。

やがて集まってきた村人た

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幸せなおじぞう(第1話)

幸せなおじぞう(第1話)

むかしあるところに、幸福なお地蔵さんがいました。

金や宝石の飾りはついていませんでしたが

村人たちによく洗ってもらっていたのでいつもきれいでした。

お地蔵さんのそばにはお菓子や果物やお酒などが

いつもお供えされていました。

ある晩、遠い東の果てのほうから、

みすぼらしい身なりをした、鋭い目つきの旅人が村にやってきました。

男はお地蔵さんのお供え物に目をつけると、

くんくん匂いをかい

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幸せなおじぞう(第2話)

幸せなおじぞう(第2話)

男が夢の中でごみだめのような部屋の壁を蹴飛ばしていると

お地蔵さんがすうっと目の前に現れました。

男がびっくりして眺める前で

お地蔵さんは大きく大きく大きくなって

男を腕の中に抱き上げました。

男は逃げ出そうとしましたが、赤ん坊のように手も足も出ません。

「こんなところにいたら、危ないところに落ちてしまう。

もっと安全なところに連れて行ってあげましょう。」

お地蔵さんはいくつかの部

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